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第15話 信念と葛藤と真実を

 2097年5月11日


 決起集会も終え、攻略前の最後に私は自分のテント内で手持ちのアイテムの最終確認をしていた。


 攻略前の最終準備。

 一切の抜かりは無いように気を配る。

 今回、人員の身元確認は部下に半分を任せている。

 攻略に派遣される攻略部隊の総数は約5000人程。

 私一人では全て確認しきれない為、今回は部下に半数のチェックを任せていた。

 何か起こる訳ではないだろうとあまり過信してはいけない。

 しかし共に挑む攻略者達に対して疑いをかけるの事に僅かに気の引ける部分もあった。


 「カイラ様、失礼します」


 私の個人テントに聞き慣れた声が響く。

 声から察するに副団長であるリオだろうとすぐに分かった。


 「リオか、いつもそう畏まらなくてもいいと言っているだろう。

 それで、要件は一体なんだ?」


 「カイラ様にお客様です。

 その……」


 僅かに端切れの悪い彼女に珍しさを感じた。

 そして後ろに居る見慣れた長髪の影を見て誰が来たのかすぐに察しが付く。


 「構わない、通せ」


 俺がそう言うと、リオよりも先に例の人物は入ってくる。

 長い銀髪の女性プレイヤー。

 それは、かつて同じギルドに属していた事のあるエルクその人であった。


 「久しぶりだね、みなと君。

 多分大学の卒業以来になるのかな?」


 「相変わらずだなお前は。

 プレイヤーネームで呼べと上から何も言われていないのか?」


 「まぁまぁ、ここには私と君。

 そしてしおりちゃんしか居ないだろう?

 別に本名だろうとここでなら問題ないさ」


 「エルク様、カイラ様に無礼です」


 「君も変わったねぇ。

 でも彼に引っ付いているのは昔と変わらずかな。

 まあ別に構わないだろう。

 私と君達の仲だろう

 何も問題はない、そうだろう湊君?」


 「好きにしろ。

 それでわざわざ再会の為に来たんじゃないだろう?

 お前のことだ、何か厄介な案件を持ち掛けて来るに決まっている」


 私がそう尋ねると彼女の目つきが僅かに変わる。

 彼女がそういう目つきをするということは余程の何かだと言うことに察しが付いていた。


 「今回のダンジョン攻略、私も一応参加するんだが今の私のDLは0。

 今回以降は、流石に私の命の保証はない。

 上もその事を承知している。

 しかし私という戦力を使わない選択肢を躊躇っていたようだ。

 それからまぁ、成り行きで話は進み私も今回参加したという訳だが……」


 長たらしく話す彼女に対して私は彼女に問い詰めた。


 「何が言いたい?」


 私の言葉に軽く咳払いをすると、彼女はようやく本題を話した。


 「簡単な事だよ、もし私がダンジョン攻略時に死亡した場合について。

 その場合なわ君達ゲイレルルに私の依頼を引き継いでもらいたい。

 君達の事情も把握しているが、既にあの方からの許可も得ているよ。

 つまり私のこの命令には現在あの方と同じ権限がある訳だ」


 あの方と聞き拒否権は無いことを察する。

 詳しい事を聞くために彼女に再び問い掛けた。


 「それで?

 具体的に我々は何をすればいいんだ?」


 「ある人物の護衛と保護、そして監視任務。

 対象は2名。

 白崎雅七、及び元ワルキューレの副団長であるミヤ。

 そして明峰継悟、こちらではケイと名乗っている私の弟子だよ」


 「お前、一体何を企んでいる?」


 「彼等は覚醒因子を秘めている。

 一人の覚醒は私がこの目で確認したが、もう一人は恐らくこれからだろう。

 第3階層のボス戦以降に恐らく彼女もまた覚醒するだろうね」


 「つまりその二人は例のEXスキルの所持者か?」


 「そういう事になる。

 一人は事象掌握の種をそしてもう一人は救済者の種を持っている。

 お互い、まだ芽吹く気配があるかどうかの段階だけどね。

 おまけに生命共有の獲得者も彼等の近くにいるみたいだ。

 君達にとっても大きな利点になるだろう?」


 「確かに我々にとって有意義な情報だろうな。

 それで、それを踏まえてのお前の目的はなんだ?

 その質問に答えろ」


 私が問い詰めると、エルクは一瞬でこちらの間合い詰め私の首元に武器を突きつける。

 私が何も反応出来なかった事。

 彼女とこちらにある実力差に私は驚かざるを得なかった。


 「それ以上の詮索は幾ら君でも駄目だよ。

 君達は君達の役目を果たして欲しい。

 私も私の役割があるんだよ」


 彼女はそう言うと武器をゆっくりと離し、鞘へ収める。


 「こちらの命令は伝えた。

 必ず任務を遂行するように。

 アント日本支部の代表取締役、雲秀湊くもひでみなと君」



 2097年6月30日


 俺達の目の前にこちらに居ないはずの人物がそこに立っていた。

 先程放たれた閃光の煌めき、それにより敵のリーダーであるカイラは倒されたはずだった。

 しかし攻撃は突如介入した奴の女部下により阻まれる。

 それにもより俺はカイラの攻撃を直撃し、左腕を欠損。

 自分の体力減少は今も行われている中で、二対二の戦いをこちらは強いられていた。


 「間一髪のようですね、カイラ様」


 「今回は君に助けられたよ。

 そして、どうやら私は君達を甘く見ていたようだ。

 流石、彼女が信頼置くだけはあるようだ」


 警戒を続ける中、自分に近づいていくタイムリミットに焦っていた。


 「フィルさん、すみません。

 もっと私が的確に指示を回していれば」


 「今はいい、とにかくほとんどこちらは詰みだ。

 俺の体力も保って3分。

 動けばそれ以下だ。

 俺が時間稼ぎをする間に、ミヤだけでも逃げろ」


 「ですがそれでは!」


 「いいから逃げろ、これ以上戦えば確実に全滅だ。

 あんた一人でも生き伸びればこちらはまだ引き分けにもっていける。

 俺達は全滅しても構わない、だがここであんたが死んだらそれこそこちらの行為が無駄になる。

 今は逃げろ、敵の数も少ない内に早く!!」


 俺が彼女に訴えかけ、彼女は静かに頷きこの場から撤退した。

 敵の一人が彼女を追いに向かうと、俺はそれを残された右手で構えた武器で立ち塞ぐ。


 「そんな体でまだ戦うつもりですか?」


 「ここから先は行かせねぇよ。

 俺の全てを賭けて、彼女を可能な限り逃してやるさ」


 残り1分保てるだろうか。

 いや、数秒でも僅かでも彼女を少しでも遠くに送れるのならいい。


 「俺の全力をもってお前達を止める!!」



 私達が3人掛かりに対して、彼はたった一人でこちらを圧倒していた。

 クロの奮闘により見つけた彼への攻撃の糸口。

 彼放つ攻撃は始めに立てた仮説である、姿や気配を消して現れるというもの。

 これは彼の得意としていた幻影回避とは間逆の技だろうという答えが導き出された。


 彼の得意としていた幻影回避は、こちらの攻撃を捉えさせた上で、幻影スキルにより攻撃に及ぶ姿を写し出す。それに重ね、曲芸スキルに存在する奇襲を同時に用いる事によりあたかも背後に攻撃が前に来るように見せかけてからの背後への攻撃を可能にしている。


 しかし今回の技は初動から幻影スキルを使用し姿を消している。それから奇襲スキルを使用しているというものだろう。

 単純な仕組みに思えたが、これはそう簡単に出来るものではない。

 幻影スキルによって生まれる幻影はそのスキルを極めたとしても2秒保つのが限界なのである。

 まして極めるにも、このスキル伸びはかなり遅い部類。しかし、彼はそれを確認した限り5秒以上使用しているのだ。

 スキル発動後に起こるスキルの再使用までの時間は約30秒。しかし彼はその間の時間を無視しスキルを使用していたのだ。

 何らかのスキルや技法、考え辛いが不正ツール等を使用しそれ等可能にしている。


 これが、クロ達との戦いを見て得た結論である


 「ケイ、その技どうやって習得したの?

 明らかにこのゲーム内で可能な範囲を逸脱しているよ」


 「可能な範囲の技だから俺が使えている。

 恐らく、フィルの共有スキルを使用すればお前達も同じような事が出来るはずだ」


 「不正ツールの共有なんて私達には要らない!!」


 私が彼にそう投げかけ、彼の攻撃が止まる。


 「変な疑いを掛けられているようだな。

 それじゃあ、今からその一端を見せるよ」


 そう言うと彼は武器を鞘へ収め、抜刀の構えを取る。

 そして辺りの空気が一瞬張り詰めた。

 彼から感じた何かの既視感、私の技を真似た何か。

 いやまさか彼の技は……


 「迅雷風烈」


 彼が放った技は、私が先の戦闘で扱った技である。

 その名前を唱えた瞬間ゆっくりと彼は鞘から刃を引き抜きその輝きが徐々に露わになっていく。

 そして、彼のその姿が一瞬で消え去った。


 何か紙切れが散るような、フワッとした感覚が過ぎ去る。

 そして、私達を過ぎ去ったのかの彼は私達の背後へと現れた。

 こちらの動きは完全に硬直、そしてゆっくりと彼は告げる。


 「俺はこの目で見た光景を再現出来る。

 そして、自身の扱える技は有限だが保存する事ができる。

 お前達に使った技はそういうものだ」


 そして、彼が鞘ね武器をゆっくりと収めていく。

 カンという甲高い音が響くと同時に私達の目の前は光に染まって意識は消え去った。



 私は逃げるしか無かった。

 仲間を見捨てて、自分の為に逃げていた。


 「ごめんなさい……皆さん」


 私のせいで彼等を巻き込んでしまった。

 私のせいで彼等を傷つけてしまった。


 仲間だと彼等は私にそう言ってくれたのに……


 どれだけ時間が過ぎたのだろうか。

 フィルがカイラ達からの猛攻を一人で凌いでくれている間に私一人だけ遠くまで逃げて来れていた。


 彼等の行為を無駄には出来ない。

 私はとにかく走り続ける事しか出来なかった。



 気付けば日は落ちている。

 近くの街の宿で夜明かすのが普通だろうが、この状況で街に行くのは危険過ぎる。

 野宿をする方が最適だろう。

 現実ではまず考えられない行為だが、ここはナウス。

 ゲームの世界だから多分大丈夫だろう。


 近くの木に背中を預け、切らした息を整える。

 どれだけ走ったのだろうか。

 これだけ逃げれば見つからないと、保証はあるのだろうか。

 その後の彼等はどうなったのだろうか。

 カイラ達、ゲイレルルは私を確実に探している。

 私が見つかるのも時間の問題だろう。


 私は索敵スキルを使い辺りの敵を調べる。

 すると、私は既に何者かに囲まれていた。


 索敵スキルを使用した場合、索敵ウィンドウが表示される。カーソルの色や形で何が近くに存在しているのかを把握できる。


 四角形のカーソルはプレイヤーを表している。

 青はプレイヤー

 黄色は手配者プレイヤー

 黒は数分前に死亡したプレイヤー


 丸や三角は敵モンスターを表す。

 丸は通常モンスター、こちらへの敵意によって青色から赤色が変化する。

 三角はボスモンスター、こちらも通常モンスターと同じ反応を示すが基本的には敵意しかない為常時赤いカーソルである。


 現在、私を囲んでいるのは丸のカーソル。

 色は全てオレンジ色、つまりこちらを狙っている敵モンスターの群れであるのは一目瞭然であった。

 この辺りに巣食うモンスターは、確かEランク上位のアルラフォックス。

 狐型のモンスターで雑魚モンスターの類いだが彼等は夜行性のモンスター。

 夜に戦闘をした場合、そのランクはCランク下位の実力。

 群れで現れた場合、こちらも少しばかりは苦戦する相手である。


 現在、こちらは一人。

 つまり、こちらはほぼ確実に全滅するだろうというのはすぐに予想出来た。


 「こんなところで負けてられない」


 疲労しきった体を奮い立たせ、私は武器を構える。

 彼等が繋いでくれた物。

 ここで無駄にする訳にはいかない!


 私が武器を構えたと同時に、敵の群れが襲い掛かってくる。

 それから、どれだけの時間が過ぎたのか私はあまり覚えていない。

 気づけばほぼ全ての敵を倒しており、最後の一頭。

 群れのリーダー格であるCランク上位のモンスター、グラウズ・フォックスと相対していた。

 夜行性で凶暴化している、元でCなのだから恐らくB以上だろう。

 一対一で戦うのは既に限界だった。

 回復アイテムも尽き、これ以上の長期戦は不可能だろう。


 こちらが僅かに動くと同時に敵の攻撃が向かう。

 疲労で疲れきってるのに関わらず、相手は無慈悲にこちらの命を奪いに向かう。

 一度目の攻撃を躱すが、すぐに前足からの攻撃を直撃して近くの木々に叩きつけられる。


 体力が減少、残り半分と少し程であった。


 「こんなところで、私は……」


 立たないといけない。

 私一人になろうと、彼等が私に繋いでくれたのだから


 敵はこちらへ向かう、後数回でこちらは死亡。

 向こうの体力は全快そのもの。

 勝ち目は薄い、でも私は負けられない。


 「私はまだ負けられないの!!」


 双銃を構え、敵の姿を完全に捉える。

 足は動く、腕も動くならまだ私は戦える。

 彼等が繋いでくれた物をここで無駄にする訳にはいかないのだから。


 銃口を敵に向けた刹那、何かの影が私の視界に入り込んだ。

 灰色のコートを纏い、夜空の光に照らされその姿が露わになる。

 そこには、2ヶ月前のあの日に見たソレがそこにあった。


 「……白狼なの?」


 私の前を塞ぐように敵と対峙していたのは白狼であるケイその人であったのだから。


 「今は少し休んでいろ。

 あとは俺一人で十分だ」


 そう言って、白狼のコートが僅かにはためくと同時に両者が同時に動く。

 敵の攻撃を躱し、確実に攻撃を入れていく。

 無駄など一切ない洗練された動きに思わず魅了される程であった。

 夜空の下で獣を狩る一匹の狼のように。


 そして……


 「終わりだ」


 一閃の光に敵は貫かれその体は光を放ち四散した。

 戦闘を終え武器をしまいこちらに話かける。


 「随分と無茶をするようになったんだな」


 「……私を迎えに来たんですね、あなたは」


 「そういう事になる。

 こちらに来てもらうか、ミヤ」


 彼のその言葉に私は初めて心の底から何かがこみ上げて来た。

 「…り者。

 あなたは裏切り者よ!!!」


 私の声が辺りに響き渡る。

 その言葉に彼は何も答えない。

 私は感情に任せて、彼に怒鳴っていた。


 「大切な仲間じゃないの!!

 彼等のような素晴らしい方々があなたの周りには沢山居たのに!!

 どうして!!、どうしてあなたは彼等を裏切ったのよ!!

 私は彼等と関わった時間は貴方よりも短い!!

 でも、彼等はそんな私を受け入れてくれた!!」


 彼に対しては溢れる怒りが、私は全く収まらなかった。


 「ドラゴさんはみんなで一緒に戦いって!!

 クロさんは貴方の実力を認めてるって!!

 ユウキさんはあなたもかけがえのない存在だって!

 メイさんは、誰よりも貴方の味方だって言っていたのに!!

 クロさんやシロさんは、貴方が行方不明になってどれだけ悲しんで心配を掛けたと思っているんですか!!

 貴方のやり方は許せない!!

 貴方のような方がどうして彼等と共にいられたんですか!!

 仲間を見捨てて、裏切って、今度は敵として傷つけてこれ以上どれだけ彼等を侮辱すれば気が済むのですか!!

 私に答えてみなさいよ白狼!!、ケイ!!!」


 怒りに任せて。

 涙も溢れながらも私は彼に訴え掛けた。

 彼等がどれだけあなたを心配していたのか、どれだけあなたとの再会を待ちわびていたのか。

 それを全て台無しにした彼の行為を私は容認する事が出来なかった。


 「許されようなんて始めから思ってない。

 俺は俺に出来る事を続けるだけだからだ」


 「仲間を裏切る行為もその過程だと?」


 「そういう事になるんだろうな」


 彼の言葉を聞いた私は、その胸ぐらを掴み近くの木に叩きつける。


 「大切な仲間じゃないんですか!!

 貴方はそれでも人間ですか!!!

 あなたのやり方は決して許せない!!

 出来るのならば、この場であなたを殺したい程憎いです!!」


 「殺したいか……。

 まあそう焦らなくても、俺は必ず死ぬ定めだ」


 「どういう意味です?」


 「そのままの意味だよ。

 デスゲームが開始される時、俺は謎の病に侵されていて開始前で2年と宣告されていた。

 例外なく確実に死ぬ病だそうだ。

 そう焦らなくても、俺はすぐに死ぬ。

 つまりそういう事だ」


 その言葉を聞いて、私は自分の血の気が引いて行くのを感じた。

 これまでの彼の行動の意味を私はこの時初めて理解した。


 「まさか……あなたは、その為に全てを……」


 私の込めた力が緩み彼は地面に降ろされる。


 「俺が悪い事に変わりはない。

 俺のやっている事の間違いなのは分かっている。

 そして俺には今、それ以外にもやるべき事があるんだよ」


 「やるべき事?」


 「俺の現実世界での名前は、明峰継悟。

 お前の祖父に命じられ、俺は今回の作戦に協力した」


 「お祖父様に会っていたの?

 それじゃあつまり貴方は……」


 「お前が探していたカノラ・リールの実の息子が俺だったということになる。

 こちらの知りたい情報の為に君の協力が必要だ」


 彼のその言葉に驚きが隠せない。

 様々な状況が一変していく中でようやく全てがつながっていた。

 私の目的もあと少しで果たせる。

 彼の協力に応じるのは私も本望だろう、しかし彼等の存在は無下に出来ない。

 しかし彼には、その謝罪をしてもらわなければならない。

 今回の戦いで大きく傷ついた彼等に対してあまりにもつらすぎるだろうからだ。


 「……分かりました。

 私の当初の目的もそれでしたからね。

 しかし事が済み次第、彼等への謝罪とある程度の説明をお願いします。

 理由がどうであれ、話せる範囲での謝罪をしてください。

 それが貴方の交渉に応じる条件です」


 「……分かったそれに応じよう」


 僅かに悩み彼はそれに応じる。

 その後に待ち受ける私の求める真実はすぐそこにまで迫っていた。

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