さて、時はまた、ほんの少し遡る。
本来の主であるケビンが姿を消し、代わりにセリンが王を代行している首都。
そこに、旧都に派兵されている銀猫から伝令が入った。
使者として立てられたのは、第二夫人の姉にあたるマーキュリー。
彼女は銀猫から預けられた書簡を渡すと、しばし執務机に向かっているセリンと、世間話に興じていた。
ふと、そんなたわいもない会話の中で――。
「そう言えば、ステラって随分と幼いけれど、何歳くらい歳が離れているの?」
セリンはステラと出会って以来、ずっと抱いていた疑念をマーキュリーに尋ねた。
すると、いつもはハキハキと喋る元気娘が、あきらかに言いづらそうな顔をする。
察しの悪いセリンではない。
そして、夫や婦人仲間のいない退屈が彼女に「待つ」という選択をさせた。
はたして、マーキュリーは存分に思い悩んでから――。
「実は、言うほど歳は離れてないんだよね? 私たち四姉妹、揃って一歳違いなんだ」
「…………え? そうなの?」
なんとも不思議な彼女たちの来歴を語った。
「というか、そもそもアフロディーテと貴方も、かなり年齢が離れているとおもっていたわ。あの人はほら……いかにも大人の女性って身体をしていらっしゃるし」
「アフロディーテはそうだよね。なんていうかさ、アタシらって、長い年月をかけて商品としての価値を高めるために、いろいろと調整されてるのよ。配合っていうの? 猪が豚になるような、そんな感じの奴!」
「…………な、なるほど」
同じ年齢なのに、見かけが違うのはそういう風に作られたから。
アフロディーテはまさに女性と母性の象徴というような身体。
マーキュリーは中性的かつ健康的な女性美。
ダイアナは男性の加虐心をそそり立たせるはかなさ。
男たちの欲望を満たす商品として、種族レベルで彼女たちは造形されているのだ。
もちろん、四人が義理の姉妹なのは自明の話だった。
「ただね、ステラは本当に特殊なの」
「ステラみたいな女性を好きな殿方も……いるとは聞きますわね?」
「違う違う違う! 流石にそんなことしないから! というか、どっちかっていうと、それはアタシとかダイアナの領分! そういう意味じゃなくてね……」
「じゃなくて?」
「ステラはさ、親がだれだか分からないの。突然、あのハーピーたちの島に紛れ込んでいた、みなしごだったのよ。けど、誰よりも美しい容姿をしていてね」
島を管理していた奴隷商人たちは、親の分からないステラのことをいぶかしんだ。
だが、商品としてのポテンシャルの高さに、彼女を育てることに決めた。
そして彼女に期待を込めて――特別なセイレーンとして養育していた、アフロディーテ、マーキュリー、ダイアナたちに彼女を加えたのだ。
だが、後年その思惑は外れることになる。
「私たちはすくすくと成長したんだけれどね、なぜかステラだけ、成長が止まっちゃってさあ。そらもう、奴隷商人たちも驚いていたわよ」
「…………一歳違いって話は、本当のことなのね?」
「本当だよ。小さい頃――最初に出会った頃から、ステラはずっとあのまんま。一番見た目が幼かったから、末の妹ってことになってるけれど、こうなっちゃうと本当に私たちより年下か、よくわかんないよね!」
告げられたセイレーンの末姫の真実に、セリンが押し黙る。
もしも、マーキュリーが告げたことが本当ならば、ステラは老いない――不老不死の存在かもしれない。
彼女が知る限りセイレーンには寿命がある。
そして他の有翼の種族にも、その長さこそまちまちだが不死というものはない。
もしやステラは――。
「記憶をなくした神仙ということはないでしょうか? 鳥の妖魔が時間を経て、神仙へと至るという話も、聞いたことがあるような……?」
「だったらすごいよねぇ~! けど、あのステラがそんな玉だと思う?」
「……たしかに、そんな感じじゃないですよね」
「無邪気で、子供っぽくて、純粋で、家族想いで……あんな天使みたいな娘が、神仙になれるほど、そっちの世界も甘くないでしょう」
「まあたしかに。ステラみたいな天使のような娘が生き残れるほど、神仙の世界は甘くはないと聞きますね。彼女にはきっと耐えられない」
けど、だとしたらいったい、彼女はなんなのだろうか?
セイレーンと同じように、有翼で美しい女性の魔物なんているのか?
謎は深まるばかり。
そのうち、セリンはこの件について考えることをやめた――。