少しして。
ようやく気を取り直した蒼真が、ソフィーに声を掛ける。
「そういえばさ」
「どうかしましたか?」
ソフィーはすぐさま蒼真の方へと顔を向けると、可愛らしく首を傾げた。
この辺りの仕草も、やはりティアナとそっくりだ。
「さっき魔物と戦ってた時なんだけど、弘祈のヴァイオリンが何かすごいことになってたんだよ」
「何かすごいことって、また雑な説明を……」
ソフィーの前で大げさに両手を広げてみせる蒼真を、弘祈が
「すごいこと、ですか?」
「うん、あれって何だろうと思ってさ。まるで魔法みたいだったんだよ。な、弘祈!」
蒼真は明るくそう言って、今度は弘祈の顔を見た。
すると、弘祈も蒼真の話に付け加える。
「確かにあれは魔法みたいだったけど、ティアナからはそんな説明聞いてなくてさ」
「ティアナが説明し忘れたとは考えにくいですから、何か想定外のことがあったのかもです。詳しく聞かせていただけますか?」
ソフィーの笑顔が真面目なものに変わると、蒼真と弘祈は一緒になって説明を始めた。
※※※
先ほどの戦闘中に弘祈のヴァイオリンが光ったこと。同じように蒼真の剣も光に包まれて強化されたこと。それらをかいつまんで説明する。
二人の説明を興味深そうに聞き終えたソフィーは、しばらく考えるような素振りをみせてから、おもむろに口を開いた。
「もともと、ヒロキ様の楽器はオリジンの卵に音楽を聴かせるためにあります。それ以外の能力はないはずなんですが……」
「俺の剣とは違うってことか?」
ソフィーの答えに、蒼真が腕を組んで唸る。
「ソウマ様の場合は騎士として必要な能力ですから」
「ああ、弘祈と卵を守って戦う可能性があったから、俺の指揮棒は武器なのか」
「そういうことです」
蒼真が納得すると、ソフィーもしっかりと頷いた。
確かに、ティアナからは『弘祈のヴァイオリンは武器にはならない』と言われていた。ということは、やはり指揮棒とヴァイオリンでは役割が違うのだ。
「じゃあ、さっきの魔法みたいなのはどういうことなんだろう?」
弘祈が謎だと言わんばかりに首を傾げる。
「これはあくまでも私の分析ですが、ヒロキ様の『ソウマ様を助けたい』という強い気持ちが引き金になって、
こういう例は初めて聞きましたけど、ソフィーは真剣な表情でそう答えた。
「僕が奇跡のようなものを起こしたってこと?」
「そういうことです。はっきりとはわからなくてすみません。でも、お二人の絆が引き起こしたものだとは思います」
弘祈に問われたソフィーが謝罪の言葉を紡ぐと、今度は蒼真が大声を上げる。
「絆ぁ!? 俺たちに!?」
「そんなものあったっけ……?」
蒼真に同意するように、弘祈も首を傾げた。
二人の様子を眺めながら、ソフィーが笑みを零す。
「ふふ、お二人ともとても仲が良さそうですから」
「どこをどう見たらそう見えるんだよ……」
「ホントにね」
蒼真と弘祈は互いに顔を見合わせて、大きな溜息をついた。
「こういうのって、本人たちだけがわかっていないものなんですよ」
ソフィーはさらに笑みを深めて、蒼真と弘祈を交互に見やる。
「そういうもんか?」
「そうですよ」
蒼真がまだ納得がいかない表情でソフィーの顔を見つめ返すと、ソフィーは微笑んだままで首を縦に振った。
ここまで言われては、とりあえず納得しておくしかない。
(確かに、この世界に来る前よりかはほんの少し、ホントに少しだけ仲良くなったかもしれないけど……)
蒼真はそう自分に言い聞かせて、この話を終わらせることにする。
「結局よくわかんないけど、弘祈のおかげで奇跡が起きて魔物を倒せたってことだろ? なら、それでいいや」
「そうだね。ソフィーにもわからないんだし」
納得することにした蒼真が頭の後ろで両手を組む。そのまま天井を仰ぐと、弘祈も同意して素直に頷いた。
『仲が良い』と言われて、弘祈がどう思ったかはわからない。だが、蒼真は口ではああ言ったものの、不思議とあまり悪い気はしていなかった。
この世界に来る前だったら絶対に認めていないだろうが、今は少しだけ認めてもいいかもしれない。そんなことを思う。
蒼真の心中を知ってか知らずか、ソフィーがさらに目を細めた。
「では、次に来られる時までに調べておきますね」
「いや、マジで次とかなくていいから! もう命がけで戦ったり、野宿したりするのは嫌なんだ! せめて観光だけにしてくれ!」
蒼真は顔を青ざめさせながら激しく両手を振って、懸命にそう訴える。
あまりにも必死な蒼真の様子に、弘祈とソフィーは顔を見合わせると、揃って笑みを零したのだった。