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第31話 絶倫領主、寝所で妻を愛でる

「なるほど、それは大変でございましたね、旦那さま……よしよし♥」


「ぴぃっ! くさのたみさん! そうげんでくらすじゅうじんさんのこと! ステラおぼえたよ! ヴィクトリアはおぼえたぁ!」


「……サーチ完了。草の民。定住の地を持たず、野や山で生活をする、またはその術を持つ者たちのこと。このような者たちは、古今東西どのような文明にも現れますが、厳しい環境で生き抜くために、定住者よりも高い能力を持っている者が多いです」


「旦那はん、そんなん気にしんときなはれ? 聞く耳を持たはらへんのやから――なますにおろして、ボリボリと頭から食ってもうたらえんやわ」


「…………みんな、慰めてくれてありがとう。けど、なんで俺の寝所にいるんだ?」


「旦那さま「旦那はん「おにーちゃん」マスターが、夜伽に来ないから!」」」」


 草の民が盗みを働いた日の夜。

 俺の寝所になぜか一斉に妻たちがおしかけてきた。


 しかも全員寝間着姿で。


「さぁ、旦那さま! 今宵こそ、観念していただきますよ!」


 セリンは絹で拵えられた前開きの寝間着。

 うっすらと身体のラインが出るそれは、何度も見たがいつも蠱惑的だ。


「みんなできょうはあさまであそぶの~!」


 ステラは羊毛で編まれたもこもことした上着とズボン。

 微笑ましい姿だが、無防備に懐に潜り込んでくるのが、ちょっと辛い。


「旦那はん、疲れましたやろ……♥ あとは全部うちに任せはって……♥」


 ルーシーはいつもと変わらず、一糸まとわぬ姿。

 とはいえアラクネの彼女は、その皮膚を黒革で覆われたような見た目をしている。

 性的なことはない――のだが、なぜか妙に扇情的だ。


「仙力の増大を確認! おそらくマスターのメンタルが、ただでさえ多い仙力にブーストをかけている模様! メンタル変化の原因は……【ピーーーーッ!】と判断!」


 最後に――ヴィクトリアはいつものワンピース姿。

 彼女曰く、その衣装以外は「きかくがあわない」らしい。


 セリンが音頭を取ったのか。

 それとも、ルーシーがうまくたきつけたのか。

 経緯はよく分からないが、狭いベッドにところせましと、第一夫人から愛人まで侍らせる姿は――有り体に言って体裁が悪かった。


 これじゃ本当に絶倫領主だ。


 とまぁ、それはともかくとして。


「なんとかならないものかなぁ。俺としては、草の民も大事にしたいんだが……」


 俺は正直な心の内を妻たちに語った。


 理想論なのは分かっている。

 国を統治すれば必ずひずみは生まれる。

 俺のやり方についてこれないものは、どこかで切り捨てなくてはいけない。


 けれども、俺は誰一人として追放したくないのだ。

 俺のような惨めな思いを、領民にして欲しくない。


 思い悩む俺を、セリンが優しく撫でる。

 ステラがぎゅっと胸に抱きつき、ルーシーが背中を掻いた。

 そしてヴィクトリアが、謎の踊り――棒に絡みつき、身体を上下させる――をする。


 妻たちは皆、俺の心中を察し、励まそうとしてくれていた。

 本当に、俺には過ぎたる女たちだ……!


「惚れた弱みやな。旦那はんのそういうところに、胸が疼いてまうわ……♥♥♥」


「かわいこぶりっこしてんじゃないわよ、泥棒猫! 旦那さま、ではこういう策を用いるのはどうでしょう? まず、草の民たちを集め、父上に謁見させて……」


「セリンの献策の成功率を試算。成功率……0.8%」


「だいじょーぶだよ! おにーちゃんが、やさしいりょうしゅさまだって! きっとみんなわかってくれるから! しんぱいしないで!」


 そうだな。

 今までもそうやって、俺は領民を増やしてきた。

 ついでに、妻も増やしてきた。


 きっと、俺のやり方は間違っていない。

 草の民たちも分かってくれる。


 妻たちにぬくもりに勇気をもらった俺は、ようやく鬱々とした気分から解放された。

 なんとかして草の民と話し合おう。


 これ以上、酷いことが起こらぬ前に。


「……旦那はん、ちょっと動かんといてな?」


「ルーシー?」


 その時、ルーシーが突然天井を見上げた。

 なにごとかと思った矢先、頭上で破砕音が響く。


 おそるおそる顔を上げれば、ルーシーの前脚が天井を穿っていた。

 せっかく、精海竜王さまに立ててもらった、狭いながらも快適な寝所が。

 そう嘆く間もなく――。


「残念、こっちだ」


「あら? しもたわ、うちとしたことが……小バエを逃がしてもうた」


「何奴! 旦那さま、後ろに下がってください!」


「熱源を確認! 人間――ではない! 人型のモンスターと判別! 脅威度はA! 速やかな排除が必要です! マスター、ご命令を!」


「ぴぃっ? しろい、ねこの、おねえちゃん……?」


 俺の寝所に不審者が姿を現した。

 それも、とてもよく知った、不審者が。


「ララ! どうして、君がこんなところに!」


 寝所に姿を現したのは、俺の幼なじみにして草の民。

 先日、再会を果たしたララであった。


 そして――。


「そ、その……いつもこんなことを、しているのか? ケビン?」


「……え?」


「りょ、領主だからな! それは、奥さんはいっぱいいた方がいいけど! けど、こんなことするのは、いけないことのような! ちょっとうらやましいような……!」


「ご、誤解だ! ひどい誤解をしているぞ、ララ!」


 どうもよくない勘違いをされたらしかった。


 違う、本当に違うんだ。

 信じてくれ、ララ。


 俺はたしかに――ナニは大きいけれど、けして好色ではないのだ!


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