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第18話 絶倫領主、鬼子母神の正体に迫る

「出た! 出たぞぉッ! ついに出たぁ!」


「きゃあっ♥ だ、旦那さま、いけません♥♥ ステラさんも見ているのですよ♥♥♥」


「あ~っ! おに~ちゃんてば、おまたまるだしだぁ~! ダメなんだよ、ふくはちゃんときないとぉ~! いけないんだぁ~! あははぁ~!」


「おい! なにやってんだ絶倫領主! ここにいるセイレーンたちは、そういうのに免疫がないって言っただろ!」


「出たんだって、鬼子母神が!」


 命からがら森から出た俺を待ち構えていたのは、のんびりした探検隊の面々だった。


 なんて緊張感がないんだろう。

 鬼子母神がすぐにも近づいてくるというのに――。


「そうだ! 鬼子母神! みんな気をつけろ、奴は宙を舞う魔物だぞ!」


「…………で、どこいるんだそいつは?」


「……あれ?」


 振り返った先――俺が先ほどまでいた森には、すでに鬼の姿はなかった。

 あっさり俺は見逃された。


 なぜだ?

 セリンたちに恐れをなしたのか?

 そんな知性があるようには見えなかったが?


 いや、俺も随分取り乱していた。

 実は鬼女は、人前に出ることを恐れ、森の中でひっそり暮らし、人がやってくるのを待ち構える――そういう習性があるのかも。


「もしかして、この森の鬼はそういうモンスターなのか?」


 セリンが持ってきたズボンに履き替えながらごちる。

 その時、俺の肩にセリンが指を伸ばした――。


「旦那さま、肩に糸くずがついておりますよ……あら?」


「どうかしたのか、セリン?」


「この糸くず……魔力がこめられています。とても微量ですが」


「なんだって?」


 今、俺が着ている領主の服には、魔法はとくにかけていない。

 ということは、この糸くずは俺の服のものではない。


 いったいどこで付着したのか。

 セリンの指先で弄ばれる白い糸。


 親指と人差し指に渡ったそれは、彼女が指を広げればよく伸びる。

 そして狭めれば伸縮する。


 実に不思議な糸だ。

 いや、もしかしなくても――。


「糸は糸でも、蜘蛛の糸か?」


「そのようですね。けど、魔力のこもった糸を吐く蜘蛛を、私は知りません」


 魔力を帯びた蜘蛛の糸。

 森に棲む鬼子母神と呼ばれる鬼。

 なぜか男だけが食われる謎。


 バラバラだった謎が、急速に頭の中でまとまっていく。


「分かったぞ! セリン! ステラ! マーキュリー! 鬼子母神の正体が!」


「えぇっ⁉ 本当ですか、旦那さま⁉」


「しょ~たい? きしぼーじんさんは、きしぼーじんさんじゃないのぉ?」


「あぁ、そうだ! 森の中に棲んでいるのは鬼子母神なんかじゃない――アラクネだ!」


 アラクネ。

 上半身が女性で、下半身が蜘蛛のモンスターだ。


 西洋の伝説によれば、機織りを得意とする娘が神に刃向かい、逆鱗に触れ蜘蛛に変えられたと言われる。だが、実際には仄暗いダンジョンや廃棄された古城、森の中で蜘蛛の巣を張って罠を作り、人や家畜を捕らえて食らう化け物だ。


 まさかセイレーンに続き、アラクネまでこの島にいたとは。

 いつの間に棲息したんだろう。


「アラクネなら全て説明がつく! 彼女たちはこの地に昔から棲んでいたんだ!」


「ぴぇえええ~~~~っ! なんだってぇ~~~~っ!」


「ちょっと待てよケビン! いくらなんでも無茶苦茶な推理じゃないか! アタシらみたいにこっそり運び込もうにも、アイツらの図体はそんなかわいいもんじゃないだろ!」


「……それは、まぁ、たしかに?」


「そもそもなんで男だけが襲われるかの謎が解けてないぞ?」


 鋭いツッコミを繰り出してくるマーキュリー。

 たしかに、アラクネは人を襲うが、男だけを襲うというのは聞いたことがない。

 モロルド諸島のアラクネだけが特殊ということだろうか。


 ただ――。


「問題はそこじゃない。相手が鬼ではなくただのモンスターだということだ」


「……まぁ、たしかにそうか?」


「相手が魔物であれば、恐れることなどありません! そうですね、旦那さま!」


「やっつけちゃうのぉ~! がんばるのぉ~、おに~ちゃん! おね~ちゃん!」


 セリンが言った通りだ。

 不気味な妖魔もその、正体がモンスターであれば恐れることはない。


 俺たちは吉祥果の森のアラクネと戦うことを決意した。

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