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第14話・火星よいとこ一度はおいで? いやいや、貴方は来てはいけない。

 陣内家法要の翌日に、八雲は東京の丹羽と打ち合わせを行った。

 その内容は、長野県小諸市にある陣内家の屋敷に転移システムを設置する件について。

 丹羽が調べたところでは、現在使用している転送システムの使用上限回数はあと5回。

 今回の火星帰還と家族を地球に送り返すので2回消費するので、あとは移民船の倉庫に収納されているであろう魔素触媒と、未稼働状態の転移システムでどれだけ地球と行き来できるのか詳しい回数について調べる必要がある。

 だが、それについてはすでにフラットがチェック済みであり、魔素触媒だけでもあと400回分ぐらいは残っているという事、未稼働状態のシステムについては魔素触媒が組み込まれていないため、現在稼働しているものがもっとも安全であろうと推測できるなどの報告を八雲たちは受けたのである。


 そして丹羽の盆休みに合わせて陣内家に転移システムを設置すると、八雲の両親と兄、そして妹、祖父母、そして詩音と丹羽の合計8名が今回の火星旅行のメンバーとなったのである。

 その他、最後までずるずると残っていた親族たちも火星旅行は興味津々であったのだが、祖父の【まずは本家ゆかりの者】という言葉に圧倒されてやむなく断念。


 こうして風祭家と陣内家祖父母、詩音と丹羽は火星のドーム都市に転送されると、そっそく宿屋と化した風祭邸へと移動。

 特に観光地のあるわけでもない火星へとやって来たのである。


「……温泉はないようじゃな」

「お土産物やさんもないですわね」

「まあ、火星は僕の家だからさ、家に観光物産店とかは置かないでしょ?」


 それぞれ割り当てられた部屋に荷物を置いたのち、客間に集まってこれからどうするのか思案。

 祖父母としては、温泉街の延長のようなものと思ってきたので多少はがっかりしていたものの、八雲邸の大浴場は魔素が含まれているため、温泉のような健康効果はあるだろうと八雲から説明を受ける。


「あとは……おみやげ……は、あ、こういうのはどう?」


 アイテムボックスの中から、異世界から持ち帰って来た『がらくた』のようなものを取り出して並べていく。

 どれもこれも、迷宮踏破時の報酬であったりドラゴンの巣に溜められていた財宝だったりと、価値としては計り知れないものばかり。

 その中から害の無い物で、且つ地球人でも使えそうなものを選別してテーブルの上に並べると、一つ一つ説明を始めた。

 ちなみに兄の凰稀おうきと妹の静香しずか、丹羽の三人はセネシャルによって巨大移民船ツアーに向かい、詩音はドーム内をのんびりと散策している真っ最中。

 彼女にはフラットが付き従っているため、万が一の際にも対処可能という事でまかせたまま。

 つまり、今の客間には祖父母と両親のみが残っていたのである。


「ふうん……まあ、この電気の要らない明かりは便利だから、これを貰っていいか?」

「俺はこの火が付く石だな。ライターもいらなくなるから便利なのと、火力の調節が簡単にできるのがいい」

「ほいほい、じいちゃんと親父はこれとこれ、。それでばあちゃんと母さんはどすするんだい?」


 一つ一つ手に取り、興味津々に眺めている母と祖母を見て、八雲は問いかけてみるのだが。

 魔導具と言われても、母と祖母は今一つピンと来ていない。

 マジックアイテム、魔導具、アーティファクト、様々な呼び方で説明するものの、文明を知り尽くしている母と、逆に最低限の文明があればいいと考えている祖母にとっては、なんの見返りも必要のない魔導具が今一つ理解できていない。

 そのため、次に八雲が地球に戻ったとき、二人の要望を聞いて家財道具を魔導化することで話は解決した。


「つまり、かあさんは冷蔵庫とテレビを魔導具化してほしいと。ばあちゃんは……アイロン?」

「あと、雪かきの時とか、どうも腰に来ることが多くてね。塗り薬か何かあれば助かるのですけれどねぇ」

「ある、それならあるから、ちょっとまって……」


 アイテムボックスの中をチェックして、過去に自分が作った魔法薬を取り出す。

 魔法薬は液体であるため、今一度錬成魔法陣で再構成し、軟膏状に作り替えたものを祖母に手渡す。

 元々は万能薬であったため、腰痛肩こり程度は一瞬で解消できる者なので、予備も含めて3つ用意すると、きれいな水晶のケースに納めて、それを手渡した。


「ただいま……って、何これ、お店でも開くの?」

「ちっがうから。あっちの世界で手に入れた魔導具……と、マジックアイテムだから」

「ふぅん、いまいちよく分からないけれど、すごいんでしょ?」

「まあね、ちなみにこの剣は……」


 詩音が興味を持ったので、八雲は再び説明を始めるのだが。


「つまり、この短剣はゴブリンを一撃で殺せて、こっちの籠手は稲妻を無効化するのね。でも、

でも、地球で使い道ってあるの?」

「……籠手はあるようなないような……短剣は意味がないよなぁ」

「こっちの姿を消す指輪なんて、犯罪に使われる可能性もあるし……この魔法薬なんて、薬機法違反になっちゃうよ? 絶対に販売したら駄目だからね? まあ、身内にあげる程度ならいいとは思うけれど」


 薬品の無許可製造という時点で薬機法違反ではあるのだが、そもそも魔法薬の原料や主成分の開示から始まり、製造方法、あげくには治験データなど取ることは不可能。

 すべてが未知のデータであり『魔法』という常人では理解の及ばない存在なのである。

 そして未知の存在については、日本は『認可』などは絶対に行わないため、薬機法違反となるのは確定であろう。


「そ、そうか……まあ、それなら身内だけで……詩音もいる? こっちの液体タイプなら、化粧液の代わりになると思うけれど? 美肌・肌細胞の活性化、魔素吸収による老化防止って感じの効果はあると思うけれどさ」

「そ、そうなの……じゃあ、八雲がどうしてもっていうのなら、一つだけ」

「あらあら、お母さんは二本くらい欲しいわよ?」


 さすがに老化防止と美肌効果があると聞いて、黙っている女性はいない。

 もっとも、祖母はすでに軟膏を受け取っているため、その場から席を外してフラットと共に夕食の準備を始めている。

 そして母も魔法薬を受け取る約束をしたのち、夕食の準備に合流。

 夕方ごろには移民船観光ツアーから丹羽たちも戻ってきたため、楽しい晩餐会が始まったのである。


………

……


――そして夜 

 それぞれが部屋に戻り眠りにつき始めたころ。

 丹羽と八雲、セネシャルの三人は客間に集まっている。

 昼間の観光の際、丹羽は艦橋区画でレーダーが捕らえた謎の波長について、セネシャルに調査を依頼した。

 そして皆が八雲邸に戻ってからも、セネシャルは移民船で波長についての詳しい解析を行い、ようやくその正体が判明したのである。


「……オーバーウォッチの無人探査機か」

「ああ。セネシャルが知っているタイプの探査機らしいから、間違いはない」


 謎の波長の発生地点は、木星の公転軌道上。

 つまり、その地点に超空間転移ジャンプしてやってきたのである。

 しかも、ジャンプ後はまっすぐに火星へと進路を切り直したという。


「概算では、無人探査機とかせて殿距離はおおよそ4.125天文単位、おおよそ6.1億キロメートルといったところでしょう。現在、移民船の高感度センサーで追跡調査を続けていますが、火星へ到達するまでは大体、460日前後かと……」

「随分と、遅いような気がするんだけれど」

「違う、早いんだよ。木星と火星の距離がどれだけ離れているか、八雲は分かっているのか?」

「さっきの話では、4.125天文単位って話していたけれど。それって直線距離でどれぐらいなの?」


 一天文単位は、おおよそ1.5億キロメートル。

 つまり火星と木星の距離は6億キロメートル前後であり、さらに二つの惑星の公転距離と位置によって大きく前後する。

 先ほどのセネシャルの説明は、今現在の二つの惑星の公転位置からの算出であり、さらに誤差が生じて来るのである。


「問題は、オーバーウオッチの無人探査機が火星に近づいた時です。恐らくですが、無人探査機はこのドーム都市を発見するでしょう。そして大型移民船もセンサーで発見されたとなると、次にやってくるのは【オーバーウオッチの侵略艦隊】です」


――ゴクッ

 八雲と丹羽、二人が息を飲む。

 二人を含めた勇者たちでどうにか退けることが出来たのが、その侵略艦隊の一つである。

 また同じ規模の侵略艦隊が太陽系にやって来た場合、最悪は惑星の二つや三つは吹き飛ばされてもおかしくない。

 それほどまでに、敵は強大なのである。


「そうなると? 僕たちでまた侵略艦隊を退けないとならないっていう事なのか?」

「そうなるが……その場合、敗北は必至だ。今の俺たちは、神の加護を受けていないからな」

「ああ、そういうことか……」


 異世界召喚時に得た神の加護、それは異世界を救い、報酬を得た時点で失われている。

 もっとも、神の加護が無くても勇者たちは化け物級の実力は得ているのだが、それだとやや不利であろうと丹羽は試算した。

 そして八雲としても、今更戦争など御免被りたいので、どうにか発見されないような対策を練る必要がある。この日は、これ以上の策は出て来なかったため、翌日以降の相談という事で二人は眠りにつくことにした。

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