「それではソウマ様、右手をお出しください」
「手?」
蒼真はティアナの言葉に首を傾げながらも、素直に右手を差し出した。
その手をティアナの小さな両手がそっと包むと、突然のことに蒼真の心臓が跳ねる。自分とは大きさも肌の質感も全然違うことに、何となく緊張した。
しかし、蒼真のそんな心中を知る
魔法陣のようにも思えるそれを描かれた部分が、じわりと温かく感じる。
少しして、指を止めたティアナが蒼真の顔を見上げて優しく微笑んだ。
「ソウマ様はこれで終わりました」
「……ああ、うん」
解放された右手を持ち上げて、手のひらから甲にかけてしっかり丁寧に見回す。だが、特に変わっている様子はない。もちろん、手のひらにも何も描かれていなかった。
蒼真が一体何をされたのかわからずにいると、次にティアナは弘祈に声を掛ける。
「ヒロキ様も右手をお出しください」
「わかった」
蒼真の様子を見ていた弘祈も一言だけ答えて頷き、ティアナに向けて右手を出した。
またもティアナの指が流れるように、弘祈の手のひらに魔法陣のようなものを描いていく。
「これは
描き終わったティアナは顔を上げると、二人の顔を交互に見やった。
懸命に描いていたのは、やはり魔法陣だったらしい。
「巫女って、もしかしてティアナのことか?」
蒼真の問いに、ティアナが大きく頷く。
「はい。オリジンの巫女である私は、こうしてお二人に加護を与えることができます」
「へー、そうなんだ。でも加護って?」
特に何も変わった感じはしないけど、蒼真がそう言って自身の全身をぐるりと見回すと、ティアナは小さく笑みを零した。
「ソウマ様はこちらに来る時、棒のようなものをお持ちだったと思います」
「棒? ああ、指揮棒のことか。練習室に放り込まれた時は持ってたはずだけど」
「はい、ではそれが右手に現れるように念じてみてください」
「指揮棒が現れるように……?」
蒼真はよくわからないまま、ティアナに言われた通り、ただ黙って真面目に念じることにする。
すると次の瞬間には、天に向けて開いていた右手の上に一本の指揮棒が現れた。
「え、何これ、何これ! 超すごいんだけど!」
まるで手品や魔法のようだと興奮する蒼真に、ティアナがさらに告げる。
「でも、さすがにその棒では戦えませんから、今度はそれが剣になるイメージを浮かべてみてください」
「戦うってことは魔物が出る前提なのかよ……。はいはい、剣ね」
途端にがっくりと肩を落とした蒼真は、またも言われるがまま念じてみることにした。浮かべるイメージは、ゲームなどでよく出てくるような中世ヨーロッパの『かっこいい剣』だ。
懸命にイメージする蒼真の手の中で、指揮棒が形を変えていく。
そうして最終的に出来上がったのは、確かに剣だった。イメージとは違い、少し細身のような気もするが、これはこれでなかなかいい。
「おおー! 何かわかんないけどかっこいいな!」
剣を手にした蒼真が思わず歓声を上げていると、ティアナは弘祈にも声を掛ける。
「ヒロキ様は楽器をお持ちでしたね」
「うん、ヴァイオリンのことかな」
「では、それが現れるように念じてください」
「わかった」
弘祈はそう言って素直に頷くと、これまで持っていた取扱説明書を床に置いた。