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第108話 絶倫領主、機械人形の集落を知る

 村長の家に戻ると、俺たちの気配を察してセリンたちが外に出てきた。

 土まみれになった俺たちを見るなり、ぎょっとした顔をする二人の妻。

 そして、ベッドに横たわりながらこちらをうかがうアンネ。


 女三人のあきれ顔に俺は後ろ襟を掻きむしる。

 ヴィクトリアの身体からこぼれた埃と砂が、ジャリジャリと頭の裏で音を奏でた。


「あらあら、まあまあ、こんなに汚れて! どうしたんですか旦那さまにヴィクトリア! それにステラまで……!」


「いやあ、いろいろあってな」


「【スリープモード継続中、すみやかに製造元へメンテナンスに出してください】」


 ヴィクトリアの様子がおかしいことを察するや、セリンはすぐに家から出た。

 そして、なにやら呪文を唱えながら手を動かし――その両腕から水を放出した。


 どうやら仙術のようだ。

 てっきり雷しか操れないと思っていたが水も操れるんだな。


 ふきかかる水がヴィクトリアの身体をたちまち洗い清める。

 ついでに、俺とステラも。


「【Warning: 排気効率10%低減、状況は改善しています。 Warning:関節部からの異物の排除を確認、損耗軽微。このまま通常モードに移行します】」


「よくわからんが、直りそうだな」


「…………ウィ、ウィーン、ガガガガ! ヴィクトリア、起動スタンバイ完了! 再起動には生体認証が必要になります! マスター、キスにより遺伝子情報を中に……!」


「あとは一発、叩いてやれば元に戻りそうですね! 父上も、言っていました『神仙の作った道具はややっこしいから、困ったらどついてやればいい。電流もいいぞ』と!」


 今度は紫電を手に走らせ、笑顔で眉間に青筋を立てるセリン。

 ううん、いつも思うがこの正妻の圧よ。


「叩くんならまかせとき。こんなこともあろうかと……得物も持ってきておいたんよ」


 そして、そんな正妻にノータイムで合わせる愛人よ。


 普段は喧嘩ばかりなのに、こんな時は息ぴったり。

 君たち、本当は仲良しだろう。


 たまらずヴィクトリアが俺の背中から飛び退いた。


「はっ! ここはいったい! 私はヴィクトリア! マスター、ヴィクトリアただいま正常動作いたしました! 元気ビンビンです!」


 すぐさま彼女はぴょんぴょんと跳ね、力こぶをつくって元気をアピールする。

 いつものお調子者ぶりに、呆れるやらほっとするやらだ。


 なんにせよ無事に復活してよかった。


 セリンが仙術の発動を止め、ルーシーが抜いた槍を背中に回す。

 びしょ濡れのステラとトリストラム提督が跳ね回り、場の空気が少し緩んだ。


「それより、なにがあったんですか? 詳しくご説明いただけますか?」


「ああ、それなんだがな……」


 怪訝そうに眉をひそめるセリンに、俺は素直に事情を説明した。


 土の巨人(ゴーレム)を作ろうとしたこと。

 できたはいいが、思った以上のポンコツ土の巨人(ゴーレム)だったこと。

 そんな彼女に絡まれ、ヴィクトリアが壊れたこと。


 もっと実用的な土の巨人(ゴーレム)を造るのに、いい知恵はないかと考えあぐねいていること。

 そして、仙宝娘のヴィクトリアに人造の秘訣について尋ねようとしたこと。


「ということで、どうだろうかヴィクトリア? なにか妙案はないかな?」


 いきなり俺に話題を振られた仙宝娘が瞼を閉じる。

 起きてすぐには答えられないかと思ったが――。


「ひとつ、心当たりがございます」


 仙宝娘は俺の疑問に即答してみせた。


「この島が、元は神仙たちの修行場で、その庵が海に落ちてできあがった――といういきさつについては、わざわざ話す必要もございませんよね?」


「あぁ。また誰か参考になる神仙を紹介してもらえないか?」


「ナターシャが一番この手の話には明るいのですが、彼女も造った側ではなく造られた側です。知っていることは多くありません。また、土の巨人(ゴーレム)の専門家だった、東方不敗修士老君の庵にあった情報以上のことは、自力で調べるしかないでしょう」


「むむ、そうなるか……」


「その上で、ひとつマスターのお耳に入れておきたいことがあります。できれば、好色なマスターにはお話ししたくなかったのですが……!」


 どういう前置きだろうか?

 そこで好色がなぜ絡んでくるんだ?


 意味が分からず


「この島で暮らしていた神仙たち。彼らが、その身ひとつで生きていけると、マスターはお考えですか?」


「それはまぁ、神仙だしなぁ?」


「答えはNOです。神仙は自らの術に没頭するあまり、身の回りのことについては無頓着な者が多い。つまり、彼らの生活を支える従僕が必要でした……」


 なるほど。


 東方の土の巨人(ゴーレム)と東方の機械人形(オートマタ)――あるいは仙宝娘。

 なぜそれらが二つに分かれたのか。


 ずばりヴィクトリアが言いたいのはそこだ。


「私も含めて、多くの仙宝娘は神仙の世話をするために造られました。そして、神仙がこの地を去る際に、その多くが置き去りにされたのです。そんな、神仙たちの落とし子たちが集まる集落が――この島の中のどこかにあるはずなのです」


「この島のどこかということは、ヴィクトリアもどこにあるのかは知らないのか?」


「はい。全ては推論に過ぎません。ただ、私がこうして現在も動いているのですから、他の仙宝娘たちもまた動いているに違いありません」


「ふむ……!」


 この島のどこかにある仙宝娘の棲む隠里。

 それを探し出す。


 気の遠くなる話だが、この手の話にうってつけの人物に心当たりがあった。


 島内に巨大な情報網を持ち、様々な知恵者の力を借りられる。

 モロルドの自然の中に生きる、したたかな白虎の娘。


 ララならば、きっと集落を見つけてくれる。


「すぐにララに連絡を取ろう。彼女に協力してもらって、機械人形と土の巨人(ゴーレム)の隠里を見つけ出すぞ……!」


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