今回の曲も昨日と同じく、『タイスの
蒼真の両手の上で、徐々に卵の色が変わっていく。
青から白、そして最終的にはピンク色に変化したオリジンの卵に、二人はほっと胸を撫で下ろした。
弘祈がヴァイオリンを手から消したのを確認して、蒼真は弘祈の方へと歩み寄る。
「綺麗な色になったな」
「うん、よかった」
「ほら、またしっかりしまっとけよ。絶対になくすんじゃねーぞ」
そう言って、蒼真は卵の乗った両手を差し出した。
「わかってるよ」
だが、弘祈が苦笑しながらそれを受け取ろうとした時である。
オリジンの卵がするりと滑り落ち、二人は揃って「あっ!」と大きな声を上げた。
「おい、大丈夫か!?」
すぐさま蒼真がしゃがみ込んで、草の上に落ちた卵を丁寧に拾う。弘祈も一緒になって地面に膝をついた。
もし割れてしまったら、地球に帰れなくなるかもしれない。そんな嫌な考えが頭をよぎる。それに卵の中身も心配だ。
「大丈夫かな……」
不安そうに顔を青ざめさせた弘祈も、きっと同じことを考えたのだろう。
「ほら」
蒼真が拾った卵を改めて弘祈に渡す。もちろん、今度は落とさないようにしっかり気をつけてだ。
それから、蒼真と弘祈は卵の状態を確認し始める。二人であちこちの角度から細かく見ていった。
「割れてはいないみたいだけど……」
弘祈が言った通り、確かに割れてはいない。色がピンクから黄色に変化しているくらいで、そのことには安堵する。
「いや、弘祈よく見ろ。ここに小さな傷がある」
しかし、殻にはとても小さなものではあるが、傷がついていたのだ。
「……ホントだ」
弘祈が息を呑んで呟いた時だった。
何気なく蒼真の視界に入った弘祈の右手、その甲にあるものに蒼真は目を見開く。
「おい、その怪我どうした?」
「怪我?」
蒼真に指差され、弘祈は自身の手の甲に視線を移した。
そこには斜めに細い切り傷のようなものがついていて、薄くではあるが血が滲んでいた。怪我自体は特に酷いものではないが、少し痛そうに見える。
「さっきまではなかったよな?」
「うん、こんな傷なかったと思うよ」
弘祈が正直に答えると、蒼真は顎に手を添えてうつむいた。
しばしの間考え込んでいた蒼真だが、ふと何かに気づいたように顔を上げる。
「まさか、卵……? 弘祈、すぐに説明書出してくれ」
「わ、わかった」
弘祈は言われた通り、すぐさま
それをひったくるようにして受け取った蒼真がページをめくる。
あるページで手を止めると、声に出して読み始めた。
「『簡単に割れるようなものではありませんが、親として卵とリンクしている者は気をつけてください』って書いてある。きっとこれだ」
「つまり、卵に何かあるとその親にも影響するってこと?」
「多分そうなんだろうな。だからさっき卵に傷がついた時、弘祈の手にも傷ができたんだ。きっと精神的な繋がりはなくても、身体的には多少繋がってるってことなんだろ」
弘祈が首を傾げながら問うと、蒼真は真面目な表情で頷く。
今回は卵についたのが小さな傷で済んだおかげで、弘祈も大きな怪我にはならなかったのだろう。
だが、もしこれから先オリジンの卵が割れるようなことがあれば、その親である弘祈に一体何が起きるか。
それは蒼真に不穏なものを想像させた。
考えたくもないのに思わず最悪の事態を考えてしまい、途端に背筋に冷たいものが走るのを感じる。
ただの知り合い程度だから別にどうなろうと構わない、とはさすがに思えなかった。
蒼真は思わず両手で口を覆うと、浅い呼吸で息を呑み込んだ。
そんな蒼真の様子に、弘祈が不思議そうな表情を浮かべる。
「どうしたの?」
そのまま顔を覗き込んできた弘祈に蒼真ははっとして、すぐにいつもの笑みを貼りつけた。それは少し引きつっていたかもしれないが、気づかれないことをただ祈る。
どうやら、弘祈は最悪の事態についてまだ考えが至っていないようだった。
ならば、このことはきっと本人には言わない方がいい。
「いや、何でもねーよ。少し疲れたのかも」
「そうだね、蒼真はさっき戦ったばかりだもんね」
「ああ、だからちょっとだけ休んでもいいか?」
ごまかすようにそう告げると、弘祈は「もちろん」と素直に頷いた。