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第7話 絶倫領主、童貞を捨てる?

 新都に精海竜王が築いた王宮は、西国のものではなく東国の趣があるものだった。

 城は城であっても砦はない。いざという時の防衛機能を放棄し、その代わりに政治機能と居住性を高めたその施設は、暮らしてみると意外と悪くなかった。


 内海を挟んで北の大陸。

 そこに覇を唱える大帝国ではこういう造りが一般的なのだという。


 もちろん、図面を引いたのは、俺の頼れる岳父どのだ。


「すまんのう、我が西国の事情に疎くて」


「いやいや、義理の親に家を建ててもらっておいて、さらに文句を言うだなんて、そんなことしたら罰が当たりますよ」


「その代わり――いっぱい妾を囲えるよう、後宮は広くしておいたからのう。いっぱい孫を増やすのじゃぞ。我は娘と違って寛大だからな。腹違いでも種違いでも、孫は孫じゃ。分け隔てなく愛でてやろうぞ」


「どんだけ孫が欲しいんですか、精海竜王さま……!」


「セリンには内緒ぞ? アレは嫉妬深いからのう……ふっふっふ!」


 そして王宮の裏手には、王族の寵姫とその子供たちが住まう後宮なる施設が作られた。

 西国では王に嫁いだ姫たちはここで暮らし、協力して育児や生活を行うらしい。


 それは、大きな自治機構であり、姫たちの伴侶――王や領主たちも手出しができないのだとかどうとか。


「しかし、後宮ですか。どうにもしっくり来ませんね」


「そうさなぁ、西国の方ではなんというのだ? というか、そういうことはせんのか?」


「しませんねぇ。基本的に、愛妾などはそれ相応の身分が与えられて、独立するのが向こうの習わしですから。まぁ、そうできない例外も時にありますが……」


 窓の向こうの精海竜王が喉を鳴らす。

 岳父に心を見透かされた気がした俺が目を伏せたその時――執務室の天井に大穴が空いたかと思うと、そこから白い美少女が飛来した。


 黒い髪を揺らし、黄金の角に紫電をまとわせた彼女は、俺の正妻どの。

 顔は目が覚めるほどの笑顔だが――美人の笑顔って、こんなに怖いものなのね。


 無言の圧力に俺は執務机に座りながら息を呑んだ。

 そして、彼女の父――精海竜王はさっさと姿をくらました。


「ケビンさま? 単刀直入に申しますね? いつになったら我が閨に訪れてくださるのですか? こちらは毎日香を焚き、身を清め、髪を梳いて待っているのですよ……?」


「あ、いや……精海竜王さまも、すぐに子を作れとは言ってこないし、しばらくは大丈夫かなと思って。ほら、こっちで暮らす準備も、セリンには必要だろう?」


「準備万端整っていると申しておるのです!!!!」


 角から飛んだ雷が、俺の座る執務机の天板を焼いた。

 磨き上げられた教卓に黒く焦げた傷痕ができあがる。

 まるで龍が爪でも振るったようだ。


 こんなかわいい身なりでも、やっぱり彼女も海竜なんだなぁ……。


 俺はもしかすると、とんでもない嫁をもらってしまったのかもしれない。

 まだ、岳父――精海竜王の方がとっつきやすいかも。


「わかった、わかった! 今夜必ず訪れる! しかしな、やはり子作りは!」


「いいえ待てません! 私は、ケビンさまの正妻なのですよ! 誰よりもはやく、世継ぎを産み、その立場を明確にいたしませんと……それに、ケビンさまのはじめての女に……」


 急にごにょごにょと口ごもりだした俺の正妻。

 怖いんだか、可愛いんだか、どっちかにして欲しい。


 ただ、やはり閨を共にするのは、もう少し時間が欲しい。

 というか俺の方に準備がいった。


 だって……。


「その……俺が絶倫男と呼ばれているのは知っているな?」


「存じております! けど、どうせただのすげない噂にございましょう! そんなことを私は気にいたしません! なにより、私は竜王の娘にございます! 絶倫がいったい……なんだというのでございましょうか? むしろ望むところにございます?」


 ぺろりと舌なめずりをするセリン。

 うぅん、これはどう言葉をかければいいことやら。


 もちろん、絶倫領主の名は偽りである。

 そもそも俺は童貞である。

 自分で自分が絶倫かどうかも分かっていない。


 ただ、それでも噂が立つということは、それ相応の理由があるということ。


「分かった、それでは今宵そなたに、絶倫男の意味を説明しよう」


「……はい♥♥♥ 精のつく料理を用意して、お待ちしておりますね♥♥♥」


 言葉の意味をはき違えたセリンが嬉しそうに微笑む。

 春先に咲く華のような笑顔を振りまいた彼女は、再び稲光に変わると、自分が空けた天井の穴から、するりと晴天へと昇っていくのだった。


 はぁ、まぁ、いいか……。


「夫婦なら、いずれ知ることだしなぁ」


◇ ◇ ◇ ◇


「でっか!!!!」


「だから言っただろう? これが絶倫男の由来なんだよ……


「私の角くらいの太さと長さが……!」


「具体的にたとえるのはやめてください」


「うっ、こ、このようなものが、はたして人の身に入るものなのでしょうか?」


「入りそうにないから、やめようって言ったんだよ……」


 俺はヤル気満々の正妻に、精がつく料理で隆起した俺の魔羅を見せつけた。

 正直……無理だと思うけど、セリンってば勝ち気だからなぁ。


「こ、ここで逃げ出しては、精海竜王の娘の名折れ……! ケビンさま、どうか私のことはお気づかいなく、存分に愛してくださいまし!」


 はたしてそんな彼女の勇ましい言葉と覚悟は……。


「痛い痛いイタい!!!! こんなの無理です!!!! 裂けちゃうぅッ!!!!」


 聞くも無惨な懇願に変わり、結局子作りは未遂に終わるのだった。

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