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第122話 絶倫領主、思わぬ副成果を上げる

 精海竜王の角を搭載したイースは、人が変わったように優秀になった。


「カラスどもめ、これでも喰らえ! 非可聴域音波アターック!」


「ぐわっ! ぐわわぁーっ! ぐわぐわぐわぁッ!」


「すごいの! カラスさんたちにげていっちゃったの!」


「コケーッ! コケッ! コケコココココッ……コクワァ~~~~ッ!(げんなり)」


「トリストラム提督にも効いてるところも見ると、どうやら鳥類にだけ有効な攻撃らしいな。いやはや、すごいなイース」


 畑の作物を狙ってたむろするカラスを、鮮やかな手際で追い返したことをはじめに、彼女は畑の防衛で大活躍を見せはじめた。


 森から出てきた猪を取っ組み合いで投げ飛ばす。

 畑の周りに巣を作った野兎を根こそぎ駆除する。


 さらに、村の近くの草原をねじろにしていた狼たちを一匹残らず捕らえてしまった。

 ララと手分けして人間になれさせ、猟に使えるよう獣種改良するのだという。


 人間も変われば変わるものだが、土の巨人(ゴーレム)も変わるものなんだな。


「これで、村に迫っている当面の脅威は排除しました。あとはさらなる作物の栽培の効率化と、警備体制の見直しです。正直、もう少しスタッフが欲しいですね……どう思いますか、ヴィクトリア隊長! 意見をお聞かせください!」


「えっと、うんと、その……村の立体的構造について、情報収集が完了しておらず、どのような対策を講じれば、作物の収穫効率が上がるかについて検討が(あたふた)」


「そんな当事者感のないことでは困ります! 分かりました、立体的構造の把握ですね! 私の方でデータを集めておきますので、完了次第すぐに解析をお願いします!」


「…………は、はい(スン)」


 そしてこの立場の逆転っぷりよ。

 優秀かつ勝ち気になったイースに、すっかりと言い返せなくなってしまったヴィクトリアは、今や名ばかりお姉さま&上司になってしまった。


 まあ、俺から見ているとどちらもそう変わらないが。


「うぅっ! まさか、私の完全な上位互換になってしまうとは! これは誤算でした! マスター、杞憂だとは思いますが……第四夫人も変更とかありませんよね? 大丈夫ですよね? ヴィクトリアをおそばに置いてくださいますよね?」


「そこは心配しなくても大丈夫だよ。まあ、村の警護はイースに任せてしまってもいいかなとは思っているけれど」


 とまあ、こんな感じで。

 イースは実にいい感じにレベルアップした。

 村人たちとのコミュニケーションもしっかりとれており、この様子なら村落の警護や農地周りの整備は、彼女に任せておけばなんとかなるだろう。


 頼りになる能臣を、俺はまた一人手に入れた。


「ケビン! ケビンたいへんだよ! ちょっとこっちに来て!」


「どうした、ララ?」


 イースの仕事ぶりを見守る俺たちの下に、狼を調教していたはずのララがやってきた。彼女にしては珍しく慌てた様子だ。


 息を切らして走ってきた彼女は、すぐさまサイドポーチからあるものを取り出す。

 それは――。


「土の人形?」


 土製の人形だった。

 陶器というには水気が多い。

 子供が戯れに作ったおもちゃという感じだ。


 よくここまで形を崩せず運べたな?


 しかし、これがいったいなんなのか?

 村の子供たちが作ったのか? まあ、微笑ましい話だが、いまいちララが慌てる理由が分からない。


 不思議がる俺に、彼女は土の人形を握らせる。


「調教してた狼たちが、こいつを咥えて持ってきて。最初は、何か古代由来の品かと思っていたんだけれど……ほら、よく見てみてケビン!」


「見てみてって言われても……うん? なんだか手の中がこそばゆい?」


 気のせいかと思いつつ手のひらを覗き込む。

 すると――もぞもぞと俺の指先を、土人形が掴んで動いているではないか。


 これはもしかしなくても、生きているのか?


 いや、違うな。

 これと同じものを、最近作ったばかりだ。


「もしかして、超小型のゴーレムってことか?」


「そうみたい。さっきも、狼が口から離した途端に逃げだそうとしたの。慌てて捕まえてここまでやって来たんだよ」



「……ヤ、ヤイ! ハナセ! オレハ、ナニモ、ワルイコトハ、シテナイゾ!」


「「しゃ、喋った!!!!」」



 間違いない、これは小さなゴーレム。


 しかし、どうしてこんなのが生まれたのか?

 俺以外にもゴーレムを作れる人間がいるのか?


 ふとそのとき、土でできた身体の中に、見覚えのある黄金の欠片――というよりも粉を見つけた。


「……そういえば、精海竜王の角を研磨した時の塵って、どうしたんだっけ?」


「知らないよそんなの……」


 鋳型を作る時に破片がいくつか。

 研磨して、砂状になった角がそこそこの量がある。

 そいつらをどのように処分したか、まったく記憶にない。


 どちらも、それほど自然に影響はないだろうと払って捨てた気がする。

 どうしよう、めちゃくちゃ影響が出てしまった。


「プーちゃんと同じで、精海竜王の角を取り込んだんだな」


「小人ゴーレム。これはこれで、なんだか便利そうだね」


「ヤイ! コラ! ハナセッ!」


 とりあえず、こちらに彼らを害する意図がないことを伝えると、小人ゴーレムは大人しくなった。落ち着いたところで、俺はふとイースの言葉を思い出す。


 正直、もう少しスタッフが欲しい。

 彼らとイースを引き合わせれば――。


「村落の自警団はほぼ完成したようなものじゃないのか?」

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