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乱世の刀自(とじ)
井川奎
歴史・時代三国
2024年08月31日
公開日
16,079文字
連載中
武闘はないけど愛がある!?
史実、逸話、妄想、入り交じりオムニバス三国志。

今より二千余年まえの中国。
天下をとる為、漢たちは、義に忠に武に燃えていた。
そんな彼らを支えたのは、誠実なる家臣ではなく、麗しき妻(とじ)たちであった。のではなかろうか?


略奪された花嫁1話

いつもの様に張飛は、街で酒を引っかけ、馬に揺られながら、すみかへの近道、雑木林を抜けていた。




と、何か、聞こえたような気がする。




人の、それも、女の叫びのようなものだった。




うん、と、張飛は、ほろ酔いの頭で考える。




「酔いも、ほどよく回ってちょうど良い。少し、暴れてみるか」




何故か、彼の頭の中に、人助け、という考えはないようで、腰にぶら下げている太刀を確かめると、声が聞こえた方へ馬を走らせた。




案の定、女が男達に拐かされている所だった。




家で使う為なのだろう。女は、薪を拾い集めていたようで、足元には集めた薪が散乱している。




そして、薪を入れて持ち帰る背負い籠も、地面に転がっていた。




よほど抵抗したに違いない。




しかし、多勢に無勢。そして、絵に書いた様な悪党面の男達には、女一人の力ではどうにもならぬ。すでに、抱えられ、女は、連れ去られようとしているところだった。




「おいおい!ちょっと待て!」




突然現れた、赤ら顔の男、酒臭さから、酔っぱらいと見抜いた悪党達は、特に相手をするわけでもなく、女と共に立ち去ろうとした。




「な、御主ら、人の言うことが聞こえぬのかっ!!」




張飛は叫んだ。




雑魚に馬鹿にされたのだ。一度は、一軍を率いる将になり、主君である、劉備の変わりに留守を任せれるまでの武将だった。




しかしながら、今の世の定めか、諸々の裏切りに合い、敗北続き。そして、劉備共々、流浪の民のごとく過ごしながら、再び立ち上がる時を待っている。




正直、面白くない日々が続いていた張飛は、酒とケンカで憂さ晴らしをするという、なんとも、自堕落なことを行っていたのだ。




そして、また、ここでもひと暴れしてやろうかと思った矢先、雑魚に舐められ、張飛は怒り心頭だった。




「た、助けて!」




そこへ、か細い声が流れてくる。




男に抱き抱えられている女は、必死に身をよじらせ、その腕から逃れようとしている。その動きの一瞬だった。




張飛は、目を見張る。




女は、まだ、若い。少女と言って良い年頃で、ちらりと見えたその容姿に、張飛は俄然やる気になった。




つまり、それほど、美しい女だったのだ。




「まてぇい!お前らみたいな、雑魚に、その女は、勿体無い!ワシによこせ!」




えっ、と、女は息を飲む。




現れた男も見かけ通りの無頼漢、なのか。どちらに転んでも、身の安全は無いのだと、女は落胆からか、動きを止めた。




「おお、それでいい、娘よ。暫く、おとなしくしておいてくれ、すぐに、片付けてやるからな」




張飛は、馬上で笑うと剣を抜いた。

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