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第118話 絶倫領主、精霊核のヒントを得る

 土の巨人(ゴーレム)――もとい精霊核について教わっていたらすっかり日が暮れていた。

 夜の森を突っ切るわけにもいかず、俺たちはエルフの集落に泊まることになった。


「さあさあ、ララがせっかく連れて来てくれた客人だ! 存分にもてなそうぞ! みな、酒も料理も惜しみなく出してやれ! 今宵は大いに盛り上がろうぞ!」


「ちょっと師匠! 私たちは寝床さえ貸していただければ……!」


 そしてはじまる大宴会。

 隠れ里に住むエルフたち総出で、俺たちは盛大な歓待を受けることになった。


 広場に蔦で編まれた敷物を広げ、その上に広葉樹の葉を皿にして料理を並べる。


 ほくほくに蒸された芋。

 シャリシャリと歯ごたえのある果物。

 こんがりと焼かれた甘いパイ。

 そして、豪快な猪の丸焼き。


 野趣に富んだ料理の数々に、俺たちは存分に舌鼓をうった。

 ほんと、こんなによくしてもらっていいのかな……。


「ほう! 果実酒を作る技術を持っておったか! しかもこれは……なかなかに酒精が強いではないか! うむ、美味い! 誰か、この製法を教えてくれぬか?」


「くだものさんおいしいの。ぱいもさくさくうまうまなの」


「くけっこー!」


「プ♪」


「このアヒージョに使われている植物油! なんという純度! これを関節部に注入すれば、私の稼働率はさらに増すこと間違いなし! すみません、このアヒージョを浴びてしまっても構いませんか⁉」


 遠慮なく歓待を受ける精海竜王、ステラ、ヴィクトリア。

 彼らみたいに図太くなれればいいのだが、そうもいかない。


 というのは――さっきから俺を見るエルフたちの視線が、妙に熱っぽいからだ。


 なぜか俺の正面に、代わる代わるやってきては、果実酒を勧めてくる妙齢のエルフの女性たち。西方の言い伝えと違わず、みんなため息が出るほどの美人ばかりだ。

 しかも、なかなかにきわどい服を着ている。


 ざっくりと開いた胸元にスリットの入ったスカート。

 白くきめ細やかな肌をこれでもかと見せつけて、彼女たちは杯の渇く間もなく絶え間なく俺に酒をすすめてくるのだった。


 うぅむ……!

 これは、どう考えても……!


「ちょっとみなさん! ケビンに色仕掛けを仕掛けないでください! これでもケビンはこの島の領主さまなんですよ! 立場のある男性なんですから……!」


「なにを堅苦しいことを言うんだ……ちょっとくらい、アタシたちにもお裾分けをさせろ。エルフが万年男日照りなのはお前にもよく説明しただろ。なに、安心しろ……正妻のお前たちに迷惑をかけるようなことはしないから! 種だけもらえればいいんだ!」


「本当になにを考えてるんですか!」


 やはり、よからぬことを考えているらしい。

 酔い潰れて理性の怪しくなったところを、なし崩しにという感じか。

 まったく油断のならないエルフたちだ。


 すぐにララが俺の隣に座り、しっしとエルフたちを追い払う。正妻が隣にいてはやりづらいとばかりに、ようやく彼女たちはすごすごとその場を退散した。


 ララがいて助かった。

 これがセリンやルーシーなら、エルフたちと全面戦争だった。


「ありがとうララ」


「別に! 私はただ、セリンさんたちが知ったら悲しむと思って!」


 素直に第五夫人に感謝を告げると、白い髪をした獅子娘は、その少し跳ねた髪をくりくりと指先で巻いて頬を真っ赤に染めた。


「ぴぃ! ララちゃんだけずるいの! ステラもおにーちゃんとおしょくじするー!」


「くわわっ! くわっけーッ! こここ、こけぇーっ!」


 二人で静かに食事を楽しもうとした矢先、ステラとトリストラム提督がやってきた。


 セイレーンの末姫がひょいと膝に乗り、青い鶏が肩に留まる。

 すぐに、ステラは俺の胸にすりすりと顔を擦りつけ、トリストラム提督は――なぜか俺の側頭部をコツコツとくちばしで叩いてくるのだった。


「えへへぇ♪ やっぱりおにーちゃんのここが、いちばんおちつくの♪」


「うぅっ、ステラちゃん……! いいなぁ、そんなに素直に甘えられて……!」


 父に甘える娘のように、俺によりかかってくるステラ。

 これには流石の俺も邪険にできない。


 そんな中――ふと、彼女の様子がここ最近と違うことに気がつく。

 いつも大事に抱えている、スライム娘の姿がない。


「あれ、そう言えばプーちゃんはどうしたんだ?」


「……ぴぃっ! わすれてたの! ごはんおいしそうにたべてたから!」


 胸の中で翼を震わせて驚くステラ。

 すぐさま、彼女はさきほどまで自分が座っていた方を振り向き――。


「プーちゃん! こっちきてぇー!」


 と、友達の名を呼んだ。


「プ♪」


 はたしてセイレーンの末姫の呼び声に、果実をその体内に取り込んでいた、小さなスライム娘がぴょんと跳ねた。彼女はたちまち姿を変え、人の形になるとこちらに軽快な足取りでやってくるのだった。


 すぐに球状に戻ったプーちゃんが、ぴょんとステラの手に飛び込む。

 その透明な身体の中には――金色をした精海竜王の角が輝いていた。



「…………それだ!!!!」



「ぴぃ?」


「プ♪」

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