「いいかお前たち! 私が、お前たちの上官のイースだ! 私とヴィクトリアお姉さまの命令は絶対だ! なにも考えずに黙って従え! 敵前逃亡は許さん! 兵隊とは軍隊の一部であり、ただの手足に過ぎない! 軍隊を活かすために、お前たちは喜んでその命を捧げろ! わかった! わかったなら、サー・イエス・サーと復唱しろ!」
「「「「サー・イエス・サー!!!!」」」」
「よし! 安心しろ、私は無能な上官ではない! お前たちを無駄死にさせることはないと約束する! さあ、ともにモロルドの平和のために――もとい、田んぼと畑の生産性向上のために、頑張ろうではないか!」
「「「「サー・イエス・サー!!!!」」」」
イースと小人ゴーレムを引き合わせた結果、すぐに彼らは意気投合した。
いや、意気投合なのか。
なんかまた違う気がする。
精海竜王の角で動くゴーレム同士だ。
言ってしまえば兄妹のようなもの。
阿吽の呼吸という奴で、彼らはあっという間にモロルドの田んぼと畑の警邏システムを組み上げ、旧都周辺の農村の警護に入った。
基本的には小人たちが畑に常駐し、なにかあればイースを呼ぶ。
単純で明快な警護システムだ。
流石に、村に対して同時多発的に攻撃をしかけられたら対処のしようがないが……別にモロルドは戦時下ではない。この程度の警備で十分だろう。
「いやはや、最初はどうなることやらと思ったが、いざ蓋を開けてみると意外となんとかなるものだな。トントン拍子にことが進んだ」
「そうだね。これで村のみんなも安心するよ。あとは、生産能力の向上だけだね」
「やはり、ゴーレムの数を増やすしかないんじゃないか?」
「そうだよね、ゴーレムを増やすしかないよね……」
ゴーレムたちの訓練を見ていた俺は、ふと反対側にいる精海竜王を見つめた。
他意などない。
一切ない。
ただまぁ……。
「はやく、また、角が生えて来ないかなぁ?」
「生えぬわ! 生えてもやらぬわ! まったくワシの角をなんじゃと思っておる!」
「おっとすみません、ついつい本音が……」
高機能なゴーレムを作るのに必要不可欠な精海竜王の角。
その追加を、ついつい望んでしまう自分がいた。
これだけしっかりしたものが作れてしまうと――どうしてもな。
「ぴぃ♪ これでしまのみんなもあんしんなの♪ さすがおにーちゃんは、できるりょーしゅさまなの♪ ステラ、おくさんとしてはなたかーいなの♪」
「クワクワクワ……クワ、コケケッ!」
「プ♪」
土の巨人(ゴーレム)たちの訓練を一緒に見ていたステラが嬉々としてはしゃぐ。
これで少しは、領民たちが過ごしやすくなってくれるといいな。
ついでにイースたちが、例の殺人鬼も捕まえてくれないか?
お互い、擬似的な生命を得た存在。
身体の組織が雪か土かの違いくらいだ。
きっといい勝負をしてくれるんじゃないかな。
「…………そうだ、もとはと言えば殺人鬼だ。アイツを捕まえるために、村にやって来たというのをすっかり忘れていた」
「ゴーレム造りが楽しかったんだね。まあ、気持ちは分かるよ」
「そろそろ、イーヴァンの奴が捕まえてくれているといいんだが。それなら、すぐに村に使いをよこすだろうしな。この感じだと、まだ手こずってると見るべきかな」
まだ、モロルド島のどこかに潜伏している、雪女の殺人鬼。
ゴーレムと同じく、体内に精霊核を持っている、雪の精霊。
ララの師匠でエルフの長いわく、自分たちのようなエルフならともかく、まだ精霊や妖魔の類いであれば、精霊核を破壊することで退治できるらしい。
もし、次に顔を会わすことがあれば確実に精霊核を砕いてやる。
はやく姿を現せ。
そう思いながら、今日もまた寒村で夜を過ごす。
そんな矢先のことだった……!
「侵入者発見! マスター! そしてヴィクトリア隊長! 指示をお願いします!」
「な、なんだなんだいったい!」
「マスター! イースと小人たちが、畑に侵入者を見つけたようです! こんな深夜に忍びこむなど、畑荒らしに間違いありません! すぐに応援に向かいましょう!」
突然、イースに呼び出された(どこにも姿はないのに声だけ聞こえる。おそらくなにかしらの魔法か仙術を使っているのだろう)俺たちは、畑荒らしの退治に飛び出した。
ララ、ルーシー、ステラを残して、ヴィクトリアと二人で先行する。
少し心許ないなと思ったが――いざ、畑泥棒の正体を目の当たりにすれば、彼女を連れてきてよかったと安堵した。
もしもララが一緒だったら、彼女を苦しめることになったから。
「…………なにをしている! カイン!」
「げぇっ! 貴様は、ケビン! なぜこんなところに!」
故郷の村の隣。
同じくらいの規模の寒村。
そこにある畑に、盗みに入ったのは――かつて、俺の妻に重傷を負わせ、さらにモロルド島でセイレーンの奴隷売買を手引きしていた、憎むべき宿敵だった。