「……女ってどういう意味なのロベリー?」
「お待ちくださいルビィ様お願いですからその爪をしまってくださいちゃんと説明しますから!?」
「つまんない事言ったらひっぱくわよ」
「怖い!? ええっとつまりですね、不死身の騎士であるグラッド様といえど男ですから。可愛い女の子におもてなしされれば嬉しいに違いありません」
「……そうなの?」
「そうです!」
どこからその自信が出てくるのかな。
でも、ロベリーはたくさんの本を読んでいるし、人間の街に行く機会も多い。
だから、ワタシよりも人間の男の人について知っている可能性は十分にある。
「おもてなしってどういうの?」
「好き好きオーラを全開にしながらイチャイチャするんです。きっとグラッド様は体験したことがないはずですよ」
「す、すきすきおーらをぜんかいでいちゃいちゃ? それって何語?」
「ご安心ください、後で私の持っている本をお渡しします。それには男を喜ばせる方法が書いてありますから、それを覚えて実行に移せば」
「グラッドもすっごく喜ぶ?」
「それどころかルビィ様の魅力にメロメロになるでしょう。ずっと一緒に居たいと思ってくれるかも」
「ずっと! 一緒に!? ロベリー、いますぐその本を持ってきて!!」
そんなやり取りがあって、ワタシはロベリーの本を熟読した。本を読むのは得意ではなかったけれど、ロベリーの用意した本は物語になっていて面白く読みこめたの。
その多くが女の子が主役の恋物語で、どうすれば意中の相手に気持ちを伝えるか。相手に好きになってもらえるかについて書かれていた。
正に今のワタシにぴったりだったわ。
そして、準備を整えたワタシはグラッドに会おうとしたのだけれど。こっちから会いに行こうとしたら、
「そなた一人でグラッドに会いに行くのは認めんぞ我が妹よ」
「横暴だわ!?」
「城からこっそり抜け出そうとした者の言うことか。近くに散歩しに行くのとは訳が違うのだ」
お兄様に見つかり、ワタシから会いに行くのは失敗に終わった。
それからしばらくはお兄様から了承するまで文句を言い続けたり、恨んだり、暴れたりした。
その結果。
「仕方ない。グラッドにこちらに来てもらうよう頼むとしよう」
「妥協みたいだけど、わかってくれて嬉しいわお兄様!」
「……大暴れしすぎて城が壊れたらたまらんからな」
お兄様の許可を勝ち取ったワタシは、それから体感でずいぶん待ったわ。うまくグラッドが見つけられなくて、最終的にはロベリーにも協力してもらったり。
結局グラッドに手紙を届けられたのはロベリーなわけだから、その判断は大正解だったわね。
そして始まるワタシの攻勢。
久しぶりに会ったグラッドは前よりもカッコよくなってて、ワタシの成長にとても驚いていたわね。
積極的なスキンシップの効果は絶大で、グラッドってば照れながらも嬉しそうだった。
けど、それはワタシも同じ。むしろワタシの方がすっごく嬉しくて、変に見られてないかとてもドキドキしていたの。
お色直しなんて理由をつけて退席した時だって、
「……ふわぁ~~~~~」
「大丈夫ですかルビィ様! 魂が抜けたかのような声が出ちゃってますが」
「覚えたことを実行に移すのが意外と大変だって、今更になってわかるなんて……。ロベリーから見てどうだった? グラッドは嫌そうじゃなかったかしら?」
「一見困ってるように見えますが、内心では大変お喜びだったかと」
「そっか、それなら良かったわ。……えへへ♪」
「お喜びになられているところに恐縮なのですが、食事が終わったらグラッド様のお部屋へご案内となります。事前の打ち合わせどおり、ルビィ様のお部屋へお二人で行く形ですね」
「だ、大丈夫かしら? 綺麗にはしてあるけど、やっぱり自分の部屋に招き入れるなんてやりすぎかしら?」
「グラッド様のような方には、やりすぎぐらいがちょうどいいんですよ。ですが気をつけてくださいね? グラッド様も男性ですから、いきなり襲いかかってくる可能性もゼロではありません」
「どっちかといえば、困惑したグラッドが出ていく方が心配だわ……」
「そこはアレです。ルビィ様が上目遣いで説得されればイチコロですよ」
「……ほんとに?」
「はぅ!? そうです、そんな感じでやれば大丈夫です」
「うぅ……緊張してきたわ。それに血……血が欲しくなってきちゃった」
「それもグラッド様にお願いすればいいのです。きっと喜んで差し出してくれますよ」
「…………カプッてしても怒らないかな?」
「ルビィ様それ以上可愛くされると私が堪らなくな――いえ、今後に支障をきたすのでその辺で!」
その後は概ねなんとかなった。
予想外だったのは、グラッドが一緒のベッドで寝てくれた事。さすがにコレは無理かなと思っていたので、グラッドがそこを許容してくれたのは良かったわ。
だって、寝ている間もずっと傍にいられるもの。
もしグラッドが寝ている間に苦しんだりしても、どうにかしてあげられるかもしれない。
ただ思っていたのと違ったのは。
ワタシからスリスリするのはいいし、お願いすれば撫でてもくれたけど。
グラッドの方からワタシに触れてくることはなかった。
何より一番気になったのは――。
血を貰った時に、ひどく悲しい感情を感じとったことだった。