「あぁ、おねえサマにアイをそそギすギて、こんなになっちまっだぁ……♥」
「ぴぃぴぃぴぃ! へんなのぉ! さっきまで、おっきいおねーさんだったのに、いまはもうステラとかわらないのぉ!」
「コケェッ! ググワッ、クァ!」
「プ♪」
「まさに、みをささげる、っでこどダナぁ……♥ おねえザまに、ワダすのおもい、ずだわってぐれるといいなぁ……♥♥」
小さくなった手を頬にあててイースが腰をくねらせる。
いやに情熱的なゴーレム娘は、また激しく動いてはただでさえ減った身体を散らした。
なぜそれほどまでヴィクトリアが恋しいのか?
なにがイースの琴線に振れたのかは分からない。
だが、ひとつ言えるのは――。
「ビー、ガガビー、ガガガッ、ビーガガッ! 【Error: 排熱機構に異常あり。ただちにメンテナンスを行ってください。状況が改善されない場合は、ただちに白星娘々は、活動を停止。安全保護モードへと移行します】」
イースの願いは、間違いなくヴィクトリアには伝わっていないということだ。
いや、言ってる場合か。
はやくヴィクトリアに詰まった土を洗い出さなくては。
「それにしても驚かされたな。ううむ、やはり付け焼き刃でゴーレムを造ろうだなんて、虫がよすぎる話だったか……!」
「ぴぃぴぃぴぃ♪ おにーちゃん、おちこまないでぇー! ステラ、おにーちゃんががんばってるの、ちゃんとしってるよ!」
「ぐわぐわ! ぐわわっ、わぁっ!」
「トリストラムも、よくやってるっていってるの!」
ステラとトリストラムが俺を慰めようと周りで駆け回る。
健気な嫁と青い鶏だに、ほんの少しだけ気分が軽くなる。
まあたしかに、俺は別に神仙でもなければ魔法使いでもない。
仙宝娘の仕組みも、ゴーレムの秘法についてもろくにしらない。
多くの神仙と魔法使いが、その人生をかけて編み出した秘術を、浅い知識で使いこなせると思ったのがそもそも間違いだ。
ここは素直に反省し、次へと進もう。
「この調子だと、畑仕事を手伝わせてもすぐに小さくなるし、害獣たちを脅すことはできてもいずれ倒される。もう少し、身体に強度が必要かな?」
「きょードですかァ~? ワタス、べつにがんじょになるづもりナんて、ないっベよォ」
「そうはいかない。お前には、村の畑を守ってもらわなくちゃいけないんだ。村を、畑を、人々を、守るのにふさわしい土の巨人(ゴーレム)になってもらわなくては!」
「やんだやんだ! ワタスそんなゴと、したくねえっべヨォ~!」
おまけにこの自堕落ぶり。
性格も改善の余地があるかもしれない。
いったい俺の土の巨人(ゴーレム)造りになにが足りていないのか?
どうすれば、イースをマシな性能にできるのか?
「なにか、お手本になる土の巨人(ゴーレム)がいればいいんだが」
「ぴぃ~♪ また、ナターシャさんにあいにいくの♪ 土の巨人(ゴーレム)のことは、土の巨人(ゴーレム)にきくのがいちばんなのぉ~♪」
「いやだぁッ! もう合体したくない! あんな思いをしたくない! 悪い奴じゃないのは分かっているけれど、人間としての大事な尊厳を奪われる気分なんだ!」
ナターシャはなにも悪くない。
悪いのは、彼女を受け入れられない俺だ。
ただ、本当にもう二度と、合体するのは御免こうむりたかった。
「待てよ? ナターシャで思い出したが、東方の土の巨人(ゴーレム)と西方の土の巨人(ゴーレム)も、魂の宿し方に工夫をしていると聞いたな。たしか東方では、長い年月をかけてモノに魂を宿らせるとか。もしかして、そこが悪いのか?」
「いんやぁ、どうダろォ……? がんけぇねぇとおもうけンドぉ……?」
精神は魂に宿ると教会の僧侶も説いている。
そもそも石兵玄武盤は土を捏ねれても、魂を創造することはできない。
俄然、魂の構築の仕方が原因に思えてくる。
「となると、すぐにもヴィクトリアの協力が必要だな!」
精巧な仙宝娘であり、極めて人と変わりない知能を備えたヴィクトリア。
きっと彼女の魂の造り方にヒントがある。
それでなくても、島内の神仙とその眷属について詳しい彼女だ。
魂の想像についての情報を持っているかもしれない。
すぐさまヴィクトリアを治さなくては。
そう思い立った俺は、ステラと二人がかりで重たくなった彼女を担ぐ。
そして、セリンたちのいる村長の家へと駆け戻るのだった。
「【Warning: 無理に白星娘々を動かさないでください。最悪、機構が損傷し、白星娘々の動作に支障が発生します】【Warning: 無理に……」
「がんばれ、ヴィクトリア! すぐに綺麗にしてやるからな!」
「ぴぃぴぃ♪ ヴィクトリア、もうちょっとのしんぼうなのぉ~♪」
「Warning: もっと優しく! Warning: もっとゆっくりと! Warning: もっと密着して! そうですご主人さま、グッドですよ!」
「……ヴィクトリア? お前、もしかして普通に起きているんじゃないか?」