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第51話 絶倫領主、仙宝を探す

「モロルド諸島はそもそも、多くの神仙の修行場でした。時代の流れとともに神仙は姿をくらましましたが……私が眠っていた霊廟のように、各地には彼らの遺構があります」


「……そうなのか?」


 驚く、俺とセリンとルーシー。

 モロルドが神仙の修行場だっただなんて、とても信じられない。


 海に囲まれ、平地は少なく、港くらいしかよいところがない。

 こんな場所に誰が好き好んで住むのか。


 いや、かえって修行には都合がよいのか?


「うむ! そのお嬢ちゃんの言う通りじゃ! ここは神仙の修行場じゃった!」


「精海竜王!」


 童子の姿の精海竜王が教会に駆け込んでくる。

 その姿は――なぜか煤まみれ。おそらく、俺が休んでいる間にトリストラム提督の第六艦隊とやりあってくれていたのだろう。


 岳父は汚れた服の袖を払い、ヴィクトリアを見据える。


「多くの神仙が庵を建て、術を練り、時に競い、時に語り合う――ここはかつてそんな場であった。もっとも、コンロンに仙境ができてからは、そちらに移住したがな」


「コンロン?」


「内海の向こうに見える天を衝く山脈だ。まさしく雲の上に、多くの神仙が暮らす仙境がある。今はそこで、彼らは修行をしているようだ」


 微妙に突き放した言い方だった。

 今まで島の過去について、俺に語らなかったことを考えるに、なにか精海竜王は神仙に対して思うところがあるのだろう。なんとなくだが、深く尋ねるのはやめておいた。


 精海竜王の補足を受け、ヴィクトリアが再び語り始める。


「私は、この地を去った神仙の一人に、島の霊廟を守るように命じられています。詳細までは分かりませんが――霊廟に眠る神仙と、その仙宝についての情報を保持しています」


「その中に、この状況を打破するものがあると?」


「はい! その名も――仙宝『石兵玄武盤』! 地脈を自在に操り、地形を千変万化させる、戦略兵器にございます!」


 地脈を自在に操り、地形を千変万化させる。

 それができたらたしかにすごい。


 しかし、気になることがある――。


「げぇっ! そっ、その仙宝はまさか、彼奴の……ッ!」


 岳父が明らかに顔を青ざめさせ、一歩退いたことだ。


 これは絶対なにかある。

 持ち主と精海竜王に因縁があるのか。

 それとも危険な持ち主なのか。


 ただ、やはり精海竜王は、それ以上なにも述べなかった。


「……モロルドを救うには、その仙宝を手に入れるしかないのか?」


「はい、マスター。これより他に策はございません」


「俺に神仙の宝を扱うことができるのか?」


「そもそも、私を起動させることができたのは、マスターの持つ類い稀なる仙気によるもの。ご自覚がないようですが、マスターの体内では常人離れした陰陽の気が混交し、膨大な仙力を生み出しておられます。まるで、仙力を生み出す炉のようです」


「陰陽の気。仙力を生み出す炉……か」


 そう言われても、少しも実感はない。

 ただ、島の危機にあれこれと文句を言っている場合でもなかった。


「分かった、ヴィクトリア……俺をその宝物が眠る場所まで案内してくれないか?」


「かしこまりました! マスター!」


 俺は覚悟を決めると銀髪の乙女に案内を頼む。

 乙女はすぐワンピースの裾をつまむと、恭しく俺に傅くのだった。


「ウチもいきますえ。ヴィクトリアがいれば百人力……と言いたいところやけど、どこか抜けたところがあるさかいになぁ。旦那はんの背中は守らせてもらいます」


「なら、私も…………!」


 ルーシーに続いて名乗りを上げたセリンが立ちくらむ。

 無理もない。俺にひっつき、旧都から新都への強行軍。

 さらに、奴隷売買の証拠を掴むため、これまで気を張っていたのだ。


 へたりとその場に座り込んだ精海竜王の娘。

 その前にしゃがみ込むと、細い手を握って俺は彼女を労った。


「セリンありがとう。ここは俺とルーシー、ヴィクトリアでやってみるよ」


「しかし……!」


「それよりも、俺がいない間、新都を守ってくれ。精海竜王さまと一緒に」


 旧都にイーヴァンは置いてきた。

 今、旧都で人を統率できる人材は限られる。

 精海竜王の娘で、俺の正妻のセリンにしか、任せられそうにない――。


 というのは、セリンを休ませる方便。

 実際には彼女よりも恐ろしい、岳父どのに頑張ってもらう腹づもりだ。

 ちらりと精海竜王に視線を向ければ、彼は「委細承知した」と片目を閉じた。


「わ、分かりました! 旦那さまの名代として! 正妻として! 私が、この新都を守ってみせます! 立派に第一夫人としての務めをはたしてみせます!」


 俺たちの思惑をよそに、立ち上がったセリンが腕を振り上げるのだった。

 金色のその角には、バチバチと紫電が走っていた。


「なんや元気やないの。心配したって損したわぁ……」

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