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第134話 絶倫領主、天よりの使者を迎える

 大地を自在に操る石兵玄武盤と、魔王は――はっきり言って相性が悪い。


「ふはははッ! どうしたどうした、モロルド王よ! そのような攻撃では妾(わらわ)を捕らえることは叶わぬぞ! 遅い遅い……お主の使う術は遅すぎて欠伸が出るわ!」


 天空を舞って俺を挑発する魔王カミラ。

 その影を追い、石兵玄武盤で造り出した土の拳を伸ばすも――するりと、彼女はそれを躱す。さらに赤い血の翼を翻し、俺が造った土の腕を粉砕する。


 大地を操るのだ、質量の大きいそれはコントロールも難しければ機敏な動作も難しい。

 こと戦略級の戦いにおいて石兵玄武盤の力は強大だが、戦術級や個人戦闘においてはとことん向いていない神宝だった。


 そこに加えて相手の悪さ。

 予想以上の魔王の機動力だ。


 血でできた翼で彼女は宙を自由自在に駆け俺と精海竜王を翻弄してくる。

 竜たちの王でさえ、その攻撃をいなすのに苦慮するほどだ。

 もちろん俺の石兵玄武盤など追いつけない。また、大地を這うモノと宙を舞うモノという、圧倒的な差がそこにはあった――。


「ほれ、ほれほれ! どうしたどうした! ぜんぜん捕まえられぬではないか! 見かけ倒しもいいところよのう!」


「くっ……ちょこまかと、あっちこっちと飛び回って!」


「くふふふ! この間合いには届かぬであろう! あぁ、愚かじゃのう、哀れじゃのう! 天に向かって手を伸ばすその愚かしさ! 実に愛らしいのう、モロルド王!」


 土の腕が届くギリギリの間合いを狙い魔王が滑空してくる。

 こちらを挑発するその動きに振り回され、さらに腕の動きは単調になり、駆け引きもなにもなくなっていく。

 これではいけない――そう思いつつも、打開策を見いだせない。


 石兵玄武盤で作った腕を、闇雲に夜空に向かって突き上げる。

 しかし、それは虚しく空を切った。


「くそっ! やはり届かぬ!」


「くははははははッ! 無駄無駄ぁッ! 無駄のあがきというのが分からぬかッ!」


 天の魔王へと伸びる土の鞭。

 その時、岩石が浮いた表面を力強く蹴って、天に駆け上がる影が見えた。


「えぇい! なにをしておるかケビンよ! 少し、落ち着け!」


「精海竜王!」


 少年体の精海竜王は、石兵玄武盤の塔を駆け上がり魔王に肉薄する。

 土の拳を蹴ってさらに魔王へと距離を詰めれば、彼は紫電をまとったその拳を、魔王の隙だらけのどてっ腹に向かって撃ちこんだ。


 拳による衝撃と紫電が生み出す雷撃に魔王が白目を剥く。


 俺とセリンに角を折られ、せっかく生え始めた角も削られ、神通力がなくなった精海竜王では、それ以上の追撃はできない。

 魔王に一矢報いて落下してくる岳父を、俺は石兵玄武盤で作った手で掬った。


「ぐふぅ……ッ! やってくれたのう童(わつぱ)よ! 人の身でありながら妾(わらわ)に一撃を入れるとはたいしたのものよ! 褒めてつかわすぞ!」


「……くそっ! もう少しダメージを入れられるかと思ったが、浅かったか!」


「どれ! 今度は主の血を啜ってやろうかのう! 貴様のその仙力を啜って、妾(わらわ)はさらなる力を手に入れてくれようぞ! くふふふっ! くふっ! くははははははッ!」


 猛然と精海竜王に襲いかかる魔王。

 血で作った腕と翼を繰り出して、彼女は東の海の覇者を切り裂いた。


 少年の身体が鮮血が飛べば、彼女はそれを一息に口から吸い込む。

 仙気を帯びた竜王の血を取り込んで、赤い翼は大きく膨らみ、彼女の身体から伸びる血の腕はさらにその本数を増やした。


 これはどうにもまずい展開だ――。


「なに血を吸われているんですか、精海竜王! 頼みますよ本当に!」


「なにを言う! ワシがせっかく助っ人に入ってやったというのに! しっかりするのはお主の方じゃろうが、ケビン!」


「……しかし、厄介ですな。せめて宙に浮いているのをなんとかできれば」


「魔王の翼をもぐしかないのう……とはいえ、血でできているというのが厄介じゃ。言うてしまえば、あれは魔力の翼。あ奴が魔王――その魔力が無尽蔵というのが最悪よ。いくら潰してもすぐに再生してしまう。これでは、いたちごっこもいいところ」


 魔王を倒すには彼女の機動力を根本から削ぐしかない。


 しかしそんなことは現実的に不可能。

 魔族の王たる存在から魔力を枯らすことなど、できるはずがない。


 万事休すか。

 精海竜王が万全だったなら互角に戦えたかもしれない。

 とにかく、魔王に拮抗できる人材がこちら側に致命的に足りない。


 力不足と人材不足を痛感しながら、魔王から降り注ぐ血の矢を石兵玄武盤で練った盾でなんとかいなす。それが今の俺にできる精一杯だった。


 くそっ! 敵わないにしても、せめて嫁たちだけは――!


「ララ! みんなを率いて旧都まで撤退してくれ! 俺たちは、ここでなんとか魔王を食い止める! それと、できればイーヴァンに近衛兵を派遣するように……!」



『その必要はありません』



 凜として荘厳な声音に、俺の身体が芯から震える。

 同じく精海竜王も、拳を交えていた魔王もまた、ぴたりと動きを止めた。


 背中で異様な存在感が膨らむ。

 俺の背後にいるのは妻たちだけではなかったのか?


 聞き覚えのない女の声。

 それも、極めて大人びた声色に困惑しながら、俺は振り返る。

 すると――。


「…………光の柱? それに、六つの翼をしたセイレーン⁉」


「なっ! バカなァッ! どうして西国の神の使徒が⁉」


「か、神の使徒⁉」


 そこには天より祝福の光を受けながら、複翼のセイレーンが浮揚していた。


 いや、セイレーンではない。

 精海竜王が言った通り、彼女は――。


「西洋の神の使徒……つまり天使ということか?」


「あぁ、しかもあの姿! 六つの翼は天使の最高位を現すもの! 西洋の神直属のとんでもない力の持ち主じゃ! ケビンよ、ようやく好機が見えたぞ!」


 やれやれ、魔王の次は天使だと。

 いったいモロルド島になんの用があって、みんな集まってくるのだろう。


 けれどもモロルド島を救うためだ。

 今は猫の手だろうが天使の手だろうが借りなければ。


 俺はすぐさま光の柱に向かって声を張り上げた――!


「天使よ! すまない! 魔王の討伐に力を貸してくれ! 私でできることならば、見返りになんでもしてやろう! この島を――領民を守りたいんだ!」



『いいでしょう! その請願と誓約、しかと聞き届けました――おに~ちゃん!』


「……おに~ちゃん?」

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