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第32話:仲間外れだ!?

 アルサーの後について海の砂で出来た移動している間、グラッドは何人ものマーメイド達とすれ違った。陸の人が自分達の住処にいる光景に驚く者もいれば、物珍しそうな視線を向けてくる者もいる。中にはグラッドが訪れたことを察知したのか、物陰に隠れながら遠目に見物してくる集団もいた。


「いきなり撃たれたりするかな?」

「ないない。そんなことするのはマジョ様ぐらいだって」

「おだまり! それからその辺で覗ってるあんた達もジロジロ見てんじゃないよ!」


 ビリビリと水中を震わせるようにアルサーが大声をあげると、辺りから「きゃ!?」「わわ!?」といった声がいくつも聞こえてきた。どうやらグラッドから見えないだけでけっこうな数の住人達が見物に来ていたようであり、アルサーがソレに気づいていることにビックリしたのだろう。


「あー……その、なんだ。別に怪しいヤツと思われるぐらい気にしないからさ。アルサーさんもあまり怒らないでやってくれよ」

「こんなの怒った内に入らないよ。どうせ気になるならもっと近くに来て挨拶でもすりゃいいんだ」


 遠目に眺めるなんて失礼だろ。そういう礼儀の話をアルサーはしていた。


「仕方ないわよマジョ様。いきなり地上の人間が訪れただけでも珍しいのに、入口でいきなり攻撃されるわその上ピンピンしてるわだし。クラーケンを退治したってだけでもすごいのよ?」

「……もうクラーケンの話が広まってるのか? 俺がココに来たのはついさっきだぞ」


「そりゃそうでしょ。みんな、クラーケンを退治したのはどんなヤツか気になってたんだもの」

「……どういうことだ?」


 明るく光る海藻が連なってできた道を先頭で進んでいたアルサーがやれやれと首を振りながら振り向く。


「あんたが倒したクラーケンはね。私らにとっては大迷惑なヤツだったのさ。水上を移動する船を襲うだけじゃなく海中も荒らす。あの化物イカがいるだけで、マーメイドの食糧になる魚や甲殻類とかは獲れなくなっちまうんだよ」

「そいつは厄介だな……」


「そうそう、そうなのよー。下手すればマーメイドもやられちゃうからね。だからクラーケンがいる場所には近づかないよう気をつけるし、さっさとどこかに行くまで待つものなんだけど」


「今回のヤツはココの住人がよく使う漁場近くに長々と居座っちまってね。こうなれば危険を承知で退治するか追っ払う他ないと準備を進めてたら――」

「よくわからない人間が倒してしまった?」

「そういうことさね。どーせそこのバカ娘が警備の若い衆に『この人がクラーケンを倒したのよー』とか口止めもせずに吹聴したんだろ? やれやれだよまったくね」

「照れるわね~」

「何ひとつ褒めてないよ!」


 ぽかりとウレイラの頭が叩かれる光景に苦笑しながら、グラッドなりに今の話を頭の中で置き換えていた。 


 そもそも見知らぬ奴が自分達の村や町を訪れれば、住人からすれば目立つものだ。そこが旅人や商人が行き来する要所や大きな街なら、余程風体が怪しくでもなければあまり気にせず迎え入れられるだろう。

 しかし、よそ者が来ること自体珍しい場所ならば? 一体何者かと警戒されるのは当然だ。本来人間が行けるはずもない海中にあるサンゴの街がどちらかといえば後者側だろう。


 本来グラッドは怪しまれて当然であり、門前払いされても仕方ない存在に違いない。だが幸運にもウレイラは非常に協力的であったし、知りもしなかったが迷惑なクラーケンをグラッドは倒していた。


 地上でいうなら、辺境の町に大損害を与える恐ろしいモンスターを退治した戦士がたまたまその町に来たようなものだ。


 ――なるほど。もし自分がその町の住人なら、さっきの遠目に見ていたマーメイドのような態度をとるかもしれないな


 そこまで考えて、ようやくグラッドは自分が珍獣のような扱いを受けてる状態に得心した。


「ねえねえグラッド~。マジョ様とのお話が終わったらさ、クラーケンとどう戦ったのか話してよ。きっとその辺にいる人達も聞きたがってるだろうから、みんな一緒にさ」

「別に構わないぞ」

「ありがと!」


「盛り上がってるトコ悪いけど、ウチに着いたよ」


 アルサーがウチと言ったその場所には、巨大な巻貝があった。地上の建物でいうなら2~3階建てといったところか。正面には玄関口らしき扉がある。それだけで立派な家に見えてくるのだから不思議なものだ。


 移動距離と感覚からしてこの場所は街の中心にあたる。ウレイラが貝で作られた家はお洒落で高いと言っていたので、コレがいわゆる豪邸と呼ぶべきものなのだろう。


「はいんな」

「では、お邪魔します」

「しまーす♪」


「小娘は帰んな。こっから先は大人の時間だよ」

「ええ?! なんでこのタイミングでそんなこと言ッ」


 ウレイラが入る直前に、玄関口がバタンと閉じられた。

 ポツンと取り残された少女は少しの間固まってしまい、終いには肩を大きく震わせていき。


「ずるーーーーーーい!!」


 街中に轟きそうな絶叫が、彼女の心境を物語っていた。



 ◆ ◆ ◆




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