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第6話・実家と家族と、恒例行事?

 幼馴染の詩音から電話がきた翌日。


 長閑な朝食のあとの、のんびりとした時間、またしても八雲のスマホが鳴りはじめる。

 それも数回なった程度で切れると、また次の呼び出しがかかるといった感じで。

 一体何事かと着信履歴を調べてみると、大半はし大学の同じゼミの連中。

 LINEにも連絡が届いていたので確認してみると、どうやら友人たちもテレビのニュース番組でインタビューされたらしく、しかも、その場で八雲に連絡を取って欲しいと頼まれたらしい。

 それで仕方なく八雲に電話をしていたのだが、繋がらなかったのをいいことにインタビューには断りをいれて早々に退散。そののち、以後はプライベートなやり取りは電話じゃなくラインでするから勘弁してくれという謝罪の文章が、八雲の元に送られてきていた。


「ははぁ……そりゃあ、俺と話をしたいっていうのは分かるけれどさ……と、おや?」


――チャーンチャンチャンチャンチャンチャラララ~♪

 再び応接間に、着メロが鳴り響く。


「この音は純一郎じいちゃんか……もしもし」


 躊躇なく電話に出ると、予想通りの祖父、陣内純一郎からの電話である。

 昨日は慌ただしく電話を終わらせてしまったため、今日は場所を変えてゆっくりと話をしたいと思い、連絡を入れてきたのである。


『おお、昨日はすまんな。今は自宅にいるのじゃが、スピーカーに切り替えても構わんか? ここにいるのは清秋せいしゅうくんと綾香あやかだけじゃから』


 風祭青洲は八雲の父、そして風祭綾香は母である。

 兄と妹がいないのは不思議だと思いつつも、そもそも兄は仕事中であるし妹は高校。

 そりゃあいるはずがないと八雲も納得しつつ、スピーカーに切り替える許可を出した。

 そこからは、両親の心配そうな声と質問のラッシュ。

 止む無く、昨日詩音に話したような答えで茶を濁す。

 どうせあとからばれても面倒だと思い、秘密厳守ということで八雲は全てを説明した。

 神に召喚されて異世界に行ったこと、そこで侵略国家という敵性存在と死闘を繰り返し、世界を守ったこと。

 そしてその報酬として、火星を貰ったことなど。


 最初のうちは色々と質問を返されてしまったものの、後になっていくにつれてツッコミの言葉もなく、淡々と八雲の説明で全てが終わった。


『……なんというか。まあ、成人なのだから、なにかあっても自己責任で処理できるのなら、とやかくいうつもりはないが。まさか、息子が大賢者とはねぇ』

『ねぇ八雲? 最近ね、おばあ様の腰の調子がよろしくないのよ。そういうのって、大賢者の魔法で直せるの?』

「その程度なら大丈夫だとおもうよ……と、でも、地球に帰る方法がまだ分かっていないからさ、それが見つかってからという事で」


 未だ、魂を持つ生命体の転送については成功結果はでていない。

 そもそも、理論は完成しているのだが、人体実験を行う勇気がないのである。

 仕方なく、疑似的な魂を組み込んだホムンクルスを生成して実験してみようという話にはなっているのだが、その肝心のホムンクルスの生成が成功していない。  

 まあ、そんなことは両親に説明する必要が無いため、八雲も適当にウンウンと返事をして誤魔化していたのだが。


『それで、お盆にはかえってこれるのか?』


 祖父・純一郎の静かな問いかけが聞こえてくる。

 お盆の帰省は、風祭家恒例。

 親戚一同が本家に集まり、先祖の供養をするのだが。

 今は6月、あと2か月でどうにか『生体転送魔法陣』を完成させなくてはならない。


「いや、さっきも説明したけれどさ、地球へ帰る方法がまだなくてね。今、それを必死に研究しているから、帰れそうだったらまた連絡するよ」

『うむ。それじゃあ連絡を待っているぞ』

「うん。あと、俺の連絡先って非公開にしておいて。俺の登録している相手なら出るけれど、それ以外は全て留守電にしておくから。それと、太蔵にいさんと彩夢あやめにも、一通り説明しておいてくれると助かるんだけれど」

『うむ。それはわしから説明しておこうじゃないか。それじゃあまたな!!』

「うん、親父もおふくろも、じっちゃんも体に気を付けてね」


――ガチャッ

 神の『必然』の効果なのか、祖父を始めとした八雲の家族は彼の言葉を全面的に信頼していた。

 だが、その効果も八雲からの『縁』が離れるほどに、希薄になっていく。

 それでも関係者に対しては絶大的な効果を発揮するため、宇宙関連機関は全面的に八雲の権利を認めるという一点張りである。


「……う~ん。火星の件、予想外に早くバレたと考えていいのか、それとも今頃かよと突っ込んでいいのか。悩ましいところだなぁ」


 ソファーに胡坐を組むように座り、腕を組んで苦笑する八雲。

 その姿を見て、フラットもまた口元に手を当てて笑っている。


『そうですね、いずれにしても、この火星はご主人様の所有物です。これは神が定めた決定事項ですので、覆すことはできません』

『フラットのいう通りです。それでもこの火星の所有権を主張するものが出てきましたら、その時はわたくしめにお任せを……原子レベルで分解して見せます』

「ああ、そういうことだよね……ってうぉい!! それ駄目、暴力に訴えるのは最後の手段。でも、可能な限りは話し合いで解決、いいね?」

『『かしこまりました』』


 突然の、二人の過激な発言に手を振って止めると、八雲はフレイアが持ってきたコーヒーを受け取り喉を潤す。

 そして改めてインターネットを調べてみると、八雲の火星所有権について様々な議論があちこちで行われていることに気が付いた。

 特に、『火星を誰から貰ったのか』と『どうやって火星に住んでいるのか』という二点ついては、さまざまな方面の専門家も頭を悩ませている最中であり、SNSを始めとしたサイトでは日夜、様々な憶測が飛び交っていた。

 特に『誰から貰ったのか』という点については、あちこちで論議されていたものの、自然とその話題は消滅している。

 これも神の与えた『必然』の効果なのか、それともその問題点は解決しないと誰もが思い、話題を変えているのか、それについてはまったくといっていいほど定かではなかった。


 いずれにしても、八雲が火星の所有者であるという事実は、一瞬で地球の全域に浸透し、大きな騒動となってしまったのである。


………

……


 八雲がスマホで家族会議まがいのことをしていた翌日も、彼の所持しているスマホが、ひっきりなしに鳴り響く。未登録者からの連絡は受け付けていないため、今かかってきているのは全て『電話帳』に登録されている人たちから。

 留守電を確認しても、八雲が火星の所有者という事を聞いて連絡をくれた人たちばかりであり、とくにマスコミ関係者からというものはない。

 ただ、両親からは『お盆に帰省したときに、改めて詳しい話をするように』という一言が添えられていた。

 これは親族一同が集まっての法要での説明をということらしく、八雲の親族という事でインタビューを受けている人たちも大勢いるらしく、親族一同、本人から詳しい説明をしてほしいという話であった。


「はぁ。詳しい話と言ってもねぇ……大体のことは、昨日話したと思ったんだけれどなぁ……それで、今日は何かあったの?」


 昼食を終えて応接間でノンビリとくつろいでいると、セネシャルがスッと近くへやってくる。

 特に用事が無い場合、セネシャルはドームの管理のために八雲の元を離れていることが多いのだが、今は八雲の元にやって来て話を始めていた。


『はい。実はご相談がありまして』

「相談? 何かあったの?」

『ええ。実はですね……』


 セネシャルの相談は、八雲にとって実に興味深いものであった。


『実はですね。このドームから少し離れた場所なのですが、アメリカの火星無人探査機が座礁しておりまして。過去に着陸に失敗したものとか、バッテリーが切れてしまい稼働できなくなったものなどがあちこちに存在てします』


 それらのものを回収し、研究したいというのがセネシャルの話であり、八雲もこの話を聞いて腕を組み思案を始める。

 所有者のはっきりとしたものであり高額な探査機器、だが、すでに打ち捨てられているものも多数存在しているということを考えると。


「廃棄物なら、別にいいんじゃないかな? 拾ってきて研究したいんでしょう?」

『はい、よろしいでしょうか?』

「まあ、火星の地表を掃除するついてにということで、いいんじゃないかな。あ、実稼働しているものはそっとしておいて構わないからさ」

『ありがとうございます。では、さっそく作業を開始しますので』

「うん、気を付けてね~」


 右手をヒラヒラと振ってセネシャルを見送る。

 それと入れ違いにフレイアが部屋にやって来て、夕食に何か希望はありますかという話をはじめると、あとは他愛のない日常が訪れ始めた。


 もっとも、地球圏ではこのあと、とんでもない騒動が発生するのであるが。


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