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内助の脅威14話

それから、暫く後、表宮と裏宮、それぞれへ、書状が届いた。




一通は、劉備宛のもので、領内に不穏な動きがあり、平定を求める




官の声だった。




そして、もう一通は──。




「尚香様、兄王様からの正式な、書状でございます」




嬉しげに、侍女は書状を差し出した。




書かれている内容は、ここにいる者には、わかっていた。




「さあ、この日が参りましたよ」




せかす、侍女に、尚香は何故か気が重かった。この日を待っていたさずなのに──。




もし、孫朗と名乗り続けていたなら、これ程、気重になっていただろうか。




「姫様、尚香様!母上様がご病気ですぞ、それも、重篤な!」




書状には、そう、書かれてある、と、国を出る時、兄王より聞かされていた。




それを理由に、帰国せよと。できれば、その時──。




ああ、そうか。




と、尚香は思う。




この気重さは、あの、天真爛漫な笑顔を謀る事になるからだ。




しかし、自分に課せられている役目は、それ、であり、その為に嫁いで来たのだ。




「姫様、早速、帰国の嘆願を。この書状を見せれば、今の劉備ならば、二つ返事で許可することでしょう」




「ああ、わかった。……そして、後の繋ぎは頼む」




尚香は、口重に答えると、差し出されている書状を受け取った。




その頃、劉備は皆の反対を押しきって、自ら問題の地へ赴くと言い張っていた。




「書状が無事に届くくらいだ。まだ、暴徒が現れ、動乱とまではなっていないということ。視察、で、構わぬだろう」




集まる官僚達は、当然ながら反対した。




罠かもしれぬ。




そもそも、何が起こっているのかもわからない。




そんな曖昧な書状に乗せられ、お出ましになるのか──と。




「だがな、私が出れば、収まるかもしれぬだろう?それに、名のある武将達は、各地へ出ておる以上、私しか、おらぬだろう?」




「お待ちください!」




趙雲が、声をあげ、自分が行くと、言い張った。




「では、ここは、どうなる?そして、仮に、現状が想像以上のものだったとしよう、さすれば、援軍を要請せねばなるまい。趙雲、お前には、残っていて欲しいのだよ」




柔らかな口調ではあるが、劉備には、それなりの覚悟がみられた。



君主の責任、と、でもいったものだろうか。




その重層的な志向に、場にいる者は、結局、異を唱えることができなかった。




劉備が、部屋を出ると、尚香の姿を確認した。




きっと話を聞いていたのだろうと劉備は思い、




「ああ、尚香殿、暫く、私は視察のために、ここを開けまする。すまぬが、兵の気が抜けぬように、しっかりと、鍛練を行ってもらえまいか」




などと、尚香の機嫌をとってみる




あの気性、共に行くなどと言われては、なんとなく、収まるものも収まらなくなりそうだ。なによりも、敵国であった国から嫁いで来た姫を連れて行っては、余計な混乱を招くだけだろう。




劉備は、平定を優先することを思案していた。




そして、何か、一言二言かえってくるものだと、身構える劉備に、一通の書状が手渡される。




何事かと、中身を改めて見ると、尚香の母が重篤な病であると、書かれてあった。




「国へ、いえ、宿下がりを……できましたなら」




「ええ、もちろん、お母上のお側に、おられた方が良いでしょう。きっと、尚香殿のお顔をみたら、お元気になりますよ」




劉備は、二つ返事で、国元へ帰ることを承諾した。




空々しい、取って付けた言葉も、何故か劉備が語ると、心のこもった物に変容する。




心から尚香の母の容態を気にして、なおかつ、妻である、尚香のことも気を配る、なんと繊細な男だと、思いつつも、尚香は劉備に対して申し訳なく思っていた。




それが、謀っているからか、それとも、幾ばくか、夫婦という時を過ごしてきたからなのか……。




いや、やはり──。




「おお、その様に、気落ちせず。きっと、良い方向へ向かいますよ。どうか、こちらのことは考えず、お母上が落ち着かれるまで、国元でお過ごしなさい」




劉備は尚香へ、優しく声をかけた。

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