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30話:マーメイド達のコーラルリーフ

「あ、見えてきたわよグラッド! あたし達の――サンゴの街が!」

「……アレが、マーメイドの街なのか」


 何故サンゴの街と呼ばれるのか。

 初めて訪れるグラッドでもその名が特徴を捉えているのかがわかる。


 先日戦ったクラーケンの何倍・何十倍も大きい巨大なテーブルサンゴの上に街がある。その街にある建物は独特で、木の枝が伸びたような物や丸みのあるキノコのような形をした物が多いように思えた。色や形は異なれどどれも珊瑚なのだろう。

 珊瑚の街とは、マーメイド達が住む巨大な珊瑚礁の事だったのだ。遠目なので確証はないが、街は薄い膜のようなものでドーム状に覆われているようだった。


「あそこにはどれくらいのマーメイドが住んでるんだ?」

「んー、数百人はいるんだろうけど正確な数はわからないかなー。住みたいって人がどこかの海から引っ越してくる時もあるけど、同じように出ていく人もいるしね」


「アレと同じような街が他にもあるのか」

「あたしはあの街しか知らないけど、そうらしいわ。たまーにすっごい遠くの海から旅をしてきたマーメイドもいるしね」

「旅人もいるのか。まあ、そりゃあそうだよな」


 自分のように各地を旅する者がいるのだ。

 海の中にそういう者がいてもなんらおかしくはない。


「でもグラッドみたいな陸の人を連れてくなんて滅多にないわ。もしかしたらあたしが初めてかも? せっかくだし自慢しちゃおっかなー♪」

「それはいいけど、ビックリしていきなり攻撃されたりしないだろうな?」

「平気平気。ちゃーんとあたしが話を通しておくわよ」


 その言葉はかなり呑気なものであったが、ウレイラの協力がなければグラッドはそもそもココまですら来れていないのだ。よって疑いなど今更過ぎてする気にもならない。

 何かあったらその時はその時である。グラッドは彼女を全面的に信頼することにしていた。



 徐々に近づいてくるサンゴの街を前にして、グラッドは興味津々でウレイラにいくつも尋ねていく。


「あの中心にある一際高い建物には、貴族や王族なんかが住んでるのか?」

「そうねぇ、感覚的には族長って感じかな。何か大きな行事や困りごとがあれば皆をまとめてくれたりするわ」


「珊瑚っぽい建物以外に、大きな巻き貝みたいなのがちらほら見えるんだが何か違うのか?」

「ふっふー、アレも一種の家よ。あのサイズの貝は簡単には見つからないし、持ってくるのも大変なんだけどね。お洒落だからみんな憧れてるわ」

「つまり、豪邸ってわけか」

「あるいは職人さんが手掛けたマイハウスね」


「あの街を覆ってる膜は?」

「ああ、あれは……っと。ちょっとタイムね、警備の人達が来たわ」



 ウレイラがそう言って泳ぎスピードを緩めると、街の方から二人のマーメイドがグラッド達の方に向かってきた。

 彼らは軽装ながら防具で身を固めており、その手には武器のトライデントを携えている。人間でいえば二十代ぐらいの若者だろうか、とグラッドは判断した。


「やあ、ウレイラ。まったくお前ってヤツは帰ってくるのが遅いんだから。あんまり親御さんに心配させるなよ」

「ごめんごめん、途中で海が荒れちゃった上にトラブルもあってね。思ってたよりも遅くなっちゃった」


 親類縁者のような気さくさで会話する辺り、よく見知った仲なのだろう。巡回していたとおぼしき彼らの態度は単純に心配していた者のそれだった。


 ただそんな彼らも、完全に部外者であるグラッドに気づいた時には警戒心を顕わにした。それは当然の反応なのでグラッドは大して気にしない。むしろ、突然の来訪者――しかも陸の人――に驚きつつも役割を務めようとする辺り優秀である。


「あなたは……まさか陸の人か! どうしてこんなところに?」

「ウレイラ。お前が連れてきたのか?」


 トライデントの穂先を向けられて、さてどう説明したものかとグラッドが頭を回しはじめる。


 しかし、何か口にするよりも早くウレイラがグラッドを庇うように前に出た。


「そんなあからさまに警戒しないでよ、この人が気を悪くするじゃない!」

「いや、そうは言ってもだな……」


「わかってるわよ、ちゃんと事情を説明するからよーく聞いてね」


 そう告げると、ウレイラは宙返りをしてグラッドの真横につき、その腕をギュッと抱きかかえた。

 相手方からすれば、その光景はさぞ仲睦まじさを証明するようなものに見えたに違いない。


「紹介しまーす。なんと、あのクラーケンを倒してあたしを救ってくれた命の恩人兼愛しのプリンス。グラッドさんでーす!」


「「「なにーーーーーーーーー!?!?」」」


 “キャッ、遂に言っちゃった♪ 恥ずかしい~”と言いたげに身をくねらせるウレイラの発言には、警備達どころかグラッドも驚愕した。


 まるっきり違うわけではないが、ところどころに誇張と妄想と嘘が混じっていたからだ。

 そのため慌てて小声で話しかけた。


「おい、いくらなんでもその説明はどうなんだ!?」

「だいじょーぶだいじょーぶ、これぐらいの方が話が早いんだって」

「ほんとかよ……むしろ怪しまれてもおかしくな――」



「これは失礼しました!」

「あなたがあのクラーケンを倒したのですね! それどころかウレイラを助けてくれていたなんて……ようこそサンゴの街へ」


 態度が百八十度回って、一気に歓迎ムードになっていた。

 その急変っぷりにグラッドがついていけずに固まっていると、ちょいちょいとウレイラの指が頬をつついてくる。


 首をそちらへ回すと「ね? 大丈夫だったでしょ♪」とちょっとしたドヤ顔を浮かべるマーメイドが一人。

 かくして、グラッドは悠々とマーメイドの住処に足を踏み入れることになったのである。


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