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第121話 絶倫領主、土の巨人の改良に成功する

※再び、ケビン視点。カイン襲撃のちょっと前。


 エルフたちの集落から戻ってはや数日。

 精海竜王の角の破片をいくつか手に入れた俺は、さっそくそれを使ってゴーレムの改良を試みた。とはいえ、懸念事項がひとつある……。


「あんまり、たいした量が採れなかったな」


「ぴぃぴぃ! かけらっていうより、おすなさんなの!」


「成分分析開始――解析完了(アナライズ・コンプリート)! 骨密度が明らかに足りていませんね。老化現象が進んでいるようです。健康に長生きして、孫の顔を拝むためにも、カルシウムを摂取してください。ずばり、小魚などがオススメですよ」


「だ、そうです、父上?」


「…………うるさいわい!」


 精海竜王の角から摂取された角の破片は、もはや破片というより砂に近かった。

 プーちゃんのように、これをコアにしようと思っていたのだが、とんだ見込み違いだ。


 まあ、セリンの角の取り方もよくなかったかもしれない。


 親の頭をあんな風にごりごりと、よくもまあ硬い岩に擦りつけられたものだ。

 セリンの機嫌だけは損ねないように、俺もこれからは注意しよう。


「まったく、しょうがないですね。旦那さま、父上の角で足りないのなら、よければ私の角を使ってください。旦那さまが作った土の巨人(ゴーレム)の一部になれるなら、私としても本望でございます……いや、そもそも私の身体の一部を使って、旦那さまが作ったゴーレムならば、私の子供も同然では?」


「精海竜王どのは嫌がったのに、セリンはノリノリなんだな」


 セリンはそう言うが、嫁の身体を傷つけるわけにはいかない。

 丁重にそこはお断りして、俺はとりあえず手に入れた竜の角の粉を使い、イースの改良に取りかかることにした。


 とはいえ、この破片をどう使えばいいのか……?


「とりあえず粉を粘土に混ぜて練ってみるか?」


「マスター、精霊核は不純物が多いと誤作動をする可能性があります。他の物質と混合するよりは、溶かして鋳型で固める方がよろしいかと思います」


「ずいぶんと本格的だなぁ……?」


 けど、その案採用。


 土団子じゃ、もろくてすぐ壊れそうだ。

 精海竜王を泣かせ手前、そんな事態になってしまったら申し訳がたたない。


 ということで、突貫だが竜の角を溶かして固めることにした。

 ララに手伝ってもらって粘土で鋳型を作り、ヴィクトリアが搭載する内燃機関なるものを使って竜の角を溶かす。

 正直、綺麗に溶けるかが一番心配だったが、鉛のようにすんなり溶けてくれた。


 さっそく、鋳型に溶けた角を流し込む。

 熱を冷まして待つこと一日。

 鋳型を砕けば――。


「おぉ、これは! なんだか複雑な紋様の球ができたな!」


「ぴぃぴぃぴぃ♪ きれいなのぉ~♪」


「クワクワッ! クワッドゥルドゥ!」


「プ♪」


 黄金色にまだら模様の入った宝玉ができあがった。

 宝石商にそれなりのお値段で売れそうな仕上がりだ。


 竜の角って、こんな風に加工できるんだな。

 いやはやびっくりだ。


「これは……もしやダマスカス鋼? いや、それよりももっと、色が違うような? まさか、オリハルコンではないのか? うぅむ……?」


「どうしたララ? 気になるなら、ちょっと触ってみるか?」


 鋳型の制作から溶解まで、いろんな準備をしてくれたララが一番困惑していた。

 俺としては、ララに球を預けてもよかったのだが「それよりもはやく土の巨人を完成させて」と言われたので、そこは素直に従った。


 また、精海竜王の角が伸びたら、その時にでも見てもらおう。


「マスター。このままでも十分に、土の巨人(ゴーレム)のスペックアップには使えると思いますが、こういうのは仕上げが肝心です。宝玉というには、鋳型から出したままのこれはあまりにも歪……! ということで研磨しましょう!」


「そうだな。せっかくなのだから、とことんやりたいよな……!」


 ヴィクトリアの提案でさらに角を加工する。

 ガチガチに固まったそれを、砂を水で湿らせた布で丁寧に研磨する。

 やはり、竜の角だけあってそうやすやすと削れないが、徐々にではあるがその表面に光沢が出はじめた。


 二日も根気よく磨けば、貴婦人が身にまとうような見事な宝玉が仕上がった。


 見れば見るほど美しい。

 土の巨人(ゴーレム)に埋め込むのがもったいないほどだ。


「精海竜王。もうそろそろ、角って生えてきてませんかね?」


「そんな簡単に生えるわけないわ! たわけが!」


 つい岳父におかわりまでしてしまった。


 よく、東洋の竜の絵画には、金の玉をその手に握りしめている様子が描かれるが、それによく似ている。

 見るからに力がありそうだ。


「ということで、これでゴーレムの核ができあがった。こいつを、イースに埋め込めば、少しは知性がアップするかな」


「そうですね。少なくとも、精密な私の身体にべたべたと、不用意に触らなくなる程度には分別がつくと思います……」


 俺はさっそくイースに宝玉を埋め込むことにした。

 村の畑にたたずみ、カラスたちに突かれる土の巨人(ゴーレム)の下へと向かうと、その身体を軽くメンテナンスしてから本題に入る。


 金の宝玉を手に説明すれば、イースはあきらかに怪訝な顔をした。


「こんナ玉で、賢くなれダら、誰も苦労しなイですよ。マスター、やめトきましょ?」


「いいから。お前のために作ったんだ搭載してくれ。精海竜王さまに申し訳もないだろ」


「マスたーが、そういうならやるけんド、オラ、しらねえかんナ」


 宝玉をイースがひょいと口の中に放り込む。

 てっきり胸に埋め込むのかと思ったが……まあ、中に入ってしまえば関係ないか。


 ごくりと喉を鳴らし、次にゲップがイースの口から漏れる。


「どうだ? なにか変わったところはあるか?」



「……別に、とくになにも感じないなぁ。手先の感覚にも狂いはないし、カメラセンサの解像度も、そこまで飛躍的に改良されたわけでもなし。ただ、処理能力が少しはやくなった気がしますね。とはいえ、この程度の演算能力上昇は、土の巨人では誤差かと」



「いやいやいやいや、あきらかに賢くなってるって! 喋り方が全然違う!」


 いきなり饒舌に喋り出したイースにびっくりする。

 当の本人は「そうですか? 前からこんな感じでしたよ?」ととぼけていたが、明らかにスペックアップしていた。


 もうほとんど別人だ。

 ここまで竜の角の効果がてきめんだとは。

 そして――。


「マスター、それではこれから畑の警邏に行って参ります。それから、今後の活動内容について、お姉さま――ヴィクトリア隊長を交えて相談させていただきたいかと」


「ヴィクトリアもだけど、なんでこの手の子たちは軍人っぽい喋り方になるのかな」


 ますますヴィクトリアに似たイースに、土の巨人(ゴーレム)もとい仙宝娘の宿命のようなものを感じて、ちょっと閉口した。


「マスター、似てませんから。私の方が、遥かに高スペックで、上位互換で、便利で、電気代もお得な、コスパ最高、通販サイト売り上げ1位の、仙宝娘ですから!」

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