「あー……恥ずかしかった」
「グラッドまだ言ってるのぅ? もうお店から出て時間も経ってるのに」
こっぱずかしい時間を終えて店を後にしたオレ達。今は街外れを流れる川の畔で休憩していた。
街を見て回るのも一段落したからであり、決してあのカップル用ドリンクの店でむしろ疲れたからではない……。
「あら、グラッド様はお気に召しませんでしたか?」
いつの間にか合流したロベリーが、ルビィの服が汚れないように大きな布のシートを草の斜面に広げながら尋ねてきた。
敷かれたシートの上にルビィが早速腰を下ろしながら一息つくのを眺めながら答える。
「お気に召すもなにも、ああいう物だとわかっていれば注文してなかっただろうな」
「それは残念です。でも、ルビィ様は違いますよね?」
「すごい良かったわッ。グラッドの顔を間近で見ながら同じジュースを飲むなんて、すっごいドキドキしちゃった」
「それはよかった、おすすめした甲斐があるというものです」
あの店はコイツの差し金だったか。
なんと平然に恐ろしいことを……。
「でも続けて二回飲むのは、ちょっと恥ずかしかったかも……」
「はい? なぜ二回も?」
「……同じドリンクが二種類あったから両方頼めばいいって話になったんだよ。あの判断は結果的に大きな過ちだったな」
運んできた店員のあの顔。
ぜったい面白がってたに違いない。
「飲まないという選択肢もあったのでは?」
「そこはほら、自分から頼んでおいて飲まないとかどうなんだ?って話さ」
「グラッド様も案外律儀でいらっしゃるんですね」
「でもちょっとお腹たぷたぷになっちゃった。もうしばらくココでのんびりしたい気分だわ」
「ふふふっ、では紅茶を用意するのは止めにしましょう。グラッド様もどうぞ、シートにお座りになってください」
微笑むロベリーに促されてシートの上まで移動し、座り心地を確かめてからごろんと仰向けに寝そべる。
ゆるやかに流れる川のせせらぎの音と、ふわりと肌を撫でるそよ風の心地よさが合わさり大変気持ちがいい。
ただ今のままでは日差しが少し邪魔なので、
「ロベリー、大きな日傘なんてあったりするか?」
「ええ、ございますが」
「ちょっと貸してくれ」
手渡された黒い日傘を大きく広げて、寝転がった時に頭に影ができるように置いてみる。これで太陽が眩しいってこともなくなった。
「グラッドがそうするなら、ワタシもこうするわ」
オレを真似てルビィもごろりと横になる――だけではなく、なぜかオレにぴったりとくっついてきた。
「屋外で横になるなんてお姫様にははしたないんじゃないか?」
「そんなの気にしないもーん。誰かに見られてるわけでもないし」
「あの、ルビィ様? 私がいるんですけども」
「ロベリーはいいの。あ、でもお兄様には伝えちゃダメよ」
「はぁ……」
「いっそのことあなたも寝ちゃえば? そうすればみんな一緒になれるわよ」
「自分のお付きを共犯に仕立てあげるなよ」
「さすがに寝るのはちょっと。なので、こういうのはどうでしょうか」
ルビィの近くにロベリーが正座をして、その膝上にルビィの頭をポンと乗せた。
「寝心地が悪かったりしませんか?」
「ぜんっぜん。むしろ柔らかくて気持ちいいわよッ」
「それはよかったです」
頭を撫でられて気持ちよさ気に目を細めるルビィは、飼い主に甘える猫のようだ。いや、この二人の関係はむしろ逆であり、ロベリーとルビィはおそらく
でも、そうか。
ロベリーの膝枕は柔らかくて気持ちいいのか。
「……じー」
「…………あの、よければグラッド様もしますか? ひざまくら」
「いや、そういうつもりで見てたわけじゃ――」
「ダメよグラッド! この枕はワタシの物なんだから」
「あ、ちょっ、ルビィ様! そんなスリスリされるとくすぐった……んぅ!?」
「お付きに変な声あげさせてないで、静かにしようなルビィ」
「む~~……」
ここのところ、旅先でこんな安息の時間を過ごした記憶もない。
こんな穏やかな時間なら、いくらでも欲しいもんだ。
頭をよぎりかけた最近の旅路を頭を振って強引に追い払い、オレは己の欲求に素直に従って、そのままゆっくりと目を閉じた。