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内助の脅威6話

「黄夫人!あなた、何てことを!」




「だって、旦那様、ここで、あーだこーだ言っても仕方ないでしょ?と言って、姫君が、真意をお語りになる、とは思えませんし」




しかし──。と、孔明と趙雲は言い含み、ですがね!と、黄夫人は粘ってくる。




「そもそも、孫権とやらも、妹姫に、本当の所を言っているかどうか。この婚姻だって、仮初めのもの、すぐ、破局させてやるから、とか、言っているかも知れませんよ?」




ねえ?そう、思わない?と、黄夫人は、控える侍女達に同意を求めた。




「あー、よくある、やつですね」




「婚姻を嫌がる場合、取りあえず、とか、なにもしなくていいとか、言い聞かせて、嫁がせる、あれですか」




「挙げ句、蓋をあけたら、側室に妾に、なんだか、うじゃうじゃいて、正妻でありながら、立場なし」




「そうそう、実家に話が違うと訴えても、お前は、外に出た身じゃないかって、弾かれて」




「だいたいは、借金のかたがわりだったり、なにかしら、援助してもらう為なんですよねー」




政略結婚には良く付いてくる話よね、と、侍女達は盛り上がっている。




「孔明様……この者達の前で、話して良かったのでしょうか」




余りにも、俗な話に本質がすり変わっていると、趙雲は、眉を潜めた。




「趙雲様、こんなですけど、皆、諸葛亮孔明の屋敷の者、けじめというものは、わかっております。もちろん、ここだけの話、ということもね」




「うん、それに黄夫人?案外、噂になった方が、姫君も、動きがとれないんじゃなですか?あの気性、意外と、そんなバカな事があるか!とか、聞かされた事とまるで違う!とか、槍を振り回しながら、怒鳴りこんでくるかもなぁ。さすれば、若君を利用しなくとも、良い」




はははと、孔明は、他人事の様に笑った。




そんな呑気にと趙雲は言いかけたが、孔明の次の言葉を趙雲は待った。




こうして、まるで他人事の素振りを見せる時こそ、諸葛亮孔明という男は、その才を引き出し、最善の策を練っているのだ。




そして、趙雲、ちょっといいか?と、声がかかり──。




「黄夫人、ちょっとよろしいですか?」




「えっーー!」




自分ではないのか?!と、心の準備万端だった趙雲は、肩透かしをくらい、うっかり、声を発してしまった。それも、とてつもなく、みっともないものを。




「趙雲、どうした?!」




案の定、孔明が反応する。




常に、押し黙っている男が、とっぴな声をだしたのだから。




「あらまあ、趙雲様、ごめんなさい。どうやら、私の気まぐれが、孔明様に気に入られてしまったみたい。でも、私、一人で、槍を振り回す姫君は、相手にできないわ。助けてくださいましね?」




どうやら、こちらは、趙雲の胸の内をお見通しのようだ。




はい、もちろん、と、趙雲はすました顔で、黄夫人に返事をしたのだった。

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