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第17話 絶倫領主、鬼子母神に遭遇する

「はぁ⁉ 吉祥果の森を開拓する⁉ 馬鹿なことはおよしください、我が君!」


「我ら、領主さまに身命を賭した近衛兵!」


「王命とあれば命を捨てるのもやぶさかではなし!」


「死してモロルドの礎となれるなら、それも本望!」


「「「「「けど、吉祥果の森だけは勘弁!!!!」」」」」


 イーヴァン率いる近衛兵隊は、吉祥果の森への進軍を拒否した。


 実際、島民に森は恐れられているのだ。

 モロルド家や本土から入植してきた人間たちより、古くからこの地に住んでいる人間たちの方がその感情は強い。それくらい鬼女にこの島は悩まされてきたのだ――。


 ということで、今回は俺を除いて女所帯。


「旦那さま。ここは私にお任せくださいませ。鬼女がなんだというのです。こちらは竜の娘でございますよ。神通力も負けはいたしません」


 最も頼りになるセリン。


「おね~ちゃん、かっこいいのぉ~! ステラもおてつだいしちゃうのぉ~!」


 天真爛漫なムードメーカーのセイレーンのステラ。


「うちの空輸部隊の娘を何人か連れてきたぜ! これで足りるか、ケビン?」


 マーキュリーとセイレーンの女作業員たち。


 急造の女探検隊は、一日かけて島の中央の森へとたどり着いた。


 実際に空を飛んでみると、中継拠点の重要性が分かる。

 運ばれているだけなのに意外と疲れるのだ。運んでいるセイレーンはいわずもがな。新都と旧都のちょうど真ん中で休むことができたなら、どれだけ楽なことだろう。


「都が二つになったからこその悩みだが、潜在的な悩みでもあったんだろうな」


 なんとなく、無理に内海航路を開拓しなかった、祖先の気持ちが分かった。

 てっきり精海竜王に恐れをなしたのだと思っていたが――この森も障害だったのだ。


 龍鳴海峡といい吉祥果の森といい、モロルド統治には問題が多すぎる。

 逆に言えば、改良する余地がいくらでもあるということだが……。


「とりあえず、今日は森の前で野営して、本格的な探索は明日にしましょうか?」


「さんせ~い! ステラ、もうおな~か、ぺ~こぺこだよぉ~!」


「ふふふっ。それじゃ、さっそくご飯にしましょうね……」


 イーヴァンに代わり探検隊を指揮するセリンの一声で野営が決まる。

 暮れなずむ森を前に、俺たちはせっせとテントの設営に入った。


 力自慢のセイレーンたちが、器用に空を飛んで仮設住居を組み立てる。

 その横で、セリンとステラが仲良く料理を作る。

 今日は芋と魚のスープらしい。


 俺の腹が鳴る。

 しかし、空腹だからではない。

 慣れぬ空の旅に緊張したのか少し腹を崩したらしい。


 俺は、人目を避けてセリンたちから離れた――のだが。


「あれ? どうしたんだケビン? そんなこそこそと?」


 あっさり、俺は義姉に見つかってしまった。


「さては、女所帯だからって……流石だな絶倫領主!」


「違う! そっちじゃない! 生理現象!」


「はいはい! そういうことにしておいてやるよ! けど、くれぐれも隊の奴らには手を出すなよ! セイレーンでも、そういうのが嫌な娘だっているんだから!」


「しないって言ってるだろ……!」


 姉というものは弟をからかうものだと聞く。

 ただ、義理でもここまで言われるものなのか。


 これはさっさと中継拠点を整備して、マーキュリーに新都から出て行ってもらわねば。

 あらためて、小姑との同居の難しさを痛感しながら、俺は森へと向かった。


「まぁ、鬼女が出るとは言うが、少しくらいなら大丈夫だろう」


 そう軽く考えていた。


 木陰に入り、ベルトを緩め、ズボンを下ろし、しゃがみ込む。

 騒がしい探険隊に背を向け、俺は森に視線を向ける。


 すると――薄暗い中にぼんやりと、白い人影が浮かび上がった。


 まさか鬼女か?

 いや、セイレーンかもしれない。

 判断は軽率だと躊躇したその矢先――。


「イヒヒヒヒヒヒヒッ! 男ォ! 男ダァッ!」


「なっ、馬鹿な! 宙づりに!」


 その白い鬼女は、突如として宙を舞い、なぜか頭と胴を逆さまにした。

 そしてその格好のまま――。


「男ォッ! 男ォッ! 子種ぇッ!」


「うっ! うわぁあああっ! くっ、来るなぁっ!」


 俺に突進してきた。


 なんとか絶倫脱糞領主になるのは免れたが――俺はズボンを脱ぎ捨てると、脇目も振らずに探検隊の方に向かって駆けた。

 まさか、本当に出るだなんて……!

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