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第32話 絶倫領主、御前試合を開く

 ララが急に俺の下を訪れたのは他でもない。

 草の民による暴動に、彼女もまた心を痛めていたのだ。


 今はまだ、自分たちの力を知らしめるための、ちょっとした悪戯で済んでいる。

 しかしそれが行きすぎ、同族が島民から疎まれては取り返しがつかない。


 草の民とモロルドの領民の関係を、なんとか穏便に済ませたい。

 彼女は心からそう望んでいた。その上で――。


「草の民は、強い者には従う。それは、自然の掟であり、動物の本能だからだ。ケビン、お前じゃなくてもいいが――現政府が強いということを知らしめる必要がある」


「つまり、なにをしろと言いたいんだ、ララ?」


「試合だ。モロルド政府の代表と、草の民の代表で戦って優劣をはっきりさせる。これで、草の民のいくらかは大人しく政府に従ってくれる……ハズ!」


 随分と原始的なやり方だった。

 だが、それだけに分かりやすい。


 彼女が言うとおり、草の民は賢く聡明であるが、同時に厳しい環境で生き抜くために、力に対して従順なところがある。

 精海竜王をサルバのおんじが恐れ敬っていたのが証拠だ。


 草の民から恐れられる、モロルドの強き領主になればいい。

 そうすれば、この事態は収まる――。


「そないな簡単な話やろか? やっぱり、ケビンはんのやり方が、気に入らへんみたいな人は、これからも出てくるんとちゃいます?」


 どこか悲観したルーシーの言葉に、提案したララが黙りこくる。


 これが現状で、彼女ができる精一杯なのだろう。

 そして、俺にとっても。


「それは、もう仕方がない。大切なのは、対話をするという姿勢だ」


 俺についてきてくれるならよし。

 ダメならもう見切りをつけよう。


 理想と現実に折り合いをつけるのも、領主の仕事だ――。


 静かな覚悟と共に、俺はベッドから起き上がると、ララに近づきその手を取った。

 久しぶりに握った幼なじみの手はずいぶんと逞しい。


 けれど、反応は昔と変わらなくて、彼女は気恥ずかしそうに俺から顔を背ける。

 今や、草の民さえ恐れる弓の使い手だというのに、まるで初心な乙女だ。


「ララ、草の民のとりまとめをお願いできるか?」


「……まかせろ! ケビンのためなら、頑張る!」


「よし! 場所と日程は追って決めるとして――試合で白黒をつけよう! 我々と草の民のどちらが優れているか……どちらの意見が正しいか、はっきりさせよう!」


 かくして、草の民との和解を目指した、試合を俺は行うことになった。


「自然の知識をひけらかしはんのに、最後は力で白黒つけるやなんて。草の民はんも、ようわからん人たちやなぁ」


「そうぼやくな、ルーシー」


「力なき正義は無力ともいいます。国を導くために、その器量があることを示すのも、領主の立派な勤めでございます。旦那さま、どうか頑張ってください」


「ぴぃいいッ! ヴィクトリアとおべんとつくっておうえんしにいくの!」


「はい、おまかせください。他にも、胃痛胸焼け動悸に目眩、常備薬を取りそろえておりますので、不調の際にはお声がけください。マスター、ご武運を」


 と、ここまで妻たちの反応を聞いて、ふと俺は我に返る。

 なんだ俺もその試合に出るみたいに聞こえるが――。


 面と向かって尋ねるには、妻たちの期待の眼差しが強い。

 そして、幼なじみの眼差しも。


「そうだな! ケビンが戦った方が納得する! 強い王に、草の民は逆らわない!」


 追い打ちのララの言葉に閉口した。

 これはまた、逃げられそうにないな。


 はたして、俺もまたその試合に出ることが決まった。


 剣にも魔法にも自信がないが……まぁ、なんとかなるだろう。

 きっと。おそらく。たぶん。


 ちょっと、イーヴァンに稽古をつけてもらおう。

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