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内助の脅威11話

そうして……、武漢文官は、再び目を丸くしていた。




ギクシャクしていた、主、劉備と呉より輿入れしてきた、孫夫人が、いつの間にか、それなりに落ち着いた関係になっており、なおかつ、嫡男、阿斗も懐いている。




他の側室とも、孫夫人の侍女達が上手く立ち回り、当初のピリピリとした空気は消え、和やかな雰囲気が流れていた。




何よりも、その侍女達が、美しい。更に、愛想も良くなり、詰める男達にとっては、そこが一番の驚きであり、嬉しくもあった。




しかし、一人頭を抱える者がいる。




「えーい、それでも、兵士かっ!」




孫夫人は、鎧に身を包み、勝手に兵達を仕切っていた。鍛練じゃ、とかなんとかいっては、見事に、蜀の軍律を破って行く。




着いていくべきか、兵達は、困りながらも、いかんせん、下っぱ歩兵達だけに、言われれば従う、と、言う具合いで、皆、呉の兵と化していた。




「まったく!あの様に、勝手な事をされては!」




趙雲が、たまりかね、肩をいきらせる。




周りに控える部下達も、どうすることもできず、上官の怒りに耐えるだけだった。




「あらあら、そんな顔をして、言いたければ、直接、仰ったらよろしいのに。じゃじゃ馬と、名馬対決、面白そうじゃありませんか」




控える部下達は、笑いを堪えるのに、必死だった。




「黄夫人!あなた!」




またもやの、登場に、趙雲は、驚きつつも助っ人が来たと、内心ほっとする。




「いったい、どこから……、それより、孔明様は?」




「うーん、なんでしょう?いつになれば、成犬になれるかなぁ、なんて、鏡相手に愚痴ってますわ」




「そんなに、気になさっているのですか……髭……」




「なんでも、髭殿に会わせる顔がないとか、なんとか」




「ああ、関羽様の髭は、髭殿と呼ばれるほど、確かに、ご立派ですからね」




「だからってねぇ、子供じゃあるまいし、お勤めをサボってどうします?それで、私を変わりにって?」




夫、孔明の所業を愚痴りながらも、黄夫人は、いつものすました顔を趙雲へ向けた。




──来たか。




趙雲は、思う。現われたのは、何か策があってのこと。きっと、孔明から言付けを受けてに違いない。




孔明が表に出ると、孫夫人も意固地になる。だから、泳がせるつもりで、出仕しないのだろう。それに、劉備が何も言わないのもおかしい。




そろそろ、何かが起こるのだろうと趙雲は心の内で身構えた。




「劉備様は、お時間取れそうかしら?」




「ええ、黄夫人の来訪ならば、きっと、お喜びになりますよ」




「まあ、それは、よかった。いえね、実家から、遠国の菓子の差し入れがありましてね、それが、我が屋敷では、不評なの」




確かに、何か、包みを持っている。




「黄夫人、つまり、味の悪い物を、劉備様へと……?!」




「あら、腐ってはないわよ。それに、味の好みは、人それぞれでしょ?ひょっとしたらって、こともあるし」




いや、あなたね、どうゆう、思考でそうなりますか?!




と、言い返したい趙雲だったが、相手は、黄夫人。孔明の妻であり、なにより、実家は、この地の名士で、公にはできないが、遠征のたび、黄夫人の口添えでかなりの支援を受けていた。




それゆえ、劉備も、夫人には頭が上がらない。なにより、そっと、授けてくれる機知が、幾度、混乱を収めて来たことだろう。




「あら?」




繰り広げられている、孫夫人の鍛練とやらに、黄夫人は視線を留めた。




「珍しい光景ですわね。あれが、あちらのやり方ですか」




「はあ、そのようで、じっとしているのは、退屈と、わが軍にちょっかいを出してくる。劉備様も、笑っているばかりで、趙雲、怪我しない様に見守ってくれ。とは、まったく」




「まあー!やっと、どうにかなりましたか。安心しましたわ!」




「ですがね、黄夫人!」




「……まあ、余所の考えは、あのように異なりますのね。趙雲様、しっかり、ご覧あそばせ」




では、私は、劉備様へ菓子を、と、黄夫人は去って行った。




──余所の考え……?




黄夫人の言葉に、趙雲は、はっとする。




そうだ、繰り広げられているのは、呉の戦法。いずれ、いや、必ず、闘う相手の動き──。




相手の出方が、今、孫夫人によって、さらされている。




趙雲は、劉備が、なぜ、孫夫人の動きを許しているか、わかったような気がした。

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