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内助の脅威17話

砂ぼこりをあげながら、趙雲は、愛馬、白龍にまたがり、張飛の陣営へ駆け込んだ。



その勢いに、行き交う兵達は、飛び逃げながら、身を交わして行く──。



そして、白龍は張飛の天幕前で止まった。



ぬしよ、どうした、その勢いは?」



突然現れ、平伏している趙雲へ、張飛は、やや、呆れながら、言った。



「無礼を承知で、参りました。火急の用件で……」



「言われなくとも、分かるわ。主を、見たらのぉ」



張飛は、槍を取ると、趙雲の話しも聞かず、表へ出る。



「して、どこを押さえる?」



馬にまたがりながら、張飛は、いかほど兵が必要かと、趙雲へ問うてきた。



「それが、長江を封鎖せよと。孫夫人が、阿斗様を連れ去りました」



瞬間、眉を潜めた張飛は、



「呉のおなごは、やってくれるのぉ。孔明の策じゃな?」



と、何やら腹の座った言葉を返し、陣営へ激を飛ばした。



こうして、張飛と共に趙雲は、更に、南下して、呉との国境を押さえに向かった。



「のお、趙雲、長江封鎖は、分かった。が、これより兵を二方へ分けるぞ。目的は、阿斗様を連れた孫夫人。長江かわへ、達する前に孫夫人を、一端、留める」



「成る程、下手に、呉を刺激しないと……」



「ん?そうなるのかのぉ?我は、ただ、阿斗様を奪還すれば良かろう、そう、思ったのだが?」



「はあ、しかし、孔明様には、阿斗様の事は、忘れろと、長江封鎖をと、命じられました」



「まあ、それは、物の例えみたいなものよ。考えて見ろ。何が、最も大切なのか」



「それは、張飛様、阿斗様では!」



「ほれ、やはり、そうきたか。主らしいわ。確かに、阿斗様も、大切じゃがな、肝心なのは互いの面子」



馬で駆けながら、張飛と、かいつまんだ話しをしているからなのか、趙雲は混乱してきた。



「まっ、趙雲、主は、陸路を押さえろ。見送りに間に合ったとでも言っておけ。我は、長江封鎖へ動く。おなごらは、駄々をこねるじゃろう。そのまま、我の元へ連れてこい。我も、ついでに、孫夫人を見送るぞ」



なるほど、と、趙雲は思う。



要するに、下手に食ってかかるなと、相手は呉の船に乗りたい、ならば、乗せれば良いだけの話。そして、阿斗を上手く船に乗せなければ、要らぬ争い事にはならない。



帰るという者を迎えに来た船に乗せ、こちらは、見送る、ただ、それだけの話、なのだ。



「まあ、いささか、呉側も、度が過ぎる所はあるがのぉ、趙雲よ、焦りは、禁物ぞ」



その一言を残して、張飛は、兵と共に駆けて行った。



呉の船は、国境まで。いくら、正当な理由があろうと、蜀の領土へは入れてはならぬと、声高に指示を出しながら……。



趙雲は、格の違いを感じていた。



孔明といい、張飛といい、場数を踏んできた者の底力とでも言うべきものを、目の当たりにしたような気がした。



「では、我らはこれより、孫夫人のお出迎えへ向かう。無事に迎えの船にお乗り頂けるよう、警護いたす!」



張飛に与えられた兵にむかって、趙雲は叫んだ。

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