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第24話 開放宣言

 2097年8月10日


 ダンジョン攻略当日を迎えたこの日、不穏な知らせが俺達を含めた攻略者達に広まっていた。


 昨日、ダンジョン内で何者かと交戦した攻略者等32名の内、30名がダンジョン内部にて行方不明になったとのこと。

 被害にあった彼等は、全員がDLを残しておりダンジョン内部で倒されたとしても生き返る余地がある。

 生存者2名に関しては、拠点に今回の敵についての報告をする為に撤退をしたようだ。

 そして今回、ダンジョン内部で撤退した彼等以外全てがその消息を絶ったらしい。


 規定の日時以外で攻略を行った彼等を責める者も多いが、今回の出来事によりナウス内部で何か大きな異変が起こっているのでは?と、強く警戒する者も少なくない。


 そして、生存者2名の供述から交戦した敵の特徴は俺のよく知るアントのノーグそのものである可能性が非常に高かった。

 つまり、奴は仲間に紛れてではなく元からダンジョン内部に潜伏し機会を伺っていたのだろう、と。


 これ等の事を踏まえ、俺達はダンジョン前の野営地に仮設テントを建て今後の流れの確認を改めて取っていた。


 「どうやら、色々と厄介な出来事が重なっているみたいだね……」


 「ああ。

 下手すりゃ、当日になって一度引き下げになるかもしれないしな……」


 「えー、ここまで来てそりゃないよーー!!」


 ユウキとクロの言葉を聞き、ドラゴは頬を膨らませブーイングをしている。

 心なしか、ヒナも似たような動きをしていた。


 「戦闘凶のお前等と俺達を同じ括りにするなよ。

 で、例の奴と実際に戦った事があるシロさんやフィル、ケイ、そして一応ヒナもか……。

 奴に関する情報を粗方説明して欲しい。

 一応、事前にちょいと聞いてはいたが……」


 クロの問いかけに、ヒナが反応を示すがいつもの彼女と僅かに反応が違い、身体が少し震えていた。

 やはり、ヒナの人格であってもメイとしての経験から奴は苦手なのだろう……。

 性格的には若干似ている側面はあったが、やはりアレは当の本人でも嫌悪するのだろうか……。


 「少しは彼女を気遣って下さい、クロさん」


 僅かに縮こまるヒナをシロは優しく抱きしめ、クロにそう語りかけた。

 まぁ、最もな反応だろう……。


 「あ……、いや、本当にすまない……。

 そうだよな……。

 人格が違ってもらある程度記憶は共有してるぽいんだったな……。

 だったら、今回の攻略には参加しない方がいいんじゃないのか?

 彼女の精神面的な事を考えるなら、尚更そうだろう?」


 「私は大丈夫、戦闘になったらちゃんと戦える。

 私がお荷物になるなんて、あり得ないわ」


 ヒナは強気でそう言う。

 まぁ、俺達が強く言ったところで反抗するのが余計に強まるのがわかっている。

 故に、クロは察したのか僅かなため息を吐くと、話を本題に戻す。


 「分かった。

 じゃあ、とにかく奴について知っている事を誰かしら話して欲しい。

 特に、あの場で一番長く居たケイの方が適任か?」


 「まぁ、そうなるな……。

 でも、俺が知ってる事はシロ達と大差ないと思うがな……」


 「で、奴は正直なところどれくらい強い?」


 「3人がかりでようやく足止め出来たかどうか。

 実戦経験は多分向こうの方がずっと長い。

 俺やフィル、そしてシロも一応攻略者として戦っていたが、最盛期って頃合いからブランクの時期がそれなりにある。

 で、当時に関しては結果的に運良く勝てたんだよ。

 地や数の利は確実に向こうにあったが、仲間の能力はそこまで無かった。

 更に、本人は技量こそアレ装備は初期装備より少し上程度に近かった、自身の技量で装備の差を埋められるくらいには強かった。

 あの時のアントはリーダーの実力に頼っていた寄せ集めのメンバーだったというのが事実だよ。

 それでも、かなりの苦戦は強いられるはすだ。

 多分、この辺りはシロやフィルが話してくれたと思うんだが、どうなんだ?」


 「まぁ、そんな感じの事は聞いていたな。

 お前が失踪したって頃に、そこら辺の話は色々と聞いたよ。

 それで、奴の戦闘スタイルとからどうなんだ?」


 「戦闘スタイルか……。

 単的に言えば設置特化の中近距離型。

 武器種はアーティファクト、俗に言うファンネルみたいなモノでその形状はナイフに近くガラスみたいな材質の見た目だ。

 投擲武器種が故に一発の威力は大した事は無いが、本人は近接格闘も交えるが故に間合いを徐々に詰め確実にこちらを追い詰めてくる。

 設置特化と言える点については、その文字通り罠を床に置き状態異常や致命傷を与えてくる事。

 まぁ、しっかり奴の動きを把握しさえすれば、罠の位置を避けながら戦闘をする分には問題ない。

 が、そんな動きに誘導され奴の間合いに入れられたら最期……って感じだ」


 「なるほど、そりゃあ厄介な相手だな」


 「厄介な事は確かだろうな……。

 強いて弱点を挙げるとするなら、戦闘スタイルから察するに奴自身の体力はそこまで多くない。

 近接格闘を実戦に用いるなら、筋力のステータスがそれなりに欲しいところ。

 更にアーティファクトや罠を多様するなら知能のステータスが必要になる。

 特に罠系は能力の割に知能のステータス要求が高い事が多い……

 この二点に重点を置いた場合、体力を含めた他のステータスに対して多くは割振れないはずだからな……。

 奴自身の装備は、装備重量の低い軽装。

 更に、技量で補える思考なら体力自体は必要最低限に落としている可能性が高い。

 攻撃はとにかく当たらなければどれだけ低かろうと問題ないからな……」


 「体力が低いなら、私がドーンって一撃食らわせば倒せそうだよね?」


 「攻撃が当たればな……。

 実際のところ、3人がかりでようやく足止めって奴なんだ。

 低めの体力を削る以前って問題だからな」


 「そんなぁ……」


 ドラゴが落胆してる様子を他所に俺は言葉を続ける。


 「正直、戦闘を避けられるなら避けたいところだ。

 迂闊に手を出せば、無駄にDLを減らしかねない。

 万が一遭遇した場合を備えて、撤退はいつでも出来るようにした方がいい」


 「多額の懸賞金を賭けられるくらいだからな……。

 奴を倒すって目的で潜り込んだとして、返り討ちにあう可能性が高いのか」


 「そもそも、場所が例のダンジョンだ。

 アント対策を多くしたとして、中のモンスターに俺達が狩られる可能性の方が遥かに高い。

 俺やフィル、そしてシロはその辺りをよく分かってる。

 お前等も、勝手にダンジョンに入って一層時点でかなり痛い目には遭っているだろう?」


 「確かに、あんなの相手にしていたら対人戦まで考える余裕なんてないかもな……」


 「だからこそ、アントの出現や例のPKというのがよりイレギュラーな要素であったと……。

 彼に関する事は把握しました、それで3層に出現するモンスター達の情報は参加者配布された資料の通りで間違いないんですよね?」


 ミヤからの質問に対し、俺は彼女の指す資料のそれ等を軽く眺める。


 「現在判明しているエリア内は問題ない。

 更に奥地に進んだ場合、未開拓の場所で出現モンスターの系統が変わる可能性もあるがな……。

 実際、二階層後半を攻略した際には出現モンスターが4段階に変化していたからな……」


 「途中で大きく変化するなんてあったのか?」


 「ああ、攻略開始時は植物系のモンスターが中心だったんだが、ある程度進むと動物系、そして亜人。

 終盤は植物と動物の両方って具合に変化していた。

 一層が単系統だったから、続く二層同じように単系統だと判断し植物系対策を主にした結果、途中からの動物系に大きく苦戦したんだよ…。

 1個体のランクは低めなんだが、数というか群れなのが余計に足踏みしたのも苦戦した」


 「私やフィルは別にそこまで苦戦したわけでも無かったけど、前線の人達が苦戦してて実際のボス戦より長引いたよね……」


 「植物系は状態異常に特に目を配ればいいからな。

 動物系になると、動きのクセが植物系と大きく変わるから対処の馴れに時間が掛かかっていたらしい」


 「なるほどな……。

 そうなるとモンスター系統の変化には注意が必要か」


 「考えられる可能性全てに対して警戒はしておくに越した事はない。

 最低限、不味い状況に陥った時にいつでも撤退できるようにしておく。

 これだけ出来れば、こちらの攻略で得られた情報が他の攻略者達にも伝わる。

 その積み重ねさえ出来れば、ダンジョンの攻略が一日でも早まるだろうよ」



 攻略に向けての決起集会まで残り2時間を切っていた頃、俺は一人彼等の居るテントから離れ自分のステータス画面を眺めていた。


 HP 24000

 МP  750   

 VIT  520

 STR  624

 DEX  840

 INT  450

 LUK  500


 画面に映し出される自身の能力。

 そして今回相手にしようとしているノーグの能力についての仮説は先程皆に説明した通り……。

 仮に俺の説明した通りの能力だとして、今の俺が奴と戦った場合勝てる可能性はどの程度だろう?


 能力値に関しては、例の事件当時に関しては俺達の方が遥かに優れていたのは確かだった。

 しかし、プレイヤー自身の能力がかなり高かった事。

 装備で耐性やらステをかさ増し出来るにしても、プレイヤー自身の技術が高いからこそ苦戦した。


 そして、あの時……。

 二度目の奴との戦いで、俺はまるで歯が立たなかった。EXスキルの切りどころを渋ったのも大きな敗因の一つかもしれない。

 でも、それ以前に俺はあの場で戦力外だった。


 俺は仲間であるエルクの動きに付いてこれなかった。

 彼女の足かせとなり、俺をその身で庇い俺を逃したのだ……。


 「ふーん。

 ケイ、ここに居たんだ?」


 声に気付き振り向くと、そこには長い赤髪のアバター。

 もといメイ……いや、ヒナがそこに居た。


 「ドラゴから逃げて来たのか?」


 「まぁ、そんなとこ……。

 で、そっちこそウィンドウ開いて何見てるの?

 私の写真?」


 「自分のステータス画面だよ……。

 スキルを付け替えて、元々ステを少しでも上げようかなと思ってな……」


 「急に変えて、身体が追い付くの?」


 「正直ステはもう少し盛っても問題ないと思ってる。

 STRと、DEX、LUK辺りは多少は盛れそうだとは思ってるんだがな……」


 「元々の攻撃打点と、移動速度、武器の補正を活かしたい感じなの?」


 「まぁな、そうなると使えるスキルが減ってしまうんだが……。

 そこら辺は、普段使うスキルと干渉しないところを変えるよ。

 最悪、EXスキルを使えばいいからな」


 「ふーん。

 でも結構便利よね、そのスキル。

 事象予測だったけ?

 メガネのスキルとか、ドラゴのスキルとか、他にも色々使えてたから実質全てのスキルを扱えてるようなモノでしょう?

 他にもなんか色々と出来てるみたいだし、使わない理由が無いんじゃない?」


 「ところが、無制限には使えないんだよ。

 使用出来る回数には制限があるし、俺自身にもそれなりにペナルティがある。

 使い過ぎれば、それこそ俺の生命線に関わるからな……」


 「なるほど、でも練習の時は結構使ってたわよね?」


 「隠す理由は無いからな……。

 でも、多用は控えたいって意向はクロにもミヤにも一応は伝えてる。

 今のところ、使うタイミングは俺次第ってところが近いがな……」


 「そのスキル、使い過ぎるとどうなるの?」


 「………、他の奴等には言うなよ」


 「ええ、言うつもりはないわ」


 「アレのスキル正式名は、事象再現。

 使うと、そのスキルの元々の使用者に関しての記憶が少しずつ無くなる代わりに同威力のスキルが扱える。

 要は使えば使う程、俺から仲間の記憶が消えるんだ。

 だから、無制限には使えないんだよ。

 どういう原理で記憶が無くなるかは分からないがな」


 「っ……、そんな大事な事をどうして黙ってたの?」


 「言えば使うなって周りは言うだろ?」


 「ええ、アイツ等ならそう言ってくるはずだわ」


 「だから言えなかった。

 それに、使いどころも難しいから俺からも多用は出来ない。

 俺自身の記憶がどれくらいなのか?

 その中からどの程度の容量を扱えて使えるのか?

 分からないから使うしかない、しかし多用すれば確実に不味い代物だよ……。

 まぁ他にも使える能力や代償があったが……」


 「………」


 「スキル名の通り事象予測の能力は、その名の通り相手の攻撃が予測出来る。

 見える範囲は、LUKに依存し多ければ使用範囲が増える。

 代償は特に無しで、コレは恐らくEXスキルから付与される元々の能力だろう。

 もう一つが圧縮事象。

 コレは、呪文等の魔法系及び使用から効果の反映までに待機時間を要するスキルの待機時間を減らせるモノ。

 スキルへの反映以外に、攻撃に要するまでの移動や待機時間とかも対象となるから先手を取り尚かつ確実に攻撃を当てたい場合に使用するとより効果を発揮出来る。

 コレは、一日に対して使用制限が3回かつ使えば使う程他のスキルがランダムで丸一日使えなくなる。

 このスキルは確か、以前お前等と対戦した時に使ってたな……あとは……」


 「もういい……、聞きたくない……!!」


 俺の言葉を遮るように、ヒナは叫んだ。

 普段の彼女からは考えられない反応に、俺は僅かに戸惑う。


 「ヒナ?」


 「なるほど、そういうことね……。

 通りでおかしいと思ったのよ……。

 ええ、そうね……それだけ一人で背負わせたらおかしくなるのも無理はない……。

 わざわざこんな周りくどいやり方ばかりするのも……。

 結局また戻って来たと思ったら私の事なんか見向きもしないで……」


 「どういう意味だよ?」


 「そのままの意味。

 自分勝手過ぎるのよ……いつも……」 


 「自分勝手はヒナの方だと思うが……」


 「ねえ、答えて?。

 あなたはこの世界で生き抜くつもりがあるの?

 ダンジョンの攻略に参加すると言っておいて、そんなやり方を続けたら、いずれ必ず死ぬわ」


 「ここまで必死にやってて、おめおめと死にたいと思っている奴なんか居るのか?」


 「私からは、今のケイがそうだとしか思えない……」


 「………」


 「何の為に、あなたはダンジョンを攻略するつもりなの?

 今のあなたからは、ただ死に行きたいようにしか見えない……。

 それとも、あのミヤって女の為?

 私達の為と言っておきながら、結局はあの女の為なの?」


 「ミヤに関しては、向こうからの依頼で頼まれている。

 本人も了承済みだ、更にその辺りに兼ねてダンジョンについての説明は以前にしていただろう?」


 「だったら、あのダンジョンとミヤとあなたに何の関係があるの?

 あなたがカノラ・リールって奴の息子だったから?

 生前のエルクに何かを吹き込まれたから?

 私達と戦ってから、向こうであの女と何かがあったから?

 答えてよ、ケイ……。

 じゃないと、幾らワタシでも今のあなたを信じる事なんて出来ないよ……」 


 「ヒナはどうなんだよ?

 何の為に戦っている?」


 「ワタシは、自分の為よ。

 強いから、負けられないから、ここで野垂れ死ぬなんて絶対に嫌……。

 誰かの手を借りてでも、奪ってでもワタシは戦う。

 ワタシがワタシで在る為に……、

 ケイは、どうなの?」


 「俺も自分の為だよ……。

 自分の為に、自分の守りたいモノの為に戦う。

 自分の為に、この世界の真実を求める為にミヤは必要な存在だ。

 俺達がダンジョンを攻略する為に、彼女の力は必要不可欠。

 攻略し続けるなら、いずれ世界の真実に辿り着くだろうと思うよ。

 その過程に、ミヤも連れていく。

 俺も、その真実とやらには興味があるんだよ……。

 本当の両親の事も踏まえて、何の為に今の状況を生み出したのか……その意図が知りたい……。

 限られた時間の中で、どこまでやれるか分からないがな……」


 「……、そんな知的探究心が自己犠牲の理由なの?」


 「それ以外にも色々あるけどな……。

 それに言ったろ、守りたいモノの為に戦うって……。

 今のギルドを、仲間を、俺は失いたくない。

 もう目の前で誰かを失うのは嫌なんだ……」


 「仲間……」 


 「今のヒナなら、分かるはずだろ?

 どうして、俺が彼等を失いたくないのかを」


 「………、まだよく分からない。

 でも、今のアイツ等が無くなるのはつまらない気が……、少しだけする……」


 「ソレが分かってくれただけでも、ヒナとしては大きな成長だろうな……」


 「でも、ソレがあなたの死んでいい理由にはならない」


 「だろうな」


 「だったら……!!」


 「俺は死なないよ、絶対に……。

 仲間を信頼しているからな。

 だから俺も力は惜しまない、この仲間と共に元の世界に必ず戻れると信じて、何度だって力を振るうよ……」


 「根拠なんて何処にもない癖に、そんな事を……」


 「根拠はある、ヒナは自分で言ったろ?

 私は強いって、自分でそう言ったからな……。

 だから俺は信じるよ、ヒナも、メイも、この仲間を俺は信じて戦う、それだけだ」


 「……、分かった。

 今は、その言葉を信じてみる。

 今回の事、一応約束通り黙っといてあげる。

 でも、無理はしないでよ……、それじゃ」


 ヒナは俺にそう告げると、それ以上絡む事もなく素っ気ない態度で去って行った。

 普段の彼女なら、ところ構わず俺にべったりしてくるところなのだが……。

 いつものヒナらしくない言動や行動。

 彼等と関わった事で少なからず、ヒナは確実に変わっている。

 変化は良い方向なのは確か……、ただ気になる点があるとすれば……。


 「メイ……、お前はどうなんだ……?」 


 振り返らない彼女の後ろ姿、俺の問いかけへの答えはわからない。

 真相を知るのは、ヒナ……。

 いや、もしかしたら彼女も知らないナニカがあるのかもしれない…。





 「諸君、我々の反撃の時は遂に来た!!」


 壇上に立つ、黒いコートをまとった一人の男性アバターは俺達観衆に向けて盛大にそう叫んだ。

 決起集会に集まった、今回のプレイヤー数は総勢14000人。

 普段の攻略に集まるのが多くても1万前後に対して、今回はかなり多い方である。

 多額の懸賞金が賭けられたアントの存在が多くのプレイヤーを集めた要因なのかもしれない。


 「今宵のプラント第3層の攻略に関して、我々には強力な味方が付いている。

 十王直属ギルドより、我々ゲイレルルを含む3つのギルドと臨時協定を結び今後のプラントにおいての早期攻略に向けて動いていく。

 3つギルドの紹介、及びその代表者のメンバー等をこれから紹介していく。

 まずは私と隣の後ろに居る彼女を紹介する。

 私は今回の攻略隊を率いる白崎グループ直属傘下のギルド、ゲイレルルのギルドマスターのカイラ。

 後ろに控えているのは、副ギルドマスターであるリオ」


 俺達とは顔見知りである二人の姿が見える中、更に後ろに立つプレイヤー等の紹介が進んでいた。


 「続いて、我々の心強い味方である彼等を紹介しよう。

 彼等は皆、十王直属ギルド所属。

 皆もその名はよく知っているであろう、パルティアとセフィロトが我々の心強い味方としてダンジョンの攻略を共にしてくれる。

 では、紹介しよう」


 カイラの一言より、4名の男女プレイヤーが壇上に姿を現す。

 遠くからは直接見えづらいが、辺りに浮かぶ中継モニターからは彼等の顔や姿がはっきりと写っている。


 「はじめにパルティアから代表者2名。

 副ギルドマスターのアイラス。

 そして、ギルドマスターであるローザ」


 カイラの紹介により、二人の男女が一歩前に出る。

 一人はタキシードの衣装を纏った執事のような印象を受ける銀髪の男性アバター、そしてもう一人は青の薔薇を象ったようなドレスに近い衣装の褐色肌の女性アバター。

 ナウス内よりかは、現実での彼等の方が俺達としては印象が強い二人だろう。


 男性の方はアイラス・アドグリフ。

 パルティアの副ギルドマスターを務め、現実世界では隣のローザの秘書を務めている人物。

 その経営手腕も卓越しており、パルティアの内政を治めているのは実質彼の実力が故のモノ。

 ナウス内での実力も、彼女の右腕を務めるだけあり並のプレイヤー群を遥かに凌ぐ実力。


 そして、隣のドレス姿の女性アバターがパルティアのギルドマスター、ローザ・シュラント。

 十王の一つ、ディーテコンツェルンの若手経営者。

 本業は確か女優、数多の映画やファッション誌にも取り上げられ世界的に大きな評価を受け活躍している人物だ。

 ナウス内でも大きな広告塔としての柱を務め、デスゲームと化した今のこの世界においても希望の華として活躍している。


 「これから戦う君達へ、ローザ様からお言葉を」


 アイラスが一言そう告げた瞬間、黄色い歓声が大きく湧き上がる。

 あの二人に関しては、人気がリアルもナウスも通り越してかなりのもの……。

 確かトラゴも、ローザファンの一人だった気がする。


 「我等パルティアは皆様の希望の星として、皆様と共に戦います。

 勝利は必ず私達にあります。

 私達と共に、元の世界での日常を取り戻しましょう」


 彼女の言葉に歓声が大きく湧き上がる。

 辺りから聞こえる、パルティアコールが響き続ける。

 そして、言葉を終えた二人が下がると控えている二人が入れ替えるように前に出る。

 その間際、ギルドマスターであるローザの視線が入れ替わった一人の元に向かっていた気がした。


 そして、入れ替わりに現れた二人が観衆の前に立つと先程までのパルティアコールがパタリと鳴り止むと、カイラは前に出た二人を紹介した。


 「続いて、セフィロトから代表者を紹介する。

 副ギルドマスター、カリス。

 そしてギルドマスターである、ニア」


 一人は白い軍服のような衣装を纏った女性アバター。

 薄緑色のポニーテールが特徴的な存在。

 彼女はセフィロトの副ギルドマスターであるカリス。

 現実では、オクタリア・アルバートという名だった気がする。

 セフィロトのムードメーカー的な存在で、ローザ程ではないにしろこの世界の内外問わず広告塔として活躍している人物。


 そしてセフィロトのギルドマスター、ニア。

 ローザと同じく十王の一人で、現実ではセフィラグループの代表取締役を同時に務めている存在で彼もまた若くして十王の座を冠している存在。

 現実での名が、アイン・バシレウス。

 このナウス内において、世界最強のプレイヤー。

 PVP、PVE問わず、このナウス内で最も強いプレイヤーは誰かと問われれば彼の名が真っ先に浮かぶ程。

 彼が最強と呼ばれるが故に、比較対象として扱われないという規格外の存在として、畏怖と崇拝の念が込められている。

 黒のコートを纏い、赤の幾何学模様が刻まれたその服装は隣に立つカイラの衣装と何処か似ている気がする。

 茶髪で青年を思わせる若き風貌の姿をしていおり、見かけは好印象の青年のソレ。

 よくあるRPGの主人公のような周りのウケは良さそうな感じをしているのだが……、先日のリオとの会話を思い返すとあまり信用はしない方がいい人物らしい。

 まぁ、俺自身も奴の事は既に多少の警戒をしていたのだが……。


 「では、先程の二人と同じく……」


 「イエーイ!!、みんな盛り上がってるーー!!

 セフィロトのマスコットアイドル、カリスちゃんだよーー!!」


 「「ーーーーー!!!」」


 カイラが喋っているのもつかの間、副ギルドマスターであるカリスが突然大声で観衆に向けて叫び始めた。

 そして、彼女の声に答えるように巨大なカリスコールが広がり始める。

 ローザへの対抗心のつもりなのだろうか?

 そんな事を思ってると、再びカリスは口を開く。


 「今日はみんな集まってくれてありがとう!!

 みんなが居れば絶対大丈夫!!

 私達セフィロトのメンバーもみんなと一緒にプラント攻略に向けて大大的に全面協力しちゃうよー!!」


 「「ーーーー!!」」


 彼女の声に、観衆の声が更に高まる。

 盛り上がりが激しくなり、先程のパルティアコールと同等かそれ以上の盛り上がりを見せていた。

 彼女の盛り上がりに対して、後ろに控えたローザは笑顔を浮かべているが何処か恐怖を感じる。


 「じゃあ、マスターに交代!

 みんなに挨拶よろしくーー!!」


 彼女独特の勢いに、ギルドマスターの彼は困惑している模様。しかし特に臆するような素振りもなく、平然と自身から口を開き、観衆に向けて語りかけた。


 「と、言う訳でセフィロトのギルドマスターのニアだ。

 俺から言いたい事は、横の彼女が言ってくれたのでこちらは簡潔に伝えるとするよ……。

 現在我々は、年内にプラントを攻略する事を目標に活動している。

 同時に、並行してグーシアとダイランに存在するダンジョンについても他の直属ギルド中心となって攻略を進めており、再来年には期限内での攻略完了を予定している。

 しかし、我等のギルドだけでの攻略は非常に困難を極め、実質不可能に近いのが実情だ。

 この計画実現には君達の協力も必要になる。

 我々もその為の支援や協力は惜しまない。。

 全ては、現実世界での日常を取り戻す為に。

 君達プレイヤー諸君等にセフィロト、及び直属ギルドを代表して、俺が宣言しよう。

 全てのダンジョンは期限内に全て攻略される!

 約束された勝利と自由の為に、共に剣を掲げよう!」


 「「ーーーー!!!」」


 彼の熱演に、観衆の声が更に高まる。

 全体の熱気が高まる中で、セフィロトコールが瞬く間に広がっていった。



 2097年8月10日正午。

 プラント第三層の攻略が正式に再開。

 参加プレイヤーの総数14017人。

 参加ギルド総数1672。


 いよいよ、俺達の不可能への挑戦が始まる……。

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