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第23話 狩る者、狩られる者

 2097年8月8日


 「次は、あそこのお店行こうよ!!

 シロちゃんもほらほら、ヒナちゃんも時間は限られてるんだから早く早く!!」


 「ちょっと、ドラゴさんったら……。

 そんなに焦らなくても……」


 「私を勝手に巻き込むなぁぁ!!」


 二人の意思をそっちのけで、ショッピングモールのあちこちへと連れ回すドラゴの姿を眺めながら俺達男衆は彼女等の微笑ましい姿を他所に黄昏れていたのだった。


 「相変わらず、アイツはいつも元気だよなぁ……」


 「ドラゴはいつもあんな感じだからね……」


 「むしろ、元気じゃなかったらこの世界の不具合を心配するレベルだろ?」


 「確かに、クロの言うとおりかも……」


 「まぁ、多少馬鹿でも居たほうが華みたいな奴だからな」


 「そういう事だな……。

 で、誰か行ってやらないのか?

 ミヤさんのところに」


 「ユウキが行けばいいだろ?

 持ち前の爽やかさイケメン要素で、口説けばいいだろ」


 「別にそんな事は無いと思うけどなぁ。

 それに、今は放っておいてあげた方が良いと思うよ。

 こっちから話し掛けなくても、その内ドラゴが巻き込むだろうからね」


 「でも、ドラゴは今、両手塞がってるだろう?

 あっ…、ヒナが振りほどいた……」


 フィルがそう言うと、少し息の上がったヒナがこちらに救いの眼差しを向けて来る。

 僅かに手を伸ばした瞬間、再びドラゴにその手を握られるとすかさず抱きつかれてしまう。

 彼女は振り解く余力が無いのか既に諦め、その抱擁を受け入れていた。


 「パワー全振りだからな……、こりゃ逃げられない」


 「流石、パワータイプなだけある」 


 俺とフィルがそんな事を言っていると、隣に座っていたユウキが重い腰を上げてゆっくりと立つ。


 「じゃあ、君たちの言われた通りにミヤさんと少し話してくるよ。

 流石に、彼女一人を放ってはおけないみたいだからね」


 俺達にそう言うと、ユウキは彼女が一人で腰掛け座っているベンチの方へと向かっていった。



 クロ達から催促され、僕は一人ぽつんと座るミヤさんの方へと向かう。

 彼女の元に来て、何を言えばいいか僅かに悩みながらも無難な言葉を選んで話し掛けた。


 「隣、座ってもいいかい?」


 彼女がこちらに気付き、僅かに表情を歪める。

 しかし、僕の姿を見るなり僅かに驚きの表情を見せた。

 どうやら、新手のナンパだと思われたらしい。


 「ユウキさんですか……。

 ええ、私に構わずお好きにどうぞ。

 では私は離れますので」


 彼女はそう言い、目の前から立ち去ろうとする。

 しかし、彼女と話す事が目的なので向こうへと必死に静止を呼び掛けた。


 「いやいや、そうじゃなくて。

 少し君と話がしたいんだよ。

 ほら、君一人だけ放ってはおけないって事でさ、さっきクロ達に言われちゃってね……」


 「説得出来るまで、強制的というものですか……。

 相変わらず難儀な立場ばかり引き受けているんですね、あなたは……」


 僕の言葉を聞いて僅かに呆れた素振りを見せる。

 そして、相変わらずという意味深なフレーズを聞き疑問に思った。


 「相変わらず?

 一体何を言って……」


 「あなたと私。

 昔、小さい頃に少しだけ会った事がありますよね。

 元加賀グループの御曹司であった、加賀祐希かがゆうき君……」 


 僕の疑問に対して、彼女はかつての名を口にした。

 どうやら一方的に、覚えていた訳ではないらしい。


 「……へぇ。

 ミヤさん、僕なんかの事覚えててくれてたんだ」


 「確か……、8年程前でしたかね。

 加賀グループの解散については」


 「あー、もうそんなに経ったのか……。

 僕には、つい昨日のように鮮明にあの日を覚えてるくらいなのにさ」


 当時の事は今も鮮明に覚えている。

 生活が一変し、我ながら色々と波乱万丈な日々を送っていたと思う。


 「細かいところはご存知ありませんが、身内の不祥事が原因でしたよね。

 そこからは、世の流れに流されるようにあっと言う間の事でした。

 当時加賀グループの傘下にあった企業は、現在私達の白崎グループとその他関連企業の傘下及び併合という形になってしまった。

 幼いあなたがその後、どうなったか細かいところは把握していませんでしたがね……。

 まさか、例の彼を追っている内にあなたともこうして会えていたとは……」


 「あはは……、世間は意外と狭いんだなぁ」


 こちらの台詞に、彼女は改めて問い掛けてくる。


 「あなた、父親譲りのプライドは捨てたんですか?」


 父親譲りのプライド……。

 あの人と僕は確かに似ていた、でもそれは昔の事だろうか……。

 今となっては欠片もないかもしれないが、内心では色々と考えてはいる。

 内に秘めたそれ等の想いをどのように返せばいいのか悩みつつ、僕は彼女に返答を返した。 


 「どうだろ……あったところでどうしようも無かったからなぁ。

 それに、僕が父の後を継いだとしても僕自身に実力が無ければ所詮は同じか近い末路を辿っていたさ」


 「それじゃあ、あなたは諦めたんですか?

 かつての栄光を取り戻すつもりは無いのですか?」


 「まさか、内に秘めた多少の野心くらいは当然あるよ。

 でも、僕なんかよりも凄い才能なのか魅力を持った彼等が近くにいるからね……。

 今は、彼等の元に居る生活も悪くないって思ってる」


 「何故です?」


 「あー、まぁ色々あってね。

 クロは僕にきっかけをくれた一人であり腐れ縁。

 他にもね、僕にはドラゴのような周りを引っ張れる強引さや魅力はないし。

 メイさんや、君みたいな冷静な判断能力も僕にはまだ欠けている。

 ケイやヒナちゃん、そしてフィルみたいな天性の才も勿論持ち合わせてはいない。

 どれもそれなりに、こなせるけど中途半端だからね。

 だからまぁ、彼等と一緒に居ると色々と楽しいし、勉強になることも色々あるんだよ……」


 「現状に満足していると?」


 「不満もあるよ、でも考えてもしょうがない。

 一人で考え込むよりは、彼等と少し話し合って打開策を見出す方が良い。

 クロの受け売りだけど、そうやってきてる僕だからさ」


 「………。」


 「ミヤさんは、此処に居ることが不満かい?」


 「私には……、こうして大人数で休日を謳歌するなんて事はよく分からないんです。

 立場上、毎日が色々とありましたから。

 それに、今のこの世界の状況を知ってて私達が遊んでいる一日が、誰かの苦しみの一日の上に成り立っていると考えると……。

 遊んでる暇なんか無いじゃないですか……」


 「ごもっともな意見かもしれないね」


 「だったら……!!」


 「でも、一人で思い詰めるのは駄目だよ。

 そう思っているなら、僕等に直接伝えて欲しいかな。

 いきなり全部受け入れろっていうのは無理な話かもしれないけど、ミヤさんの意に添うような結論を僕等に言ってくれれば導き出せるかもしれないだろうから」


 「……ええ、確かにその通りかもしれませんね」


 「僕は、今は今でそれなりに楽しんでるつもりだよ。

 でも、諸々済んだら自分の手と足と実力でかつての栄光以上のモノを目指すつもりさ。

 親譲りじゃなくて、自分の実力で自分の名を残す。

 白崎グループや十王なんて目じゃないくらいの大きなモノを目指すつもりだ。

 今はその過程を見出す為に、此処に居る。

 彼等が前に進もうとするなら、僕もその道を全力で助けたいと思っている。

 結果がどちらに転ぶかは分からないけどね。

 それでも、僕は彼等と一緒に居たいと思ってる」


 「可能性ですか……。

 夢や空想ばかりです……」


 「それでも、多少は向き合ってみたら変わると思うよ。

 というか、ミヤさんも此処に来てから影響されてると思うよ。

 それが良い面なのか、悪い面なのか……。

 自分で答えを出せないだけでね……」


 「答え、ですか……」


 ミヤさんと会話をしている内に、向こうでは遅れて来たケイが姿を現していた。

 ヒナが彼に助け船を出してる中、ドラゴの方は構わずヒナに抱き付いている。

 ようやく彼女から離れられたシロは、ケイとフィルの手を引きながら笑っている。

 会話の流れは分からないが、ようやく手に入れた平穏な時間を噛み締めているのだから……。


 「楽しそうな人達ですよね、本当に……」


 「ミヤさんも、既に彼等の仲間だよ」


 「ええ、ですね」


 「じゃあ、僕等も行こうか……。

 休日くらい楽しまなきゃね……」


 僕が立ち上がり、彼等の元へと向かおうとするとミヤさんは僕を呼び止めた。


 「ユウキさん……。

 あなたは勝てると思いますか?

 今の私達で、あのダンジョンに挑んだとして……」


 「僕等は最強のギルドだよ、必ず勝てるさ。

 だからミヤさん、僕等を信じて導いてよ。

 みんなで元の世界に帰る為に……」


 「……ええ、勿論です。

 必ず、みんなで帰りましょう。

 元の世界へ、きっと……」


 2097年8月9日


 ダンジョン攻略の前日、本来の期日を前倒ししてまで俺達はかの場所の攻略を独断で先行していた。

 参加人数は14人の中規模編成を三班で組み、連絡を都度取りながら攻略を進めている。


 「流石にしんどいな、最前線は……」


 「やはり、今からでも引き返しましょうよ隊長。

 幾ら我々にDLが残っているとはいえ、このままの消費だと流石にこちらの物資が保ちませんよ……」


 「上からの命令なんだ。

 少しでも多くの成果を挙げ、こちらの立場を少しでも優位に進めなければ面子が丸潰れなんだからな。

 例のアントは、翌日の攻略に紛れて再び被害を起こすのは確実。

 上はそう判断し、我々に先行しての攻略を命じたのだ」


 「確かに、身内からの攻撃からは安全かもしれませんが……」


 一人の仲間がそう答えた刹那、凄まじい轟音が遠くから聞こえてきた。

 近くで我々の仲間が交戦中なのかもしれぬという思いが過ぎる中、隊の長である自分は冷静に他の隊との連絡を取っていく。


 その結果……


 「現在、他の2班の内一つが脱落。

 プレイヤーとの交戦があったそうだ。

 恐らく、アントのノーグだろう」


 「ノーグ?!

 何故です、例の攻略は明日のはず。

 我々の中にアントの残党が居たというのですか?」


 「まさか、あり得ん話だ。

 幸い、一人生存者が居るらしいが……。

 他の仲間との連絡が付かないらしい。

 本人を含めて、DLは残っている為未だ交戦中の可能性がある」


 「つまり、先程の衝撃は我々の仲間が奴と……」


 「急いで、奴の元へと向かう。

 ノーグを倒したとなれば、我々の評価も上がる事は間違いなし!!

 俺の元から離れるなよ!!」


 出世の光に満ち、俺達は味方が交戦していると思われる場所まで足を急いだ。

 しかし、しばらく進んだ後に響いていた衝撃音が絶たれ静寂が続いていた。


 聞こえるのは、こちらの足音。

 ダンジョンを巣食うモンスターの気配がヒリ付くような感覚が付き纏っていた。


 戦闘が終わったのか?

 しかし、何の音沙汰もない……。


 僅かに遅れて生存している者から再び通知が来るが先を急ぐ為、確認を後回しにする。

 同じ場所に滞在し続ける方がリスクが高い……。


 そして、最初の衝撃が響いた場所と思われる地点に到達すると人影が見えてくる。


 「っ……?!」


 視界に入って来たのは二人の姿。

 一人のアバターが、もう一人のアバターに対して右腕で首元を掴み上げその身体を放り投げた瞬間だった。


 「ッタス……ケ……!」


 こちらに助けを求める声を他所に、地に落ちてゆく彼の身体に向けもう一人はサッカーボールを跳ね除けるかのように思い切り蹴り飛ばして見せた。

 遠くから聞こえた衝撃音と酷似したその音が響き、助けを求めたアバターは赤い光を放ちながら消え去る。

 本来の白いエフェクトとは違う異質なエフェクトに僅かな疑問が浮かんだが……。


 「弱え、弱えなぁ………。

 弱過ぎて俺まで悲しくなってくるよ……。

 久しぶりの獲物がこの程度とは、もう皆さんはここの攻略を諦めたんですかぁぁ……?」


 「貴様、アントのノーグか!!」


 一人勝手に呟くその人物に向けて俺達は飛び出して話し掛ける。

 奴の近くに来た事で、薄暗いこの空間でもはっきりとその姿を見る事が出来た。


 黒く、血のような光のエフェクトを放つコートを纏った男性アバター。

 長く伸びた茶色い前髪をかき上げ、目を大きく開きこちらの姿を捉える。

 赤く光ったその目、既に普通のプレイヤーとは違うナニカに変わったかのような戦慄が全身に突き刺さってくる。


 「あー、お前らはハズレ……。

 本当、期待ハズレだわ……。

 なぁ、子犬ちゃんは来てないのかなぁ?

 ほら何だっけ、白狼だったか?

 ソイツ、今日は来てないの?」


 「貴様はノーグなのか、どうなんだ?!

 こちらの質問に答えろ!!」


 こちらが声を荒げ、問い詰めた瞬間。

 隣に立ってた仲間の一人から、赤い光のエフェクトが漏れ始め、漏れ出した光が全身に至ると同時に光は欠片と化して消え去った。


 「っ!!」


 「だから、聞いてるのはこっちだっての。

 白狼は来てないのかって聞いてるんだよ?

 お前ら、雑魚の癖に俺に指図するな」


 ふらりと立つ目の前のその男は、赤く輝くその目でこちらを捕える。

 捕食者、このダンジョンに巣食うモンスター等と遜色ない……。

 いや、それ以上のナニカだった。


 「総員、戦闘用意!!」


 俺の掛け声と共に、囲むように後ろに控えていた仲間が奴を囲んでいく。

 相手がノーグかそれ以外かは別として、奴は既に目の前でプレイヤーを殺した存在。


 このまま野放しは出来ない。

 幸い、奴は一人だ……、数の利はこちらに分がある。


 「おいおい、まさか本当に立場を分かってねえのか?

 数が多くても、所詮は同じ雑魚だろ」


 奴の言葉に耳を貸す必要はない。

 俺が右手を上げる合図と共に、奴の後ろに控えていた二人が同時に攻撃を仕掛ける。


 片方の攻撃は奴の武器と思われる短刀に阻まれ、もう片方の攻撃は手首を掴まれ防がれてしまう。

 掴んだ仲間の耳に奴は何かを囁いていた。


 「はい、おつかれさま」


 男は短刀を振り抜き、その人物の首を跳ね飛ばした。

 仲間の体力が全損し、赤い光のエフェクトを放ちこの場から消え去る……。


 「ほら、さっさと来いよ。

 じゃないと今度は俺から殺しちゃうよ?」


 目の前で仲間がたった一撃で消え去った事に驚き、残された仲間の一人が後退っていく。

 奴の攻撃の魔の手が迫る中、俺は構えた武器を振り抜き奴へと目掛け斬りかかる。

 視界の端で捉えられたか、こちらの攻撃を軽く躱すと同時に身体を蹴り上げられ宙に飛ばされ地に叩きつけられた。


 「っ……」


 「「隊長ーー!!」」


 僅かに揺らいだ意識の中で、奴はニヤリと口角を上げこちらを見下す。

 撤退するべきだろうか、しかし野放しにすればさらなる犠牲者が生まれる。

 自身のDL一つを犠牲にしてでも、奴のDLを減らす事が出来れば成果としては十分だ。

 仮に、勝てなくとも向こうの戦い方が分かれば対策は幾らでも出来る……。


 そして、何より……


 「仲間を殺され、おめおめと引き下がれる訳がない!!」


 戦意を奮い立たせ、武器を構え直す。

 仲間に対しハンドサインで指示を与え、陣形を組み直し攻撃を仕掛けていく。


 仲間の攻撃が再び繰り出される中、奴はフラフラとしており余裕の佇まいを見せている。

 足元からは淡い光が見えており、怪奇的なナニカで神経を刺激してくる感覚を覚える。

 しかし、奴の視線は常にこちらの攻撃を察知しているのか二人同時の攻撃すらも数歩の後退を交えて容易く凌いでいた。


 「雑魚が勝手に盛り上がりやがって……」


 男がそう告げ、フワリと上空へ飛び上がり仲間の遥か後方を場所取り右手をゆっくりと掲げた。

 すかさず、仲間は瞬時に振り返り男に目掛けて攻撃に向かう。


 瞬間、先程までの奴の足跡を辿るように赤く淡い光のエフェクトが発生し、奴は軽く指先を鳴らす。


 男に向かって攻撃を仕掛けるこちらの仲間は、奴の謎の行動の意図を確認する間も無く攻撃を仕掛ける。

 しかし、その刹那地面から赤い光を放ったナニカが飛び出してきた。

 光と共に具現化されたモノ……。

 二枚貝のような構造、そしてそれ等は円形の形をしており尖端には刃のような物が付いていた。

 確か、アレは狩猟等で使われるトラバサミのソレであった。


 「さぁ喰われろ!!」


 金属がけたたましい音を上げて、ガシャンとその二枚貝構造のソレが閉じた。

 音と共に仲間の足や身体が分断され、部位欠損の状態異常を告げるアイコンが仲間の体力ゲージ一覧の所に表示された。


  先程の攻撃で受けたダメージはまさかの全体の1割程にも満たない微々たる物だが部位欠損の影響がかなり大きい。


 かろうじて攻撃に反応し一人は右足だけで免れたが、もう一人に至っては下半身そのものが無くなっていた。


 「うぁぁぁぁぁ……!!」


 身体の大部分を失いパニックに陥るが、近くにいたもう一人が彼の元へと歩みより身体を揺らし必死に狂乱している彼を落ち着かようとする。


 「落ち着け!!まだ死んではいない!!

 それに、ここは現実じゃない!

 ナウスの中だ!!

 だからっ……、え……」


 仲間に声を掛け続ける彼の身体が貫かれる。

 身に起きた出来事に、驚愕していたのか彼は視線を僅かに下ろすと、貫かれた刃の尖端が彼の視界に入っていた。


 こちらが動くよりも前に、奴はそこにいた。

 そして、殺したのは下半身を失った彼では無い。

 敢えて、まだ動けていた彼を狙ったのだと……、この時俺は理解してしまった。


 「あ……隊……長、オレ……ここ……?」


 その瞬間、彼の体力ゲージが全損した。

 全てを言い終える間もなく半身を失った彼の目の前で赤い光のエフェクトと共に消え去ったのだ。


 「うああぁぁぁぁぁ!!!」


 目の前の仲間が消え去り、ソイツは平常心を失う。

 このまま、この場に彼を残すのは危険過ぎる。


 最悪、今ここでDLを飛ばし外へ逃がす必要がある。

 決断を迫られる最中で、仲間を殺した奴は錯乱状態にある彼の頭を掴み取りこちらへ見せびらかし始めた。


 「皆さんーー!!、注目ですよーーー!!

 これがオレに逆らったバカの末路ですよ!!

 ほーら、そのお間抜けなお目々でしっかりと見えてますかーー!!

 ほら、ちゃんと見えてますよね?!!

 早く来ないと、今度はコイツも殺しちゃうよ!!

 ほら、ほら、ちゃんと見えてる??」


 「やめて…くれ……、お願い……だ……。

 殺さないでっ……くれ……」


 錯乱し涙をも流す仲間のその手を、奴は子供をあやすようにフラフラと動かし見せびらかしてくる。


 「ほーら、ほーら?

 早く来ないと殺しちゃうよ?」


 奴はそう言うと左腕で仲間の首を抑え、右手で短刀を突き付け泣き叫ぶ仲間の姿をこちらに見せつけてきた。


 どうする?

 このまま戦いを続ける行為は、今後の士気にも関わるかもしれない。

 ここで、全員一度引き下げ対策を練り直すのが得策かもしれない。

 しかし、ここで逃せば……我々の成果はゼロに等しい。


 だが、我々のDLにはそれなりに余裕がある。

 二度までなら、ここで死のうが何とかなる。

 しかし、ここで一つを賭ける行為は得策なのか?

 この階層で、このダンジョンは終わりではないのかもしれない。

 今後の攻略にも我々が関与する前提なら、引ける時に引いておくのが最善ではないのか?


 我々の仲間の一人を連絡用として、一度拠点に移動させるべきかもしれない。

 今、目の前に立つこのプレイヤーの存在は何が何でも向こう側に伝えなければならない……。 


 プレイヤーに紛れていたのではなく、既にダンジョン内部で潜伏していた事実だけでも向こうに伝えなければ。


 どの道、ダンジョンを攻略出来なければ皆が死ぬ。

 我々の身勝手で、今後この事実が知られないのはあまりにリスクが高い。

 攻略が長引くのは、どの派閥であっても大きな信頼に関わってしまうのが事実。


 故に、せめて奴の存在だけでも……。

 我々のDL一つを賭けてでも相手の戦力、手の内を把握し次に繋げるのが我々の役目だ……。


 「3番は、後ろに待機し奴の行動をよく見ておけ!

 それ以外は奴に攻撃を仕掛け、目標の行動パターンかを3番に見えるよう戦闘を継続する!

 我々が危険な状況に陥ったと判断した場合、3番は拠点に避難し奴の情報を上に報告しろ!」


 「「了解!!」」


 「これより、対象の殲滅を開始する!!」


 人質に取られた仲間の救出は困難。

 負け戦の可能性もある、しかしそれでもやるべき事は果たすだけだ……。


 しかし俺は僅かな違和感を拭えずにいた。


 奴から引き起こされる妙な現象である。

 赤い光のエフェクト。

 それが何を意味していのかが以前として分からない。

 スキルの効果や衣装の能力で、赤い光のエフェクトが現れるのは一部存在する。

 しかし、プレイヤーやモンスターの消失によって現れるのは白い光で共通化されているのだ。


 しかし、奴の攻撃によって現れたのが赤い光。


 一体、何を意味している……?


 違和感が拭えないまま、俺達は奴に目掛け攻撃を仕掛けた。

 奴がこちらに向ける歪んだ微笑みと共に再び指をパチンと鳴らした。

 刹那、俺の足元が大きく揺れて突如地面に倒れてしまう。


 この状況で俺が足元を滑らしたのか?

 いや、違う……。


 視界の隅に見える自身の体力ゲージ。

 そして表示させられた状態異常のアイコンで自身の身に起きた出来事をようやく頭で理解する。


 「部位欠損……、一体どこでっ?!!」


 慌てて自身の足元を見ようとすると左足の膝から下が消えていた。


 何故だ、何処で罠を踏んだ?

 いや、それ以前に早く治療を……


 すぐに自身のアイテム一覧を表示させ回復用アイテムの選択を急いだ瞬間、操作していた右手を何者かが掴んでいた。


 「っ!?」


 「諦めなよ?

 それがお前の運命さだめだ」


 身体を貫かれた衝撃と共に、奴の言葉が脳裏にこびりつく。

 意識が闇に落ちていく最中、赤い警告文が目の前に現れた。


 【ナウス運営事務局です。

 EXスキル破滅者の効果により、あなたのDL全てが強制的に全て消費されました。

 DL全損のペナルティとして本アカウントは60秒後、全データサーバーより消去されます。

 世界の長らくのご愛用、誠にありがとうございました】


 EXスキル……、破滅者……?


 思わず己の目を疑った文言……、こんなスキルが実装されていたなんて俺は知らない……


 「何だよ、それ……。

 知るかよ、有り得ねぇよ……。

 こんなの、ふざけてる、絶対おかしいに決まってる……。

 この糞ゲーがぁぁぁぁ!!」


 己の想いを幾ら叫ぼうと、決して声にはならない。

 目の前で減り続ける命のカウントダウンをただ見ていることしか出来なかった

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