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第15話 絶倫領主、義姉にいびられる

 旧都の花街開発は順調だった。

宮廷を改造した娼館には燕鴎四姉妹の長女アフロディーテが入った。

 彼女はさながら女王のように振る舞い、夜の街を牛耳っている。


「お客さま、私たちはお客さまに一夜の夢を提供させていただいております。それを無粋な行いでぶち壊すなど……いたしませんわよね?」


「は、はい……!」


 女神のような美貌と貫禄。

 彼女が凄めば、どんな屈強な男も怖じ気づく。


 女衆だけで花街が経営できるか危ぶんだのもいまや昔。

 今やすっかり旧都は、以前と変わらない――とまではいかないが、最盛期の六割くらいの盛況を取り戻していた。


 一方――。


「こちらの入り江は、モロルド領主の家祖がはじめて島の土を踏んだ場所と言われております。ちょうどそこの岩の上で、初代モロルド領主が船に残った船員に、手を振り安全であることを知らせたと言われています」


 三女ダイアナによる観光地整備も進んでいた。


 モロルドの歴史を詳らかにした彼女は、それを観光客相手に語り聞かせている。


 まだ客は数えるほど。

 商売の規模は小さいが――きっと旧都の新たな産業になるだろう。

 将来的に旧都が花街になるか観光地になるかは俺にも分からないが、ダイアナの選択がこの島をいい方向に進めてくれると信じていた。


 とまぁ、そんな感じで。

 旧都の再開発は思うように進んでいる――。


 と、言いたいのだが。


「絶倫領主ぅッ! なんとかしてよッ! アタシら、家族でしょぉッ!」


「なんとかと言われてもなぁ……」


「ステラの姉の私は、アンタにとって義姉なんだぞ! 義姉の言うことが聞けないの!」


 燕鴎四姉妹次女マーキュリー。

 彼女の仕事だけがうまく行っていなかった。


 四姉妹の中で、新都と旧都を結ぶ交通網について整備しているマーキュリー。

 決して頭はいい方ではないが――決断力と統率力に優れ、現場監督官としての才覚を持っている彼女のおかげで、行路開発は順調に進んだ。


 途中まで。


「海路はいいよ! 精海竜王のおっちゃんや、海竜が手伝ってくれるから! けど、陸路と空路は今のままじゃ無理! 休憩する中継拠点が必要なの!」


「中継拠点か……」


 そう。

 旧都と新都を結ぶ行路。

 その開発に彼女は苦慮していた。


「そもそも道が無駄に東と西に分かれているんですよね。軍馬ならともかく、普通の荷馬やセイレーンが行き来しようと思うと、この大回りはたしかに面倒ですね……」


 噂をすればセリンだ。

 彼女は音もなく執務室に現れると、怖い笑顔を浮かべて部屋の隅に立っていた。

 義姉と戯れる旦那をどこか咎めるように。


 正妻の無言の圧に喉がヒュッと鳴る。

 同じく、マーキュリーもクェッと鳴いた。


「なぜ島の中間地点に拠点を構築しないんです?」


「中間地点というと……吉祥果の森か?」


「はい。街といわずとも村を作れば、陸路も空路も行き来がしやすくなります。島の中央に拠点があるのは、大きなメリットになると思うのですが?」


 セリンは壁面に掲げられた、モロルド諸島の地図を眺めた。


 北西から東南にかけて、ゆるりと伸びるモロルドの島。

 その北端にあるのが新都で、南端にあるのが旧都だ。


 そして行路は――まるで島の中心を避けるように、東回りと西回りに伸びている。


 いや、まるでもなにも避けているのだ。


「まあ、海に住んでいたから知らないよな」


「あら? 私、もしかして馬鹿にされていますか?」


「ステラもしらなぁ~い! なになにぃ~! なんのお話なのぉ~!」


 さらに窓からステラが飛び込んでくる。

 自由気ままな第二夫人は、領主の妻とは思えぬ奔放さで執務室を飛び回ると、最後は第一夫人の胸に飛び込んだ。

 第一夫人と第二夫人の仲が良好で本当に助かる。


「ふむ、まぁセリンたちも、知っておいた方がいいだろう。この島の中央――吉祥果の森に住む、鬼たちについて」


「鬼でございますか?」


「鬼ぃ? 鬼ってなぁ~にぃ?」


 東国出身ということもあり、何かを察するセリン。

 一方、西洋のモンスターということもあり、ピンと来ないステラ。

 妹と同じく、マーキュリーも首を振る中――俺は家祖から伝え聞く、モロルド本島中央に棲む、怪異について語りはじめた。

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