かくして絶倫領主はその肉棒――ではなく肉体により、セイレーン四姉妹を成敗した。
男たちは解放され、絶倫領主たちに先んじて本土へと戻された。
事件は丸く収まった……。
と、終われればよかったのだが。
「やはりこの件、俺の一族絡みのできごとだったか」
「はい。我らセイレーンたちは、代々モロルドの領主にこの島で飼われておりましたの」
「この島はそもそも逆ハーとは真逆の、セイレーンたちを飼育するための島」
「ここで私たちは、西国の貴族好みの商品として仕上げられ、商船の荷に紛れ込ませて出荷されていくのです。私も、モロルドが領土放棄されることがなければ、数ヶ月後には本土の貴族に売り渡される予定でした……」
燕鴎四姉妹から語られた、セイレーン逆ハー島の真実は俺を打ちのめした。
今から本土に逃げた父上とカインを、とっちめてやろうかと思うほどに。
俺の一族はセイレーンの奴隷商売を行っていたのだ。
有翼であることを除けば、普通の人間と大差がないセイレーン。
そこに目をつけたモロルドの祖先は、密かにこの地図にない島にセイレーンを囲い、文字通り彼女たちを飼育・繁殖してきた。
若い男を島に放り込み、セイレーンに精を絞り取らせ、子を産ませる。
そして、妙齢まで育ったセイレーンから、その翼をそぎ落とし――普通の人間と見栄えを変わらなくする。
あとは本土の好事家にお任せあれ。
そんなあくどい商売に俺の家族は手を染めていたのだ。
弟のカインまで。
「領地を召し上げられた領主の手の者は、鎖を外すなり『どこへなりとも行くがよい』と無責任に言い放ちましたわ……!」
「先に私たちを籠の鳥にしたのは、アイツらだっていうのに!」
「そこで、私たち――血統書つきの高級セイレーン奴隷として、特別に飼育されていた四姉妹が、島のセイレーンをまとめあげて蜂起したんです」
「とはいえ、セイレーンは女しか生まれることのない生き物ですの。種を残し、次の世代を産むためには、男の精がどうしても必要になりましてよ」
「飼われる側から飼う側へ! 私たちは――男たちを速やかに集めることにしたのさ!」
「それが旧都を襲った理由にして、逆ハー島誕生のいきさつです」
「…………なるほど」
この地を治める領主として。
そして、彼女たちに辛い宿命を負わせた一族につらなる者として。
どういう言葉を紡ぐべきかとても迷った。
自分のやったことではない。
水に流せと言うこともできる。
だが――彼女たちの苦労を思えば、そんな無責任な言葉は吐けない。
俺はすぐさまその場に膝を突き、額を地面に擦りつけた。
「すまない。俺の家族と祖先が、君たちに酷いことをした。この罪は、俺とその子孫が、何代もかけて償っていこう。どうか、許してくれ」
「…………なっ! 絶倫領主が、我らに頭を下げるといいますの!」
「ちょっ! ちょっと待ってよ、絶倫領主さま! たしかに、私たちは酷い目に遭わされたけれども! それはアンタじゃないよ!」
「そうです! 絶倫領主さまは、なにも悪くはありません! むしろ、私たちのことにこんなにも理解をしめしてくれて……! うぅっ、絶倫領主さまが、私たちの本来の領主さまだったならば、どんなによかったことか!」
ただただ一族の愚行を詫びることしかできぬ俺を、彼女たちは寛大にも許してくれた。
ここにセイレーンと人類――というより、モロルド家とのわだかまりはなくなった。
とはいえ、問題はまだ残る。
このセイレーンたちを、これからどうするかだ。
「……ざっと、この逆ハー島だけでセイレーンは100人ほどいるようだな?」
「そうですわね。孵化待ちの娘もいますから、まだ増えますわよ」
「セイレーンは卵生だからね! 繁殖速度はものすごいよ!」
「もちろん、ちゃんと避妊すれば無精卵になりますよ。卵を産むのは、セイレーンにとって生理現象のようなものですから。そうそう、セイレーンの卵は滋養強壮に効果があることでも有名で、勃起しなくなった男性も卵を飲ませればあら不思議……♥♥♥」
「君たちに行くあてはあるのか?」
この狭い島で自由を奪われたまま、この美しい乙女たちに朽ちていけというのは、いくらなんでも残酷すぎる。彼女たちに領主として、生きる場所を用意してあげなければ。
とはいえ、そんな場所があるだろうか……。
いや、あるな。
ひとつ、ぴったりな場所が。
「燕鴎四姉妹……いや、セイレーンたちよ。ものは相談なのだがな?」
俺は一族の手により、性技を仕込まれた有翼の乙女たちに、その技術を自由意志で使ってみないかと提案してみることにした。もちろん、それ以外の選択肢も含めて。
ちょうどこの島は、船夫たちの癒やしの場を必要としていた。