目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
第2話・生活基盤について考えてみようか。

 火星・ドーム状都市。


 その中にある純和風家屋。

 そこが風祭八雲の生活拠点。

 数寄屋住宅すきやじゅうたく造り、敷地は生垣によって囲まれており、非常に広い庭を持つ住宅。その中を八雲はノンビリと散策し、部屋の間取りや備え付けの備品などについていろいろと調べている真っ最中。

 神から与えられたものではあるが、どこまで自分の理解の範疇なのか、まともに扱えるのかという部分を徹底的に調べていた結果、二時間もすればおおよその使い方などについては理解できた。


「応接間、書院、奥の間……庭の向こうに土蔵と、離れにあるのは使用人の家か」


 純和風ながら、応接間が洋室のように作られているのがいい。

 自室らしい部屋にはしっかりとベッドまで据え付けられており、建物の外観こそ和風でありつつも、部屋の作り、特に自室については地球の自宅、一人暮らししていたアパートの一室をしっかりと再現されていた。

 箪笥の中の着替えから始まり、パソコンデスクやゲーム機器、漫画・雑誌の類に至るまで。

 そこまで再現しなくてもと苦笑しつつ、八雲は久しぶりの自室に入っていくと、ベッドに体を横たわらせて体を伸ばした。


「うん、置いてあるものまで全て同じなんだけれどねぇ。神様も、そこまで再現してくれなくてもいいと思うんだけれどねぇ……」


 机の上に置いてあるパソコンを起動。

 そもそも光ケーブルなど火星まで伸びているはずもなく、起動してもインターネットにアクセスできる筈もない。ただ、15年ぶりに触るパソコンの感触が、その画面が懐かしい……と思っていたのも束の間。画面右下のネットワーク表示は、明らかにインターネットにつながっていることを示している。


「……ん? インターネットに繋がっているし。そもそも、どうやって繋がっているんだ?」


 そう頭を傾げつつ設定を色々と弄って見た結果、インターネットはモノリスを介して地球に接続しているらしいことが判明。ややタイムラグは発生するものの、地球の情報についてはこれで入手することが可能であることが理解できた。


「ははぁ、なるほどねぇ。どうやらネットには普通に繋がるし、映画やテレビも見放題……と、流石に契約しているアプリだけか。まあ、地球の環境と同じと思えば、特に問題はないということだよなぁ……」


 室内を物色してみても、やはり地球の彼の部屋と全くおなじ。

 違う点は、部屋から出てもアパートの外には出ることが出来ず、火星の自宅の廊下にでるだけ。

 室内環境のみが、完全に再現されているだけに過ぎなかった。


「……うーむ。アパートの家賃、ライフラインの支払いとかも大変だよなぁ。流石に、突然の失踪事件なんてことになったら、田舎の親父たちに何を言われるか分かったものじゃないな。大学は……まあ、休学にすればいいか。って、そもそも、どうやって連絡したらいいんだよ」


 火星で一人暮らし。

 そんなこと説明できる筈もなく、そもそも説明しようにもその手段がない。

 そう考えているとき、ふと、パソコンを見て思い出す。


「インターネット……繋がっているんだよな?」


 そっとポケットからスマホを取り出し、電話を試してみる。

 いきなり知り合いに掛けても不審者扱いされかねないし、そもそもそんなに友達もいない。

 電話でリアルにやり取りしている友人なんて、大学入学時に一緒に上京してきた幼馴染だけ。

 その幼馴染みも学部が違うため、連絡をやり取りことなどほぼなく、もっぱらSNSで連絡を取っている程度。


「う~ん、いきなり詩音に連絡するのもどうかなぁ……ということは、ここは一発、あいつに頼むか」


 幼馴染である柊木詩音ひいらぎ・しおんではなく、スマホに登録してある番号から、丹羽頼光にわ・よりみつという名前を選択。

 すぐにそこに電話を掛けてみると、3コールほどで相手が出た。


――ガチャッ

『もしもし、風祭くん? いきなり電話なんてどうしんだい? たしか火星を貰ったんじゃなかったっけ? まさか火星から電話しているの?』

「ああ……えぇっと、そうなんだけれどさ、今、火星から電話しているっていったら、信じてくれる?」


 電話の相手は、共に異世界を救った大魔導師の丹羽。

 東京在住の社会人で、ベテランSEである。


『うん? 火星から? ああ、電波を魔力変換して、地球まで飛ばしてきたっていうこと?』

「多分、そんな感じなんだと思う。それで相談なんだけれどさ」


 今の状況を一通り説明して、八雲はなにかいい知恵はないかと丹羽に問いかけていた。


『一番早い方法としては……ライフラインと家賃の全てを口座引き落としにしてしまう。当然、一人暮らししているだろうから、そのあたりはやってあるんだろう?』

「ええっと……ああ、そうだね。流石に振り込みで銀行やコンビニにいくのはちょっと……ねぇ」

『何が、ねぇ、なのか分からないんだけれどさ。それで、問題は貯金残高っていうことかな?』

「そ、そう。ほら、俺たちって金持ちじゃないか。あっちの世界でたんまり稼いでいたし、それこそマックバーンみたいに国家予算レベルで稼いでいたわけじゃないけれど、そここそにはアイテムボックスに入っているじゃないか」


 勇者のグラハム・マックバーンは、それこそ金稼ぎについても勇者レベル。

 アメリカの資産家でありいくつもの会社を経営していた彼にしてみれば、金稼ぎも冒険の延長のようなものであったらしい。

 そんな性格だから異世界を救った報酬に、さらに国家予算レベルの資産を請求したんだろうなぁと、八雲と丹羽は改めて納得していた。

 そして丹羽や八雲もまた、日本の年間予算案レベルには資産を持っている。

 もっともその大半は貴重な素材や魔導具であり、残りが異世界の通貨や日本でも換金可能な宝石貴金属である。


『まあ、ね。働かなくても生きていけるレベルでは持っているけれど。一度に大量に外には出せないけれどね』

「そそ、そうなんだよ。だからさ、どうやって換金したらいいのか分からないんだよ」

『ああ、そういうことか。火星から換金しに来なさいっていうのも問題あるだろうし、そもそも賢者って転移術式が使えないんだよね?』

「そうなんだよ。だからさ、知恵を貸してほしくて連絡したんだよ」


 そのまま淡々と、二人で対策を練る。

 結果としては、八雲が所有している貴金属を魔術で丹羽に転送。

 それを丹羽が貴金属取引業者を通じて換金し、税金と手数料を差し引いた金額を八雲の口座に振り込むということで話はついた。

 ついでに、手紙その他については丹羽に回収して貰い、魔法で火星まで転送して貰うことになったのだが、そのために北海道から東京まで彼に来てもらわなくてはならず、その分の旅費も八雲が支払うことで話し合いは決着した。


「……よし。これで地球での生活基盤を維持しつつ、稼いでの引きこもり生活を楽しめるっていう事だよなぁ……いっそ、大学もリモート参加させてもらって、単位もしっかりと取って置きたいところだよなぁ……」


 一番の悩みが解決すると、別の欲も出て来る。

 そして、今になってようやく心身ともに落ち着いたのか。


――グゥゥゥゥゥゥ

 と、八雲のお腹の虫が鳴り響いた。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?