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第13話・幼馴染さん、いらっしゃーい。どこに?

 陣内家恒例のお盆法要。


 午前中は本家と分家及び陣内家にゆかりのある人たちか゛参加しての法要が行われ、午後からは地元近隣の人たちがやって来て、陣内家先祖代々の供養のために手を合わせにやって来る。

 来客全てにお供え物の返礼品を渡すため、幾つもの部屋が紙袋に占拠されている。

 そして陣内家の男性陣は、その返礼品を手に来客の間を右往左往している状態であった。

 女性陣はというと来客へのもてなしのため、飲み物や菓子、軽食などの準備で慌ただしくなり、子供たちもまた手伝いのために走り回っているという状況に陥るのだが。


「こちらの荷物は玄関横の和室へ。そちらのいらっしゃる橘家の当主さまのお渡ししてください。こちらは奥の間へ、ここからここまでは広間で飲食している方々へ……」


 荷物が置かれている部屋で、フラットがてきばきと荷捌きの指示を飛ばしている真っ最中。

 八雲の家族や親族がゆっくりできず、接客に追われているのを見かねたため、八雲に許可を取って手伝いを開始したのである。

 いくつかの部屋に置かれていた荷物は全てアイテムボックスに保管し、リストを見比べながら必要量を取り出してはそれを運んでいくように指示を出していた。

 これにより、例年なら夕方まで一族郎党が走り回るという状況から、午後の来客については玄関横の受付で全て賄えるようになったのである。


 本来ならば、すべて業者に手配したりアルバイトを雇えば楽な作業なのであるが、これも陣内家の家訓の一つ。来客をもてなすのは家主の仕事という先祖代々の言い伝えを忠実に守り続けていたのである。


 そしてフラットがてきぱきと作業をしている最中、八雲はというと親族全員が集まっている大広間に顔を出し、ことのなりゆきについて説明。


 異世界にいったこと、その結果として世界を救ったこと。

 大賢者となり様々な魔術を修得してきたこと、魔導具を自在に作り出せることなども説明。

 そして、異世界を救った報酬として火星を貰ったことについても説明すると、流石は神の力である【必然】。

 陣内家の一同は、八雲の言葉を素直に受け止めると、表に出してよい情報、駄目な情報の話し合いを開始。八雲本人はというと、その光景を座ったまま眺めつつ、時折やってくる質問に答えを返すだけであったのだが。


「それで、どうして私まで巻き込んだのかしら?」


 八雲の隣の席では、近所の幼馴染である柊木詩音がため息をつきつつ、そう呟く。

 彼女の実家は陣内家ゆかりではないものの、先祖が陣内家に仕えていたということで今でも交流があり、このような年次行事の際には手伝いという事で帰省していたのである。

 そして陣内家のみの秘密会談であるにも関わらず、八雲の祖父に促されてここに座らされると、八雲の説明に補則を加えることになっていたのである。


「さぁ? じいちゃんにも何か考えがあるんじゃないのか? まあ、僕としては詩音が一緒にいるっていうだけで嬉しいけれどね」

「はいはい、ありがとうございます……って、そういえば、どうやって火星から帰ってきたの? あの丹羽さんとかいう人に地球まで送って貰ったの?」

「まさか。流石に丹羽さんでも無理だったよ。まあ、ちょっと色々とあってさ、巨大宇宙船が手に入ってね……それに転送システムが積んであったので、それで帰って来れたんだよ。いやぁ、本当に今回はぎりぎりだったよ……と」


 笑いながら呟いている八雲だが、詩音が問いかけたあたりから親族は八雲の言葉に耳を傾けていた。

 最初の説明では巨大宇宙船についての説明が無かったので、それはなんだという問い合わせが殺到するものの、それについてはまだ秘密ということで八雲は固く口を閉ざしてしまう。

 それなら仕方がないと、親族はまた集まって話を始めたのだが。


「そうだ、親父たちと詩音も、一度、火星に来てみるか? 転送システムの使用回数に限りがあるし定員もあるから、そんなに大勢は連れていけないけれどさ」

「ん~、それって安全なの?」

「まあ、人体実験は終わっているから大丈夫だと思うけれどさ。と、そうだ、どうせなら明日にでも行ってみる? 親父たちも盆休みだから時間は取れると思うし、客間もあるから泊っていけるけれど?」


 まるで『温泉に一泊』のノリで八雲は話しているのだが、行き先がまさかの火星であること、しかも地球から転送システムという未知の技術で移動するという事実に、詩音はこめかみに指をあててしかめっ面をしてしまう。


「あのねぇ……八雲、あなた異世界で賢者になって帰って来て、常識を置き忘れてきたんだじゃないの? 普通さ、火星に泊まりに来いなんて言わないのよ? 私たち一般の人にとっては、火星なんて夢の世界だからね?」

「じゃあ、詩音はこないのか?」

「うん。どうしようかなぁ。お父さんたちに許可が取れたら、行ってもいいけれど」


 腕を組んで唸り声を上げている詩音ではあるが、八雲に誘われて嬉しくない筈がない。

 そもそも幼馴染であり、なおかつ陣内家と柊家当主同士が決めた許嫁なのである。

 そして詩音もまた、八雲に対しては幼いころから彼を慕っていたのであるから、誘われたら嬉しいに決まっている。

 それでも、八雲の前ではしっかりとした女性でありたいという願望から、このような態度を取ってしまっていた。


「それじゃあ、僕が聞いてこようか?」

「そんなことしたら、二つ返事で送り出されるわよ……いいわ、行ってあげる」

「よし、決定。それじゃあ法要全て終わったら、日時について連絡するからさ。よーし、客間の準備とか、足りないものを用意しておかないとな」


 善は急げと、八雲はスマホを取り出して火星のセネシャルに連絡を入れる。

 そして最大10人前後で火星に帰ること、数日は家族が泊まる事などを伝えたのち、足りないものがあったらメールで連絡してくれるように頼んでいた。

 この情報はセネシャルからリアルタイムでフラットにも伝えられ、陣内家の玄関受付で仕事をしていたフラットもまた、忙しくなりそうだと気合を入れることとなったのはいうまでもなく。


 そして法要が全て終わり、親族が帰っていった4日後の昼。

 急遽、長野まで出張でやって来た丹羽が陣内家の中庭に転移システムを設置すると、八雲の家族と祖父母、そして詩音と丹羽というメンバーで、火星のドーム都市への転送を行った。


 だが、この様子を隠し撮りしていたとある報道機関により、この後とんでもない騒動に巻き込まれることになるとは、八雲もまだ予想をしていなかった。

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