「モロルド諸島は、大小様々な島によって構成されていますが、小島は実は人工的につくられたものです。それらはかつて空に浮かび、神仙が修行するための庵でした……」
「なんと、それもまた知らなかった」
「ほな、ウチらがねぐらにして、アンタはんが眠ってた遺跡はどないいうことなん? あれは本島にあったけれど?」
「…………【禁則事項】! 【本件へのアクセス権限がありません】!」
ヴィクトリアに連れられて海に出ること半刻。
彼女の操船する小型帆船により、俺たちは新都から真南にある小島に向かった。
なんの変哲もない岩でできた島。
セイレーンたちが棲まう島よりも狭いそこが、神仙の庵にして霊廟らしい。
存在は把握していたが、まさかこの島が神仙の庵とは夢にも思わなかった。
海風を読み、波を切って進むヴィクトリア。
とぼけた顔をしてすいすいと、海を行く彼女が急に島の直前で手を止めた。
「【Warning!】【Warning!】」
「うわぁ! どうした、ヴィクトリア!」
あともう少しで砂浜に到着するか。
船底が今にも乗り上げそうなタイミングで、ヴィクトリア間延びした奇声をあげた。
すぐに彼女は帆をずらし、近づいた小島から離れる。
離岸流に乗り、帆船は再び沖のへと出る……。
「高出力の仙力を確認。庵に施された罠――おそらく陣と思われます」
「また、神仙の結界術か!」
「あらぁ。いややわぁ、疲れるんよねぇ、あの陣とかいうの」
「いかがされますかマスター?」
元は神仙の修行場だ。
人を排除する置き土産くらいあるだろうと勘ぐったが――陣とは。
ヴィクトリアと出会った時のことを思い返せえづきそうになる。
神仙が生涯をかけて編んだ術を破るなど、そうそうできない。
二度と御免と言いたかったが――。
「もとより退く気などない! 行ってくれ、ヴィクトリア!」
「了解しました! では……島に突入します!」
モロルド領を守るため。
領民を守るため。
逃げることはできない。
再び、ヴィクトリアの叫びが波間に響く。
俺たちは神仙の庵と、彼が残した結界術へと侵入した。
青々とした海が一瞬にして切り替わる。
結界術の中は――まるでチェス盤のような、白と黒のタイルが敷かれた場所だった。
そして、なぜか俺たちは三人別れてテーブルの前に座っていた。
正面には煌びやかなステージ。
旧都の劇場にも勝るとも劣らない壇上に光が伸びた。
どんでん返しからせり上がってきたのは――。
「フハハハ! フッフハハハハ! よくぞ我が庵を訪れた、新時代の神仙よ!」
生粋のレンスター王国民でも、そういない濃い顔。
黄金の巻き毛にケバケバしい夜会服。
そして手に持つ朱色の華(種別不明)。
「私の名前は黒天元帥! この世の富と美と知恵の全てを持った神仙!」
「なっ! 富と美と知恵の全てだって!」
「そんな私の霊廟に盗み入るとは! なかなか肝が据わっているではないか、キミぃ! 気に入った! キミにはこの黒天元帥の弟子になる権利を与えよう!」
「どうしよう! ルーシー! ヴィクトリア! 少しも欲しくない!」
「ただし! タダでやっては面白くない!」
死人のはずなのに、やけに活き活きとした黒天元帥は、その手にした華をまき散らす。
すると、彼の頭上から煌びやかなシャンデリア――のような垂れ幕が降りてくる。
そこには『クイズ! 知ってる黒天元帥⁉』の文字が輝いていた。
「これから私――黒天元帥についてのクイズを出題する! 全問正解することができたならば! モロルド領主ケビン・モロルドよ! そなたが求める仙宝『石兵玄武盤』を譲ろうではないか! 黒天元帥の一番弟子という肩書きも一緒にな!」
「仙宝はいただこう! しかし、弟子は遠慮する!」
「連れない弟子だな! だが、それもヨシ! フーッハッハッ!」
かくして、妙な神仙の妙なノリの妙な茶番がはじまった。
こんな奴の仙宝――本当に役に立つのか?
あと、微妙に気に入られているのはなぜだ?
精海竜王といい、神仙妖魔に好かれる気質でもあるのか?
そんなことを思えば、脳に「そんな阿呆と一緒にするな!」と岳父の声が響いた。
きっと幻聴ではない。
まぁ、怒る気持ちも分かった。