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第18話 逃避行

 暗い路地の中を走り続ける。

 追手の影をどうにか撒く事に成功した俺は一時ながら安堵していた。


 「何故、私を助けたの……」


 俺に対して、俺に背負われている手負いの彼女は珍しく弱気な素振りで理由を尋ねた。

 いつになく不安定な様子の彼女の言葉に俺は少し歯痒い感覚をおぼえる。

 そして俺自身の素直な感想を後ろの彼女に伝えた。


 「あの場でお前に死なれたら困っただけだ。

 俺の面子メンツにも関わるだろう」


 「あの場で逃げれば、君だけは自由だったのにかい?」


 「………。」


 その言葉に俺は僅かに返答を迷う。

 この日、俺の雇い主であるの女の家族はとある依頼に失敗してしまった。

 その結果、俺達は現在に至って追われる身になっている。

 道中、こともあろうにこの女は弟を庇い追手の持っていた銃に片手、片足を撃たれてしまった。

 それから気づけば俺の体は彼女の方へ向かっていた。


 そして現在に至っている。


 単純に死なれたら困る、そういう理由なのだろうと。

 今のこの女の家族には、俺と交わした契約は意味を成さない。

 女自身も俺にそう告げたのだから、そうなのだ。


 「今の私に余計な気遣いは不要よ。

 ここで私を降ろして貴方だけでも逃げなさい、今ならまだ間に合うわ」


 「俺を後悔させないんじゃなかったのか?

 あるじさんよ」


 「……なら今の私に対して幻滅しないの?」


 「嫌味とか愚痴とかなら幾らでも浮かぶさ。

 だがお前に一度は救われた、この命だ。

 今この時くらい、お前の為に使っても大して問題ないだろう」


 「何よそれ、プロポーズか何かかしら?」


 「怪我人が調子に乗るな。

 俺の好みとは全然違うだろアンタは」


 「確かにそうね」


 そんな会話を交わしながら、時間は過ぎていく。

 こいつと出会って、今年で既に6年が過ぎただろうか。

 様々な事を彼女から教えられ、そして彼女の元で成果を出す事が出来た。

 正直な事を言えば、こいつは仕事も出来る上に教えるのも上手い。

 その性格には相当難があるが、家族からは一目を置かれた信頼される理由はなんとなく分かった気がする。

 こいつは自分の身に置かれた環境はものともしない。

 常に誰よりも上に彼女は居る。

 最初は文句の絶えない日々だった。

 だが、いつの間にか彼女の元で仕事をする日々が居心地よく感じ始めている自分があった。


 「ここなら大丈夫よ。

 一度降ろして頂戴、春馬はるま


 「了解した」


 彼女に言われ、俺は今居る路地裏の隅に座れそうな場所を見つけ彼女を降ろす。

 傷を受けた場所の手当てを以前、彼女に教えられた手順通りにこなしていく。

 彼女の撃たれた部分の付近、よく見れば破れた衣服から露出した肌にかけて僅かな傷跡は幾度も見えていた。

 そういう傷をお互いに受けた時、受けてしまった場合に備えて彼女は俺に手当て出来る手段を一番最初に教え込んでいたのだ。


 何故始めに傷の手当ての技術を俺に教えたのか?


 その意味は未だによく分からないでいた。

 しかし、この場をやり過ごせるのなら充分な効果だろう。


 「とりあえず止血、そして弾の摘出は済ませた。

 だが、あくまで簡易的な処置だ。

 近くの病院でちゃんとした治療を受けた方がいいだろうよ。

 それで、まだ動けるか?」


 「いや、もう少し休ませ欲しい。

 今日はいつもより疲れたから」


 そう言われ、俺は壁に寄りかかり辺りの警戒を始める。追手はいつ来るか分からない、最悪ここで捕まればお互い死ぬのは明白だろう。


 「これからどうするつもり?」


 「まずは家族と合流と言いたいところだが、今すぐに集まるのは危険だ。

 始めに、離れた場所で俺達を雇ってくれる場所を探した方が得策かもしれない。

 両親はともかく、俺達の実力なら向こうもそれなりに評価はしていただろうからな」


 「何処かに宛はあるの?」


 「まあ一応は。

 ここ最近名を上げてる例のアリだよ。

 奴等は腕のある奴等を集めている、条件として問われるのはあの世界での実力のみ。

 実力さえあれば訳ありだろうと雇ってくれるそうだ」


 「でもそれ、ナウス内での実力でしょう?

 以前、依頼の時に一度使用した違法VRベッドギアが影響して、私は右の視力を失ってるのに。

 あなたはともかく、私はその邪魔になるだけじゃないの?」


 「だがそれは現実世界での話だ。

 向こうの世界でなら、お前も俺も充分に戦える。

 むしろ向こう側の方が俺には向いていただろう?」


 「はぁ全くあなたは本当にお調子者ね。

 それで、例の蟻さんの拠点は何処にあるのかしら?」


 「今居る場所から半日程度歩く距離にある。

 体力はそれなり必要だが、動けるのかよ?」


 「大した問題じゃないわ

 私も、やるだけやるわ。

 邪魔になったらいつでも置いて行きなさい」


 「了解した、少し休んだら出発しよう」


 それから数分後には俺達二人は共に蟻の本拠地を目指して歩き始めた。

 確実とは思えない無謀な賭け。

 だが俺達二人に残された僅かな希望でもあった。


 やるだけやろう、と。


 珍しく俺とこいつとの考えは同じだった。


 「ねえ、一つお願い聞いてくれるかしら?」


 「なんだよ?」


 お願いだと、珍しく自分を卑下とした尋ね方に思わず悪寒を感じた。

 しかし、彼女の命令に応じるのが俺の役割なので聞き返す。


 「今後、私の事は名前で呼びなさい。

 もう主とかは無しでいいから」


 「どういうつもりだよ、急に。

 この間までは子犬扱いしていたくらいだろう?」


 「あなたは、子犬から出世したという事よ。

 これからはずっと私の側にいなさい、お願い……」


 背負われた彼女は手を震わせながらそう言った。

 何を答えればいいか、僅かに迷ったが俺の答えは決まっていた。


 認められたのなら、応えようと。


 俺は既に彼女こいつの為なら命を賭けると決めたのだから。


 「分かった。

 何があっても、俺がお前を守ってやるよ日宮奈美ひのみやなみ


 「期待しているわよ、子犬ちゃん」


 この日から俺達の関係は変わっていた。

 彼女の下僕として、部下として存在していた俺の在り方は、彼女のパートナーへと変化していた。


 2097年7月3日 深夜


 ふと目が覚めて、私は廊下に出る。

 するととある一室から明かりが漏れていた。

 そこはケイの自室、そこから彼ともう一人の声が聞こえてきた。

 私はそれが気になり部屋の方へ向かった。


 扉をノックしようとドアに触れると。

 中から不穏な言葉が聞こえた。


 「言わなくて良かったんですか、あなたの事について」


 「言ったところで今更何も変わらないだろう。

 それにさっきの言葉で色々と情報が多かったんだ、これ以上の混乱は避けたい」


 「そうですね。

 あなたが近い内に死ぬ事は彼等に伏せた方がいい。

 いずれ彼等にバレるかもしれませんが、その時が来るまでは伏せておきたい。

 それがあなたの意思でしょう、ケイ?」


 「そうなるな」


 部屋の奥での会話は、ケイとミヤさんで間違いない。

 そんな中、二人の会話の中で私は驚いき、物音を立ててしまう。


 「そこに誰かいるのか?」


 不意に声を掛けられ私は戸惑った。

 思わず硬直していると、ゆっくりと扉が開き彼等に私の姿を捉えられる。


 「っ、聞いていたんですかシロさん?」


 「あの、えっと……すみません。

 盗み聞きするつもりは無かったんです。

 その、タイミングを逃してしまって……」


 私が二人にそう答えると、ケイは仕方ないと感じたのか一つため息をすると話掛けた。


 「聞かれたなら仕方ない。

 聞いての通り、俺にはあまり時間がないんだ」


 「あとどれくらいなの?」


 「……、長く見積もってあと一年半。

 少なくともこのゲームがクリアされるまでに生きて帰れる見込みは薄いだろうよ」


 「いつからなの……、その寿命の件は?」


 「俺が黄昏の狩人を脱退した時既に発症済み……。

 ギルドを脱退した理由もこれが原因だ」


 ケイがそう言い、私は彼に問い詰める。


 「なんで、なんでそんな事をもっと早く言わなかったの!!

 事前に知ってれば私達にだって……。

 少ない事かもしれないけど何か出来る事があったはずなのに……」


 「治らないから言わなかったんだよ。

 深く干渉すれば、それだけ後悔する。

 エルク……、その涼香姉さんや俺と同じようにな……」


 「そんなのおかしいよ!

 だって、向こうで会った時はなんとも無かったはずでしょう?

 去年の夏祭りだって……、それからみんなで遊園地で鉢合わせた時とか、ケイはみんなと変わらずに楽しんでいて……。

 貴方の両親が経営する喫茶店に何度か立ち寄った時でも、あの子は口数は少ないけど元気だよっていつも私に言ってくれたのに……」


 現実世界で何度かあった去年の出来事を思い起こし、彼の体はなんとも無かったはずだと私は弁明し続けた。

 しかし彼の答えは、


 「俺はその時、以前から色々と薬は服用していたよ。

 去年の最後辺りだったか、俺は右目で色を上手く認識できなかった。

 他にも味覚障害、痛覚や感覚の部分麻痺、聴力にも著しい低下が見られていたはずだ……。

 しかし幸い、シロがVRヘッドギアを利用し視覚を補っていたという事例を知っていたからその方法を代用し補ってはいたんだ。

 そして、俺の侵されている病はあの人の兄弟が死んだ病と同じモノ。

 それで多分シロには通じるだろう?」


 彼の言葉で侵されている病を理解した。

 私はその当時に何度か調べた事がある病だと。


 Other(アザー)。  


 それは現代医学では今現在に至ってもその明確な治療法は一切不明。

 侵された場合、その致死率も例外なく100%という代物だと。初めてその病を知ったのは小学校の低学年辺りだろうか。

 あの人の兄弟が亡くなったとされるこの病の怖さ、この言葉の重さの意味が当時の私にはあまりよくわからなかった。

 でも今なら嫌な程に理解できる。

 この病の恐ろしさも、それにより二人を失った彼とあの人がどれだけ苦悩に晒されていたのかを……。


 「あなたはどうしたいの、死ぬと分かってもあなたがダンジョンを必死に攻略していたのはどうして?

 クリアされても、自分には一切リターンはないのよ。

 それなのに、どうしてダンジョンの攻略を目指していたの?」


 私は彼にそう尋ねた。

 彼はデスゲームと化したこの世界で必死になってダンジョンを攻略してきた。

 私達の中でも一番始めに攻略しようとしたのも彼だった。

 第一層の攻略時、私達が攻略に参加した時よりも1ヶ月も前にはダンジョンの攻略を彼はしていたのである。

 何故彼はそうしたのか、私はその理由が気になっていた。


 「理由か、ただ何もせず死ぬのが嫌だった。

 人類の為、誰かの為、そんな綺麗事なんかじゃない。

 ただその理由は以前戦った時にクロが俺に言っていたよ。

 お前と一緒に戦えて、現実世界でもふざけ合って、毎日のように送っていた他愛ない日々が、俺は、俺達は楽しかったと、


 俺は楽しかったんだ。


 お前等と一緒に過ごせたあの日々が、心の底から楽しかったんだ……。

 楽しかったから、取り戻したかった。

 自分が生きて帰れる保証は何処にもない、それでもあの日常だけは失いたく無かったんだ。

 ソレが俺の戦う一つの理由だ、ただ俺のやり方は破綻していたのは確かだろうよ。

 死ぬのは怖い、だが知られる訳にもいかなかった。

 病気の事は、さっき話したお前達以外に両親とエルクは既に知っていたんだ。

 お前達、特にシロやフィル、そしてメイには知られたく無かったんだがな……。

 知ってしまえば辛くなるだけだろ、こういう事はな」


 そう言い終えると彼は僅かに視線を下に向けて、彼はゆっくりと俯いた。


 彼のその理由を知って私は、どう答えればいいか分からなかった。

 彼が黄昏の狩人を脱退した理由。

 多分それに当時の私達の行動も関係していたのだろう。人間関係がその当時はかなり拗れていたのは確かだった。

 しかし、彼自身はその時既に己の死と向かい合っていたのだ。

 受け入れたとしても、受け入れなかったとしても必ず自分や相手は必ず後悔する事を彼は危惧していたのだ


 「ケイ、あなたはこれからどうするつもりなの?

 ダンジョンの攻略、あなたは今の自分の状況を分かった上で続けるつもりなの?」


 「いわ、ダンジョンは必ず攻略するよ。

 そこにいるミヤの事もあるが、俺自身の意思だ。

 お前達の協力があろうが無かろうが、俺は自分がまだ戦えるのなら最後まで抗い続ける」


 私の目を見て彼は迷いなくそう答えた。

 彼の意思の強さを私はわかっている。


 彼が戦うと決めたのだ、そこにどのような経緯や目的、そして結果が待ち受けようとも……。

 だから、私も返す言葉はもう決まっていた。


 「分かった、私もあなたの戦いに協力する。

 ケイが戦うと決めたんだから、私も一緒に戦うよ。

 今度は私があなたの為に戦う番だから」


 「ありがとうな、シロ」


 2097年7月5日


 合間の休憩時間、二階のリビングで相席となっているのはヒナとケイ、そして俺ことクロの3人である。

 ケイは自分のアイテム整理をしている様子、それ対して彼の右肩に寄りかかってくつろいでいるヒナの姿。


 俺の知るメイは愚か普段の彼女と違い、今の彼女はケイにべったりの状況である。

 そして、それをあまり気にしていないケイの様子に俺は違和感をおぼえる。


 「お前等、いつもそんな感じなのか?」


 俺が思わず目の前の二人に話し掛けると、ヒナの機嫌を損ねたのかこちらに視線を向けると敵意丸出しで睨み付ける。

 対してケイといえば、何かに思い当たる節があったのか答えた。


 「ヒナの時はいつもこの通りだよ。

 別に暴力振るっている訳じゃないから多目に見ている。何か問題を起こされるよりはマシだろう」


 「いや、確かにそうだが……。

 お前等の距離感おかしいんじゃないのか?」


 「うろたえてもこいつの思うツボだろ。

 かえって興奮されると面倒だから諦めたんだ」


 「……そうか」


 俺が言うと、ヒナは肩に寄りかかるのをやめてケイの膝を枕にして寝転び始める。

 自由奔放な彼女の性格を知っているのか、ケイは飼い猫を扱うように気にも止めずアイテム整理を続けていた。


 しかし、普段の彼女を知る俺達からしたらそれもある意味異常である。

 普段の彼女、メイの状態を俺はよく知っているからだ。

 どこか俺達とは一歩引いて奥手の彼女。

 ケイとは俺達よりも関わっている期間が長いから打ち解けてはいたがそれでも今の彼女のようにべったりとする訳ではない。

 むしろこっちがむず痒くなるような実に微妙な距離感が彼女の印象なのである。


 しかし今の彼女を見れば、さも当然のようにケイに膝枕をしてもらい非常にリラックスして過ごしているのだ。


 「お前、これで付き合っていないのかよ」


 「そうだな」


 即決する彼に対して、ヒナは頬を膨らませると彼の左の頬をつねり自分の存在をアピールしていた。


 二人の様子を見て正直、俺は引いていた。


 ヒナ自身が彼に好意を抱いているというのは聞いていたが、ここまでとは予想外……。

 俺達に対しては常に機嫌が悪い彼女が、ケイに対してはここまでの付き合いの差であった。


 「なあ、ヒナさん。

 あんたのその行動って、メイさんには把握されているのか?」


 俺がそう尋ねると、ヒナは少し考えながら答えた。


 「そうねぇ、6割くらいは共有されるはずよ。

 逆にメイの方からの情報は全て私に筒抜けだけど」


 「そうなのか……」


 彼女の言葉を聞いて俺は唖然とした。

 つまり、今の彼女の行動はある程度はメイの方にも記憶される訳である。

 彼女がヒナに振り回されたという意味、確かにこれは厄介そうである……。


 「ケイ、あなたの部屋と私の部屋一緒でもいいでしょう?ドラゴの奴、いつも寝る前に私に抱きついてくるのよ」


 「一緒は駄目に決まっているだろ。

 そんなに支障があるのならシロに一度相談すればいい」


 「はーい」


 二人のやり取りはもはや塾年夫婦のようにも見える。

 しかし一方的な愛情表現を振り回しているケイに対してもどかしい感情が拭えずにいる。


 「クロ、さっきからこっちが気になるようだがどうかしたのか?」


 「いや、お前がその原因に気付いてくれよ。

 流石に二人の距離感がイマイチ理解が追い付かない。

 メイさんに一応お前とヒナとの関係については聞いていたんだが、お前と合流して早々のヒナとのやり取りに頭が追い付かないんだよ」


 俺がそう言うと、ケイは納得した様子なのか作業を一度止め俺に話し掛ける。


 「今はまだマシだよ。

 女性群と鉢合わせでもしたら、コイツは更に露骨アピールくらいはやるだろうからな。

 距離感云々に関しては、もう諦めた。

 これでも最初は嫌われていたんだが、まあヒナが俺達とある程度交流が出来るようになったと同時期に俺に対してはこんな感じだよ。

 猫か何かのペットだと思ってやり過ごそう、そうやってきて今に至る」


 ケイはそう説明すると、自分にべったりなヒナを眺めため息混じりに僅かな笑みをこぼす。

 自分の膝枕でくつろいでいる猫のようなヒナ。

 遠目で見ていれば、普通にカップルや夫婦のそれである。だが、ケイの話を聞いた限りでは少し認識が変わった。

 俺はヒナの気持ちも幾らか理解出来た気がする。


 彼女の性格上、他人と馴染むことなど出来なかった。

 才能や素質に恵まれたが、誰からも疎まれ皮肉混じりや距離を置かれた。

 メイさんとの関わりが少なからずあれ、誰からも理解されないというのは彼女にとって当たり前であったのかもしれない。

 しかし、その中でケイは彼女を肯定し続けたのだろう。

 俺達と接する以前の彼女は今以上に敵意を剥きだしていたはず。

 その中、最後まで彼女を引き留め続けたケイの存在はヒナにとって唯一自分と打ち解けていられる対象なのかもしれない。


 愛情に飢えている彼女だからこそ、常にケイの側に居たいのだろうと。


 「お似合いだな、つくづくお前らしいよ」


 「どういう意味だよ」


 苦笑いを浮かべそう答えると、自分の膝に寝転ぶヒナに対してケイは呆れながら眺めていた。



 その日の夜、今日の仕事も終わりギルドメンバーの一同を介して臨時会議が行われた。


 その議題は俺達の今後の方針について。

 俺達のこれからを決める為の大切な話し合いである。


 「今後の方針についてだが…。

 まず始めに、お前達から聞いておきたいことがある。

 例のダンジョン、それを俺達で攻略するつもりなんだよな?」


 進行役として、ギルドマスターである俺が彼等に問い掛けた。


 円を囲むように座る彼等を見渡し、誰も否定の意見を出さなかった。

 俺自身も否定するつもりはない。


 つまり、反対0が俺達の意思。

 ダンジョンを攻略する覚悟は全員が既に出来ているのだと。


 「分かった、反対はないんだな。

 それじゃあ、会議を続けよう。

 始めに、現在のダンジョン攻略の状況について、シロさんとのミヤさん説明を頼む」


 俺が二人に声を掛けると、座っていた二人が立ち上がり説明を始めた。


 「それじゃあ、現在の攻略状況について。

 そして、これからの攻略部隊の動向について説明をさせて頂きます。

 それと、ユウキさんに記録係をお願いしてもらってよろしいでしょうか?」


 ミヤが説明を始めると共に、ユウキへ声を掛ける。

 静かに彼ははうなずくと、ミヤは口頭で説明をはじめた。

 そして補助の担当であるシロは後ろでまとめた資料をウィンドウからボード状に表示させ画像を用いてわかりやすく伝えていく。


 「現在の攻略状況について、始めに今現在メディア等で広報されている情報から説明します。

 こちらがこれから攻略しようとしているダンジョンであるプラントは、現在は第三階層を攻略中。

 それ以外のダンジョンであるグーシア、ダイランの攻略状況に付きましては、現在ダイランは第6層を攻略中の模様。

 そしてグーシアが最上階と思われる第10層に先月の末に到達しましたが何の変化もなく停滞模様というのが現在メディアから私達プレイヤーや外部の人達に報道されている情報の全てです。

 続いて、こちらが得たメディアへの公開が控えられている情報についての情報をお伝えします。

 ケイ、彼等には話しても構いませんよね?」 


 ミヤがケイへと確認の問い掛けをする。

 ケイは何も答えない、ミヤはそれを同意とみなして話を続けた。


 ミヤの告げたその言葉に対して俺達の緊張感が僅かに高まる。

 辺りの空気が張り詰めたかのうように、神経を突き抜けるような感覚に襲われた。


 「私がこれから開示する情報は、主に3点。

 各ダンジョンの階層数及びその詳細。

 各ダンジョンに巣食う敵モンスター達の性質。

 ダンジョン攻略が現在停滞している理由について。

 これら順を追って説明をいたします」


 ミヤの言葉を合図にシロはスライドを進めそれぞれのダンジョンの簡易図を表示。

 図を用いてのミヤは説明を始めた。


 「現在私達が攻略しているエリアであるプラントは全5階層によって構成されています。

 残されたボス戦エリアについては。

 第3層の地形は約900平方キロメートルの荒れ地エリア。

 第4層は円形の大都市エリア。

 第5層は攻略人数6人制限、詳細は現在も不明です。

 各ボスの性質は現段階では分からないのが現状になります。

 続いてダイランについては全8階層の構成になります。

 こちらのダンジョンの詳細は不明ですが最上階は通常エリアと繋がる吹き抜けとなっており、ダイランのボスモンスターは通常エリアに脱走する可能性もあるというのが現在分かっている状態です。

 最後にグーシア。

 グーシアは最上階に到達したのは確かですが、この階の攻略には鍵が必要な模様です。

 恐らくプラント、ダイランでの最終ボスの討伐報酬での入手。

 あるいは何らかの他のクエスト報酬等、様々な憶測が飛び交う中で鍵の在り方は現在も不明な模様になります。

 以上がそれぞれのダンジョンの全階層の詳細になります。

 この時点で皆さんから何か意見や質問はありますか?」


 「質問いいか?」 


 手を挙げたのはフィル、ミヤが彼に発言の許可を出すと彼は言葉を続けた。


 「今プラントが全5階層中の3層目というのは確かな情報なのか?

 情報の出処も気になるがそして何故この情報がメディアで制限されているんだ?

 普通に考えておかしい。

 それに今聞いた限りではダンジョンの攻略は既にほとんど終わっているようなものだろ?

 いや、その点は後に話すんだったよな……済まない」


 フィルがそう言うと、ミヤは返答を返す。


 「質問ありがとうございます、フィル。

 最後の意見に関しては追々お答えするとして、情報の出処に関してですよね。

 この情報は、白崎グループの会長である私の祖父から直接聞き出した情報になります。

 正確に言うならば各ダンジョンには元となる設計図のような物がユグドラシル社の倉庫から確認され、そこから各階層数を割り出した形です。

 分かっているとは思いますが、ここで得た情報に関してはここでのみ交換するものとしてご理解をお願いします。

 各メディアに対して情報公開の制限を設けているのもこれからお話する内容に深く関わりますから」


 様々な真実が俺達へ告げられようとしている中、何か嫌な予感がする感覚が拭えずにいた。


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