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第11話絶倫領主、セイレーンの少女と出会う

 セイレーン逆ハー島は旧都の沖合にあった。


 モロルド本島の百分の一もあるかないか。

 人が住めるような平地はほとんどない。

 切り立った崖と岩礁に囲まれた、絶海の孤島だ。


 潮流も激しく、地元に住む漁師はもちろんのこと、遠洋航海中の船舶も避けて通る。

 まさかこんな場所にセイレーンが棲息していただなんて。


「いや、それにしたっておかしい。宮殿の地図にも描かれていなかったぞ……?」


「地図を描いた後に島ができたとか?」


「岳父どののような海竜が、外海側にもいると? それは考えたくないな……」


 もちろん自然現象として島が隆起する可能性もある。

 だが……それは極めてレアな話だ。


 となるとやはり――。


「宮殿ぐるみで、島を隠していた?」


「なんのために?」


 セイレーン逆ハー島の入り江。

 断崖絶壁を前に立ち尽くす俺に、良妻は曇りなき眼を向ける。

 精海竜王の箱入り娘に、人間の薄暗い部分を語るのが気が引けた俺は、ついつい喉の奥に言葉を引っ込めた。


 そんな俺に、妻はにじり寄ってくる。

 その眉根の皺が深くなったかと思ったその時――。


「あれぇ~? おに~ちゃん、おね~ちゃん、どうしたのぉ~? そこは、潮が満ちたら沈んじゃうからぁ~、危ないよぉ~?」


 パタパタと愛らしく羽音が響き、俺たちは空を見上げた。


「くっ、見つかったか! 気をつけたつもりだったが……!」


「旦那さま! ここは私にお任せください! 招雷打震!」


 セリンの呪言で、空から紫の稲妻が降り注ぐ。

 宙を舞うセイレーンに放たれたそれは、乙女の身を焦がさんとして――。


「ぴぃ! あぶなぁ~い!」


 ひょいと簡単に避けられた。


 砂浜を撃つ紫の雷。

 白い煙が立ち上る中、その周りをゆるゆるとセイレーンが降りてくる。


 金色の跳ねた髪に華奢な身体。

 乙女というよりも少女。

 まだ子供のセイレーンは砂浜に降り立ち、とてとてとこちらに歩み寄ってきた。


 これまで会ったセイレーンたちと違って、なんとも友好的に。


「ほらほらぁ~! 雷も降ってきたぁ~! 危ないよぉ~!」


「えっ、あっ……うん?」


「あれれぇ~? おに~ちゃんもおね~ちゃんも、ステラと違って翼がないよぉ~? どうしよぉ~? それじゃ崖を上れないよぉ~?」


 ぴぃぴぃと囀る少女セイレーン。

 白絹の貫頭衣をまとった彼女は、俺たちの周りをパタパタと飛び回り、「困ったよぉ~、困ったよぉ~」とあわてふためく。


 なんだか妙な娘と出会ってしまったな。


「あの、心配しなくても大丈夫ですよ。翼はありませんが、私は神通力で空を飛ぶことができますので」


「えぇっ! 翼がないのに空を飛べるのぉ~! おね~ちゃん、すごぉ~い! その方法をみんなに教えてあげてぇ~! そしたらまた、空を飛べるようになれるよぉ~!」


「みんな? また空を飛べるように? 喜ぶ? えっと、そもそも貴女はいったい?」


 セリンの問いに、はっと少女セイレーンが背筋を伸ばす。

 彼女はぱたぱたと翼をはためかせて宙を舞うと――どこかで見たような感じで、名乗り口上をあげるのだった。


「えっとぉ~! ステラはねぇ~、いぇんおう四姉妹の四女ぉ~! ステラだよぉ~!」


「四姉妹……?」


「四女?」


「そうだよぉ~! えっとねぇ~! たしか、こうポーズをしてぇ~? あれぇ~? こうだったかなぁ~? どうだったかなぁ~? 忘れちゃったぁ~?」

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