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内助の脅威4話

そして、孔明の屋敷では──。




「あら?」




「あら?って、黄夫人?私、どうなっているのです?大丈夫なのですか?」




「……ええ、おそらく、大丈夫。ああ、動かないでくださいまし」




「おそらく、って?!おい、趙雲、本当のところは、どうなのだ?!」




パチンと、はさみの音と共に、あっ!と、小さな悲鳴が流れる。




「ですから、旦那様、動かないでって、言ったのに」




「か、鏡を!嫌な予感が、するのですけれど!」




もう、うるさいお人ね、と、鋏を持つ孔明の妻──、黄夫人は、控える侍女に、鏡を持って来るよう言いつけた。




「櫛でとかせば、なんとかなりますよ。そもそも、バッサリやられてたのですから、今更、どう、整えろと言うのです?あら?趙雲様?お茶のおかわりは?お茶受けに干し杏子は、お好みじゃなかったかしら?」




夫人は、側に腰かける趙雲を見る。




「あ、あの、黄夫人、好みの問題ではなくてですね、その、なぜ、侍女が、この様に私の側に……」




はい、あーん、と、侍女が、趙雲へ向けて、干し杏子を差し出していた。




「まっ、ひとつの、おもてなし、というところかしら?」




ふふふ、と、夫人は、笑う。ついで、趙雲を囲むように控える侍女達も笑った。




「なんというか、私には、もったいない、もてなしで……」




ふうと、息を付くと、趙雲は、額に滲む汗を手のひらでぬぐった。




それを見た、侍女が、袖で拭おうと体を近づけるが、趙雲は、慌てて身を反らし、




「さても、黄夫人の様に、あちら様も、お心得が備わっておられれば……この様な事にもならなかったものを」




と、一人ごちた。




「あらまっ、そんなに手が、かかるお方なの?あっ!」




「あっ!って、あっ!って、仰いましたよね!おい!鏡は、まだか!」




孔明が叫んだ。




一瞬にして、凍り付いた場の雰囲気と、恐る恐る差し出される鏡に、孔明は、半ば、事を悟ったが、しかし、自分の姿を見なければと、鏡を覗きこんだところ……。




「黄夫人!こ、これ!!ほとんど、顎髭がないですよ!!」




「だってね、こちらを整えれば、あちらが長く、そして、整えたところ、今度は、反対側が……」




妻の言い訳に、孔明は叫んでいた。




「おい!趙雲!!!どう思う!!!」




「……はあ、いささか、涼しいお顔になられたかと……」




「涼しいとは!」




「ええ、まあ、なんというか、その、犬のような、その様な感じかと……」




趙雲の例えに、皆、わっと笑った。




「まあ!本当に!丸顔の子犬みたい!」




黄夫人は、妙にはしゃいでいる。




「孔明様、黄夫人も、お喜びですし、ここは……」




「ここはって、お前、これ、これですよ!これで、登城できますか!!」




「では、お剃りになられる?どうせ。すぐ、伸びるでしょう?」




鏡を置くと、孔明は、ああと、嘆きのような息をつく。




「あの、私は、これにて」




場に居辛くなった趙雲は、城へ戻らなければと、慌てて席を立った。




「あら?逃げるのですか?あの姫君からも」




黄夫人が差し向ける、挑戦的な視線に趙雲は、前にいるのは名軍師の上を行く、機知に富んだ者であったと思い出す。

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