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第10話 絶倫領主、セイレーン逆ハー島へと渡る

「お~ほっほっほっ! 慌てて帰って来たようですわね、領主さま!」


「けれどももう遅いわ! この都――モロルド旧都とそこに住む男たちは、この燕鴎四姉妹が預かった!」


「ごめんなさいごめんなさい! 私たちも生き残るために必死なんです! ですから、この男の人たちは、私たちの島――セイレーン逆ハー島に連れていきますね!」


「「「「「せ、セイレーン逆ハー島だってぇッ!!!!」」」」」


 連れてきた兵士たちが驚きの声を上げる。


 セイレーン逆ハー島。

 たしかに言葉の響きは魅力的だ。


「……旦那さま?」


「そんなことはさせないぞ! 燕鴎四姉妹!」


 兵士たちが騒然となる中、俺は毅然とセイレーンに立ち向かった。

 だって横で嫁がバチバチって、白い稲妻を放っているんだもの。


「というか、なんだそのふざけた島は! そんな島、俺は把握していないぞ!」


 気を取り直して、話を仕切り直す。

言った通り、そんな島があるなんて俺は知らない。


 違法に彼女たちが島を占拠したのか?

 この短時間で? 俺に気づかれずに?


 宙を舞うセイレーンが四姉妹が嘲るように笑みを浮かべる。

 彼女たちは海鳥のように宙を舞うと旧都の港へと飛んでいく。

 まるで俺たちを誘うように――。


「うふふふっ! なにも知らない絶倫領主さま!」


「バカなアンタを、特別にセイレーン逆ハー島へ案内してあげるよ!」


「わ、私たちについて来てください!」


 おあつらえ向きに港には帆船が係留されている。

 これに乗れということだろう。


 しかし、俺もバカではない。


「バカにするな燕鴎四姉妹! セイレーンがどういう魔物か知らぬと思ったか! 船に乗せて歌で惑わすつもりだろうが……そうはいかんぞ!」


 伝承通りに彼女たちの餌食になるつもりはない。

 俺は咄嗟に船に乗るのを思いとどまった。


 しかし――俺以外の男たちはどうかな?


「どけ! 俺がセイレーン逆ハー島に一番乗りだ!」


「あんなかわいいお姉ちゃんに、侍らされるならそれもまたよし!」


「ハーレムもいいけど、逆ハーレムもいいよね!」


「美女主人に仕える喜び!!!! これぞ男に生まれた本懐!!!!」


 イーヴァンが連れてきた精鋭兵たちは、誘われるまま帆船に乗り込んだ。

 そして、俺とイーヴァンが止めるのも聞かずに錨を上げて――間を置かずにセイレーンの魔歌が海に響き渡った。


 精鋭とは?


「ぐっ、ぐわぁあああッ! バカな、罠だと!」


「そうか、最初からセイレーンはこのつもりで!」


「船に乗ってしまえば、あとはもうセイレーンの思うがまま!」


「俺たちはまな板の上の鯉……いや、ベッドの上の男ということか!」


 やかましいわ!


 とにもかくにも、帆船はあっさり沈められてしまった。

 港に取り残された、俺とセリンと、イーヴァンの三人は、セイレーンに掠われていく兵たちを、どこかしらけた顔で眺めることしかできないのだった。


 いや、とぼけている場合じゃないんだけどね……。


「どうする、我が君。新都から連れて来た精鋭たちが、いとも簡単に連れ去られてしまったぞ。セイレーン侮りがたし。一度、都に戻って体勢を立て直すか?」


「いや、逆に今が好機だ。セイレーンたちをつけよう」


「おいおいさっきの今だぞ? 船に乗れば、セイレーンの魔歌で正気を失うんだぞ?」


「それなんだがな……」


 俺が視線を向けたのは、控えていた妻のセリン。

 彼女は視線にこくりと頷くと、ひょいと海に飛び込んだ。


 魔歌にあてられたかと叫ぶ銀猫だが、その声が尻切れトンボに小さくなる。

 仕方ない。海に身を投げたはずの我が妻はなぜか健在。

 まるで平地と変わらぬように、海に立っていたのだから。


 これなら船に乗らずに海を渡れる。


「悪いがセリンに島まで運んでもらう。セリン、頼めるな?」


「お任せください旦那さま! 精海竜王直伝の渡海の術をとくとご覧あれ!」


 連れてきてよかった海竜の嫁。

 船に乗れないならば、歩いていけばいいのだ。

 俺はセリンに手を引かれ、彼女の秘術でセイレーンが待つ島へと向かうことにした。


 はたして、セイレーン逆ハー島とはどういう島か。

 嫌な予感しかしないが――。


「急ごう! 男たちの精気がしぼり尽くされる前に!」


 迷っている時間は、俺たちにはなかった。

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