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第11話・巨大移民船と転送システム

 パンテラール種の遺体を天に送り届けてから、数日後。


 セネシャルとフラットは、八雲の頼みで巨大移民船の調査を続行。

 幸いなことに二人も興味津々、船体構造をはじめ、航法プログラムを始めとした制御システムから生命維持装置の解析などを開始。

 また、船内倉庫区画に存在する様々な物品を分解解析しては、それらのデータを逐一八雲へと報告していた。

 そして八雲はというと、この巨大移民船について、今後はどのようにするべきか模索を続けた結果、外部の人間の意見も取り入れるために、地球から大魔導師・丹羽を呼び寄せることにしたのである。

 幸いなことに、大賢者である彼自身は『空間術式』についての知識もあり、空間系禁忌魔術とも契約を施しているために単独での転移は可能。

 そのために必要な座標を設置するための魔導具は八雲が用意し、ついにその実稼働実験を始めることにしたのである。


「よし、この火星の位置でこの時間なら、魔力波長が最も安定している。あと2分で転移可能だと思うけれど、そっちの準備は?」

『とっくに終わっていますよ。まあ、色々と預かりものもしてきたので、それも含めて持っていきますから……と、では、こちらは術式の展開を開始します』


 スマホで連絡を取りつつ、火星のドーム都市に存在するエクスマキナ型生命維持機関から発する魔力波長をビーコン代わりに使用し、それを辿って座標軸を設定、安定させるという。

 そのため目の魔導具はすでに完成し、エクスマキナに搭載を終えている。

 あとは、時間を待って移動してくるだけ。

 もっとも効率よく魔力波長を注げるのは、火星と地球が大接近する8月20日。

 この日を基準に前後すればするほど火星と地球の距離は遠くなり、エクスマキナから発する魔力波長も届きにくくなる。

 最も離れる小接近時は魔力波長が途切れてしまう恐れがあり、安定して魔力を繋げられる日は大体5月31日から11月11日前後であるとセネシャルも推算してくれたという。


「さて。それじゃあこっちは待機していますか……と」


――ブゥン

 ドーム都市の中心、エクスマキナ型生命維持機関の正面広場に巨大な魔法陣が展開する。

 これが丹羽の発動した転移術式の端末部分であり、ここに魂を持ったまま彼が転移してくる。

 そして八雲がカウントダウンを開始した直後に、スーツ姿の丹羽が魔法陣の中心に姿を現した。


「……ふむ。どうやら問題なく転移したようですね。しかし八雲くん、相変わらずだらしないというか、マイペースというか……」


 丹羽の目に移ったもの、それは見たこともないドーム都市の内部。

 丘の上に立つモノリス魔導具状魔導具エクスマキナと、その手前でスェット姿で胡坐をかき、ポテトチップスを食べている八雲という、おおよそ火星に足を踏み入れた人類の見たかった光景ではないだろう。


「まあ、丹羽さんも相変わらず、しゃきっとしているというか、びしっとしていますね」

「そもそも、君がだらしないおかげで、私がどれだけ地球で苦労していると思っているのかね。あの大量の貴金属の両替をはじめ、大学での手続き関係まで私がやらされる羽目になるとは思っていなかったよ。まあ、君が火星に住んでいるという事を大学側も理解してくれたうえで、地球・火星間のオンライン授業という実験的なことをだね……」

「はいはい、それ以上はいいからさ。全面的に俺が悪かったから」


 くどくどと説教を始めた丹羽に近寄り、両手を合わせて頭を下げる八雲。

 異世界でも二人の関係はこのような感じであったので、もしも勇者たちがここにいたら『また始まったか』と眉根をひそめ、呆れていたことであろう。


「それで、私に見て貰いたいものというのは?」

「それじゃあ、さっそくいきましょうか……と、その前に、この腕輪を装備しておいてね」


 火星の外界でも生身で活動できるようにと作られた『外界環境適応腕輪』を丹羽に渡すと、八雲はさっそく彼を地下ケーブルを伝って北部ゲートへ移動、そこで待機させていた六輪装甲車で一路、巨大移民船へと向かっていった。


………

……


――巨大移民船・艦橋部分

「なるほどねぇ……確かに、地球外星人の移民船というのも頷けます」


 艦橋区画で、フラットが設置した外部コンソールを操作しつつ、丹羽がモニターに映し出された画像を眺めて納得している。

 彼は異世界転移した際に『果て無き叡智』という加護を授かっているため、物質の解析・解読作業はお手の物である。しかもフラットが作り出したコンソールから閉鎖区画で眠る魔導頭脳へ術的にアクセスし、艦内全てのシステムを完全に掌握したのである。

 オーバーウオッチによって作り出されたセネシャルとフラットでも、そこまでの高度な解析は不可能。彼の横でサポートを行っているのが限界であった。


 現在、この移民船は丹羽の意のままに自由に操ることが可能となったのである。


「な。これってもう動かせるんだけれどさ、肝心の魔導頭脳が休眠状態で船のコントロールができないんだよ。丹羽さんなら、なんとかできるかなと思ったんだけれど」

「そうですね。魔導頭脳のデータについてはほぼ解析は完了。八雲くんなら、一から作り出せるとは思いますし、その方が早いかもしれません。ですが、君はこの移民船を稼働させて、何したいのですか?」


 そう問われて、八雲はふと我に返る。

 そもそも、この移民船を動かせないかと考えた理由は、地球へ向かうための転移術式の構築が思うようにはかどらないから。

 そのため、移民船の事聞いた時は、これで地球にいけるのではとも考えたのである。

 事実、動力関係についてはほぼ修復は完了しているのだが、このような巨大な宇宙船をセネシャルとフラット、そして八雲の三人では動かすことなど不可能。

 体のサイズも異なり過ぎているため、どうしても手が足りなくなってしまう。


「ん……と、お盆には地球に行かないとならなくてさ、これで行こうかなって」

「そして、地球の関係各国に興味を持たれてしまい、最悪はこれを奪われるか、君が火星に戻る際に無断乗船された挙句、火星の秘密まで奪われる可能性もある……と」

「あ、やっぱりそうなります?」


 テヘヘと頭を掻きつつ、八雲が申し訳なさそうに呟く。

 その姿を見て丹羽もため息をつくと、コンソールを再度操作し、艦内の倉庫区画の一部を映し出した。

 そこには、大きなドーム状の物質が幾つか写し出されている。

 最小のものは直径3m、最大のものは10mはあるだろう。


「では、この一番小さい端末を、私が地球に持ち帰ります」

「へ? これってなんです?」

「この船の関係者が搭載していた、惑星間転送システムですよ。地球と火星、その二か所にこれを設置しておけば、今の私たちが抱えている『空間転移術式の組み換え』など必要なく、超科学レベルで生命体を転送できると思いますよ」


 丹羽がモニターアップしたのは、パンテラール種が作り出した生体転送装置。

 惑星降下船などで目的の星に着地したのち、この転送装置を使って資材や調査員を送り出すというシステムであろうと丹羽は推測していた。

 事実、この転送装置を使ったと思われる痕跡、その報告書なども発見したことから、丹羽はこのシステムを使えば地球と火星を自由に行き来できると考えたのである。

 幸いなことに魔導機関を用いたシステムであったため、エクスマキナと連携させることで操作は可能。

 あとは何度か実験を行った後、八雲本人が来たらいい。

 そう説明を終えると、目をキラキラとさせている八雲とフラットの二人が、パチパチと拍手を始めていた。


「すっげぇ、流石は丹羽さんですよ、叡智の探究者という称号を持っているだけのことはありますね」

「あのなぁ……その私よりも博識である君が、どうしてこんなことまで想像できないのかね?」

「はい、八雲さまは、それはもう怠惰な生活を送っておられます。あの異世界での闘いの日々を忘れるべく、いまは余計なことには顔をつっこみたくない、それでいてのんびりと楽をしつつ生活したいと考えていらっしゃいますので」 


 丹羽の鋭いツッコミにフラットが補足を加える。

 ちなみに八雲は決して馬鹿ではない。

 今は探求心よりもものぐさな部分が勝っているだけであり、移民船を発見した当初から今日までも、ずっと船内の調査などは行っていた。

 ただ、あまりにもこの船が大きすぎたことと、大魔導師である丹羽が魔術により船内スキャンを一瞬で終わらせることが出来たという事実が、彼の思考をなんとなく弱めていたのである。


「はぁ……この程度の船の魔力スキャンなんて、君でもできるはずでは……と、そうか、空間術式がネックでしたか」

「そうなんですよ。普通にあっちの世界の城塞や王城程度なら、魔力スキャンで内部構造も、それこそ設置されている魔導具のマスターコントロールまで支配することぐらいはできるんだけれどさ……こう巨大すぎる構造物で、しかもマスター権限を持っている存在が休眠しているとなると、俺じゃあ太刀打ちできないのよ」

「まあ、それについてはおいおい考えてみるとしましょう。それよりも、地球に向かう方法については、先ほどの空間転送装置を持ち帰って実験してみることにしましょう」


 そう告げて、丹羽は足元に転移魔法陣を形成すると、転送システムの収めてある倉庫へ一人で転移し、いくつかの転送システムをアイテムボックスに保管。そして再び艦橋へと戻ると、八雲に一言だけ挨拶を行い、地球へと単独で転移していった。

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