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第107話 絶倫領主、土の巨人を分析する

「あぁ、おねえサマにアイをそそギすギて、こんなになっちまっだぁ……♥」


「ぴぃぴぃぴぃ! へんなのぉ! さっきまで、おっきいおねーさんだったのに、いまはもうステラとかわらないのぉ!」


「コケェッ! ググワッ、クァ!」


「プ♪」


「まさに、みをささげる、っでこどダナぁ……♥ おねえザまに、ワダすのおもい、ずだわってぐれるといいなぁ……♥♥」


 小さくなった手を頬にあててイースが腰をくねらせる。

 いやに情熱的なゴーレム娘は、また激しく動いてはただでさえ減った身体を散らした。


 なぜそれほどまでヴィクトリアが恋しいのか?

 なにがイースの琴線に振れたのかは分からない。


 だが、ひとつ言えるのは――。


「ビー、ガガビー、ガガガッ、ビーガガッ! 【Error: 排熱機構に異常あり。ただちにメンテナンスを行ってください。状況が改善されない場合は、ただちに白星娘々は、活動を停止。安全保護モードへと移行します】」


 イースの願いは、間違いなくヴィクトリアには伝わっていないということだ。


 いや、言ってる場合か。

 はやくヴィクトリアに詰まった土を洗い出さなくては。


「それにしても驚かされたな。ううむ、やはり付け焼き刃でゴーレムを造ろうだなんて、虫がよすぎる話だったか……!」


「ぴぃぴぃぴぃ♪ おにーちゃん、おちこまないでぇー! ステラ、おにーちゃんががんばってるの、ちゃんとしってるよ!」


「ぐわぐわ! ぐわわっ、わぁっ!」


「トリストラムも、よくやってるっていってるの!」


 ステラとトリストラムが俺を慰めようと周りで駆け回る。

 健気な嫁と青い鶏だに、ほんの少しだけ気分が軽くなる。


 まあたしかに、俺は別に神仙でもなければ魔法使いでもない。

 仙宝娘の仕組みも、ゴーレムの秘法についてもろくにしらない。


 多くの神仙と魔法使いが、その人生をかけて編み出した秘術を、浅い知識で使いこなせると思ったのがそもそも間違いだ。

 ここは素直に反省し、次へと進もう。


「この調子だと、畑仕事を手伝わせてもすぐに小さくなるし、害獣たちを脅すことはできてもいずれ倒される。もう少し、身体に強度が必要かな?」


「きょードですかァ~? ワタス、べつにがんじょになるづもりナんて、ないっベよォ」


「そうはいかない。お前には、村の畑を守ってもらわなくちゃいけないんだ。村を、畑を、人々を、守るのにふさわしい土の巨人(ゴーレム)になってもらわなくては!」


「やんだやんだ! ワタスそんなゴと、したくねえっべヨォ~!」


 おまけにこの自堕落ぶり。

 性格も改善の余地があるかもしれない。


 いったい俺の土の巨人(ゴーレム)造りになにが足りていないのか?

 どうすれば、イースをマシな性能にできるのか?


「なにか、お手本になる土の巨人(ゴーレム)がいればいいんだが」


「ぴぃ~♪ また、ナターシャさんにあいにいくの♪ 土の巨人(ゴーレム)のことは、土の巨人(ゴーレム)にきくのがいちばんなのぉ~♪」


「いやだぁッ! もう合体したくない! あんな思いをしたくない! 悪い奴じゃないのは分かっているけれど、人間としての大事な尊厳を奪われる気分なんだ!」


 ナターシャはなにも悪くない。

 悪いのは、彼女を受け入れられない俺だ。


 ただ、本当にもう二度と、合体するのは御免こうむりたかった。


「待てよ? ナターシャで思い出したが、東方の土の巨人(ゴーレム)と西方の土の巨人(ゴーレム)も、魂の宿し方に工夫をしていると聞いたな。たしか東方では、長い年月をかけてモノに魂を宿らせるとか。もしかして、そこが悪いのか?」


「いんやぁ、どうダろォ……? がんけぇねぇとおもうけンドぉ……?」


 精神は魂に宿ると教会の僧侶も説いている。

 そもそも石兵玄武盤は土を捏ねれても、魂を創造することはできない。


 俄然、魂の構築の仕方が原因に思えてくる。


「となると、すぐにもヴィクトリアの協力が必要だな!」


 精巧な仙宝娘であり、極めて人と変わりない知能を備えたヴィクトリア。

 きっと彼女の魂の造り方にヒントがある。


 それでなくても、島内の神仙とその眷属について詳しい彼女だ。

 魂の想像についての情報を持っているかもしれない。


 すぐさまヴィクトリアを治さなくては。

 そう思い立った俺は、ステラと二人がかりで重たくなった彼女を担ぐ。

 そして、セリンたちのいる村長の家へと駆け戻るのだった。


「【Warning: 無理に白星娘々を動かさないでください。最悪、機構が損傷し、白星娘々の動作に支障が発生します】【Warning: 無理に……」


「がんばれ、ヴィクトリア! すぐに綺麗にしてやるからな!」


「ぴぃぴぃ♪ ヴィクトリア、もうちょっとのしんぼうなのぉ~♪」


「Warning: もっと優しく! Warning: もっとゆっくりと! Warning: もっと密着して! そうですご主人さま、グッドですよ!」


「……ヴィクトリア? お前、もしかして普通に起きているんじゃないか?」

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