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第13話 ゲイレルル

 2097年 6月30日


 この日、私達はミヤさんの組んだ戦闘訓練に取り組んでいた。

 青く澄み渡る空の元、広がる草原の中で私達は戦っていた。

 討伐モンスターはSランク下位相当。

 討伐推奨人数18人の大型モンスター、アルムールである。

 巨大な翼を羽ばたかせる4足の真紅の鳥型モンスター。

 神話上の生き物でいうところのグリフォンのような見た目である。


 対して私達の人数は私を含めてたったの7人。


 普通に考えて厳しい条件であるが、私達の目の前には例のグリフォンがもう一体存在している。

 つまり二体同時討伐が今回の訓練内容。

 流石にキツイだろうと、私達は当初思っていたが新たに加わってかつての仲間であるフィル君とシロさんを加えた私達にとっては二体を相手に互角以上に渡りあっている。


 ミヤさんの完璧に思える指揮の下で私達は、戦っていた。


 約30分程にも渡り長く続いていた戦いは、ようやく幕を下ろそうとしていた。


 「フル・センチュリオン!」


 クロがスキルの名前を唱え、グリフォンの急降下攻撃を防ぐ。

 凄まじい威力にクロは押されるが、盾の向きを僅かに変えて、グリフォンの体ごと攻撃を受け流してみせま。

 私達への被害はなく、攻撃後に生じた敵の隙を見計らいフィルとドラゴが敵に突っ込んでいく。


 「フィル、行くよ!!」


 「了解した!」


 二人がグリフォンへと飛びかかり、攻撃を繰り出す。

 敵の体力ゲージが2割を切る。


 勝利は目前、グリフォンは反動で暴れ出しフィル達の後ろに控えていたシロとミヤさんの方へと向かっていく。


 「最後、どっちが決めますか?」


 「シロさんに譲ります、綺麗に決めて下さいね」


 ミヤはそう彼女に告げると彼女から距離を取ってグリフォンとシロを一対一で対峙させる。


 「さてと、じゃあさっさと片付けましょうか」


 腰に収めている刀に手を当て、彼女は抜刀の構えへと流れるように移る。

 グリフォンが間合いに入った瞬間、彼女の周りの空気が一気に張り詰め、辺りが一瞬氷に染まったかのように時間がそこでゆっくりと流れていた。

 仲間同士であってもこの瞬間だけは全員の動きが静止した。


 「迅雷風烈」


 そう告げると、ゆっくりと彼女は鞘から引き抜きその刃が徐々に露わになる。

 敵は構わず彼女へと向かう、しかし全く動じす彼女ら狙いを定めるとその姿が一瞬で消え去った。


 何か紙切れが散るような、フワッとした感覚が頬を過ぎる。

 そして、敵の背後を過ぎ去ったのか彼女の姿は敵の背後に現れる。

 敵の動きは完全に硬直、そしてゆっくりと彼女は己の刀を鞘へと収める。


 カンという音が響くと同時に敵が凄まじい雷と衝撃波で光を放ちながら爆散した。


 「攻略完了です」


 シロがそう告げると。

 私達は彼女の方へと集まる。


 「本日の目標は達成です。

 私から見たら、最初の頃に比べたら動きはかなり良くなっていると思います。

 ミヤさんもそう思いますよね?」


 「そうですね。

 皆さん本当に最初の時よりも格段に強くなっています。クロさんの動きを軸とし、すぐにドラゴさん達への攻撃へ転じる。

 この一連さえ出来ていれば、シロさんやメイさん、そしてユウキさんの動きで発展性を持たせられますから」


 「なるほど、つまりここから更に動きのパターンを増やしていく訳か」


 クロがそう尋ねるとミヤさんは頷く。


 「そういう事になりますね。

 今の段階でも十分良くはなっています。

 しかし例のダンジョンではまだ足りない、その点については最前線で戦っていたシロさんとフィルさんが良く分かっていますよね?」


 「そうだな。

 俺達は確かに強くなった、メンバー同士の動きの連携そして練度も良くはなっているがそれでもまだ足りないと思う。

 いや、備える限りの手は尽くした方がいい。

 シロもそう思うだろ?」


 「うん。

 私もその点は同じかな?

 メイちゃんの動きが私は少し心配だけどね、でも以前よりは戦いに対して前向きになったよね?」


 「そうだといいんだけどね……」


 私が自信なさげに答えると、隣に立っていたドラゴが私に抱きついてくる。


 「大丈夫、大丈夫!

 メイちゃんもずっと強くなってるんだからさ!

 それに何かあったら私とフィル君でガンガン前線を切り開けばいいしさ。

 そうでしょう、フィル君?」


 「いや、確かにそうだがもう少し抑えようぜ?

 流石にあんたの動きには常に追いつけそうにない」


 フィルが僅かに呆れ気味そう答えるとドラゴは少し残念そうな表情を浮かべる


 「ええ……せっかくいいやり方を思いついたのに。

 でも私達、前より強くなったんだよね?

 そろそろダンジョン攻略の日程を決めようよ!」


 「まだ気が早いよ、ドラゴ。

 今はダンジョンの攻略が十王達ですら手を出せない状況みたいだし?

 例のアントの問題がまだ解決していない。

 問題が解決してからでも遅くはないと思うよ」


 ユウキはそう言うと、私達は頷く。

 まだ私達が戦う時ではない。

 来たるべき時の為に強くなり続ける。

 それが今の私達にできる事だ。  


 「よーし、それじゃあ今日の成功を祝ってパーティーやろう。

 食材アイテムもまだ沢山あったし」


 「ドラゴ、お前なぁ……」


 「まぁまぁ、今日は特別にやりましょう?

 ミヤさんも賛成ですよね?」


 「シロさんが言うのでしたらそれに賛同します」


 「やった!

 じゃあユウキ、準備の為に早く行こう!

 フィルもクロもみんなで……」


 盛り上がる中、ふと会話が途切れた。

 何かの違和感に全員が察し、お互いに辺りを見やる。


 「ミヤさん、敵の数は?」


 「確認した限りだと19。

 全てプレイヤーみたいですね」


 シロとミヤさんがそう言うと、フィルが尋ねる。


 「いつから囲まれていた?

 グリフォン相手の時は少なくとも居なかったはずだ。

 俺達の戦闘が終わったところを見計らいながらいつの間にか囲みやがったのか?」


 「多分、そうかもね。

 で、ミヤさんにクロ。

 これからどうする?」


 ユウキが尋ねると、クロは答えた。


 「一度交渉に持ちかける。

 無駄とわかれば交戦も考えないとな……」


 「そうですね、一度交渉してみましょうか」


 メンバー内の意思がまとまり、クロが前に立つ。


 「さっきから俺達を見ている奴等。

 居るのは分かっている出てこい!!」


 クロが一声を掛けると、徐々に私達を囲んでいた者達が姿を現した。

 藍色の衣服で統一された者達。

 右腕には腕輪が嵌められており、ミヤさんの持っていた翼を象った物と酷似しているが僅かに模様が違うように見える。

 翼の腕輪それに一本の槍を象ったかのような模様がそこにあった。


 「彼等が何故こんなところに……」


 ミヤさんはそう言いながら、僅かに困惑している様子だった。

 彼等の正体を彼女は知っているようである。


 「ミヤちゃん、あの人達と知り合い?」


 ドラゴが尋ねると彼女は首を振り答えたが渋々返答した。


 「知り合いではありません。

 ですが、その存在は以前から認識していました。

 ナウス及び、ダンジョン攻略を専門としたワルキューレ直属の特殊部隊ギルド、ゲイレルル。

 それが彼等の名前です。

 何故彼等がこんなところに?」


 戸惑いを見せる彼女であったが、そうこうしている内に彼等のリーダーと思われる人物が二人の部下を引き連れこちらに向かって来ていた。

 長い黒髪、そして漆黒のコートを羽織った男性プレイヤー。その右腕に嵌められているのは金色の例の腕輪。

 ミヤさんの持っていた腕輪と似ているが、その模様は彼等の仕様になっている

 武装を見る限り、彼の武器は腰に装備された片手剣とハンドガンくらいだと思われた。


 そして後ろに引き連れた部下二人については、一人は女性、もう一人は男性プレイヤーだろうか?

 女性プレイヤーの方は顔が出ており、端正な顔立ちである。後ろに背負うのは私より少し大ぶりな長銃。

 リーダーの身に着けている衣服を模した、灰色と黒のコートを纏っていた。

 それ以外の武装は特に見当たらないが、実力はかなりのものと伺える。

 しかし、もう一人のプレイヤーに至っては顔をガスマスクのような物で多いプレイヤーの素顔は全く伺えない。

 リーダーの男と似通った黒いローブを更に羽織り、フードすら深く被り顔を覆っている。

 その人物の武装はこちらからはあまりよく伺えない。


 部下二人の右腕に身に着けている腕輪は銀色。

 リーダーの後ろに付いて来る辺り、彼の次に権限のある人物だという事だろうと予想できる。


 「先程は少々無礼な振る舞いにより不快な思いをさせててしまったようだね。

 まずは先の行動について謝罪しよう。

 私はそこに控えている彼等のギルド、ゲイレルルを率いているカイラだ。

 君達の戦い、よく見させて貰ったよ。

 実に良い戦い方をしている。

 見たところダンジョン攻略を志願しているようだ。

 我々も君達のような強いプレイヤーが居ると大変心強いよ」


 そう言って、カイラと名乗ったリーダーの人物はクロへとゆっくり右手を差し出した。

 僅かに戸惑うクロであったが、今のところ相手に敵意がない事を確認するとその手を取り握手を交わす。


 「君がこのギルドのリーダーかい?

 ギルド名と君の名前は?」


 「俺はクロ。

 俺達のギルド名は、黄昏を求めし抵抗者。

 黄昏の狩人と悠久のレジスタンスが最近合併して出来たばかりの新米ギルドだ」


 「クロ君か、今後ともよろしく頼む。

 そして黄昏の狩人と合併か……。

 なるほど、少々面白い組み合わせのギルドのようだね」


 「聞きたい事は色々あるが、あなた達の目的はなんだ?

 勧誘という訳でもないんだろう?」  


 クロが尋ねると、カイラというプレイヤーは僅かに微笑み答えた。


 「勿論だとも。

 我々が来たのは、先程からこちらを伺う彼女を連れ戻す為だからね。

 我々の事は知っておりますでしょう、ミヤ様?

 お迎えにあがりましたよ」


 そう言って、彼女の方へと向かう。

 彼女も彼の声に応じて、彼の前に向かい合った。


 「誰の差し金です?

 私はエルクの命令あるまで彼等と共に行動するよう命令されております。

 彼女の命令無しでは、私はここを決して動きません」


 ミヤは目の前の男を前に堂々とそう発言した。

 辺りの空気が貼り詰め緊張感が高まるが、向こうはかなり冷静である。

 経験の差、いやこちらが絶対に有利であるとわかっているかのような様子と取れる。


 「君の護衛任務を担当した、エルク。

 いや、篠原涼香というプレイヤーは、2097年5月12日にダンジョン内にてDLを全損しその死亡が確認された。

 よって同年6月1日をもってその依頼を彼女の遺言、そして君の御父上の許可の元、私がその命令の一切を全て引き継いだ。

 そして本日、午後0時を持って君を帰還させるよう御父上からの直々の命令を受けここに来たという訳だよ。

 ここにその書類もあるよ」


 そう言って、カイラはミヤに一枚の紙オブジェクトを手渡した。

 その書類を手に取り納得がいかなかったのか、彼女はソレを破り捨てた。


 「納得いきません!

 それにエルクが死亡したとはどういう意味です!!

 彼女は強い。

 お父様もそれを認めた上で私の護衛に回したはずです。

 彼女がそう簡単に死ぬ訳がありません!」


 ミヤさんは自分の主張をカイラという人物に訴えかける。

 しかし今の私の頭の中、そして私を含む仲間達が言葉を失っていた。


 エルクさんが死亡した。


 これは私達も想定していなかった事である。

 彼女は私が黄昏の狩人に属していた頃から、私達の師匠としてケイを含む四人の師匠として存在していた人だ。

 その実力は私達が四人掛かりでも倒せない程。

 私達が知りうる中でナウス内での最強の一角を担う程の人物だ。


 彼女が死ぬという事など決してありえない。

 故に、彼女の死亡という事案を私達は全く想定していなかった。

 SSランク上位ですらたった一人でほぼ無傷で狩れる程なのだ。


 そんな彼女が敗れるなど決してありえないと。


 「私は事実を言ったまでだよ。

 そして、君の反対も想定していた。

 彼女も認めた存在である君達のギルドの存在だよ。

 良かれ悪かれ何かしらの影響は受けているとこちらも想定していたか、ね。

 君達があくまでこちらの命令に背くのであれば、強硬手段も辞さないつもりだ。

 その為の私も部下だ。

 思った通り、私一人では少し手厳しい実力の持ち主だ。

 嬉しい反面、厄介だと思ったからね。

 やはり、万が一に備えておいて良かったよ」


 カイラはそう言い、私達に対して武器を構える。

 しかし、その構えに私は驚く。

 カイラという人物の構え方が、エルクさん。

 そして、ケイと全く同じ武器の構え方という事に。


 「そう……。

 あなた方ははじめからそう言う事ですか。

 はじめから私のこと信用していない。

 私が逆らうという事を前提にお父様は私をこちらのギルドに置いたのですね……。

 どちらにしろ納得いきません……。

 ですが、この戦いに彼等は関係ありません。

 私一人が向えばで済む事でしょう?」


 ミヤさんの発言にクロが声を出そうとするが、ユウキはそれを阻み制止する。

 首を振りながら「やめたほうがいいい」。

 そう言うと、ユウキはカイラ達の方を見た。

 向こうの実力を察して彼はそえ判断したのだろう。


 今の私達では勝てない。


 数も実力も、そして先程の戦いで疲弊した私達では決して勝てない存在だと。


 「確かに君達は無関係だ。

 でもね、君達にこちらの邪魔されると厄介なんだよ。

 だから君達が戦う戦わないのどちらを選ぼうと、我々は君達全員をここで殲滅する。

 そして、復活地点に配属されているかつての君の部下達の手によってミヤ様の身柄を確実に確保する。

 君達が抗うも抗わないのも自由。

 どちらにしろ起こる結果は変わらないんだからね」 


 カイラというプレイヤーからは異質な恐怖を感じた。

 ミヤさんのやり方とはまた違う圧倒的なカリスマ性。

 味方であれば明らかに頼もしい存在、しかし敵として介した場合にはかなり厄介だろう。


 こちらが味方でも敵でも関係ない。

 結果の為ならどんな手段を問わない。


 それが目の前に立つ、カイラという存在だと。


 「すみません、こんな事に巻き込んでしまって」


 ミヤさんがそう謝罪すると、クロを含む私達は一斉に武器を引き抜き構える。

 そして、クロはミヤさんに声を掛けた。


 「大丈夫だよ。

 いつも通り、訓練の通りにやればいい。

 勝てるかは分からないが、俺達ならきっと大丈夫だ」


 クロがそう言うと、ミヤさんは静かに頷き武器を構えカイラと対峙する。


 「総員、戦闘態勢に移行及びその武装を許可。

 目標、前方のプレイヤー群7名」


 カイラがそう呼びかけると、後ろに控えていた十数名の仲間が一斉に動き陣形を取る。

 こちらを包囲し、僅か数秒でこちらの逃げ場を奪って見せた。


 「これより対象の殲滅作戦を開始する」


 カイラの合図により、私達との戦いが始まった。



 戦いはこちらの優勢に傾きつつあった。

 こちらの体力は半分を切りつつあるが、既に敵の半数は敗退。

 状況が自分達の方に向かい勢い付いていた。


 「クロさん、後方からの攻撃に注意!

 ユウキさん、彼の援護をお願いします!」


 ミヤさんは前線でカイラと戦闘をこなしながらも私達への指示を継続していた。

 リーダーである彼の実力はかなりのもの、一撃も素早くそして威力も非常に高いであろう。

 ミヤさんはそれを全て弾くか躱すかでやり過ごしこちらへの指示に徹していた。


 「こちらの戦力を削ぐ事が狙いですか?」


 「あなた方と真っ向から挑むのですから、それくらいでもしないと私達では厳しいです。

 そして数に頼ったあなたの場合、指示が疎かになり陣形も徐々に崩れていますよ。

 あともう少しすればあなたとその部下二人までに追い込めます」


 「そうか」


 カイラは冷めた口調でそう答えながら、彼女のへの攻撃を継続していた。

 何かの違和感を私は感じていた。


 「メイちゃん、逃げて!!」


 突如、ドラゴから声を掛けられ咄嗟に視線を向けるとこちらへ攻撃を仕掛ける敵部隊の攻撃がすぐそこに迫っていた。

 その瞬間、意識がぷつりと途切れた。

 暗い闇の中に落ちていくように……



 一際大きなかん高い金属音が鳴り響いた。

 メイへと放たれた敵の攻撃は確実に彼女の体を捉えていただろう。

 しかし、その瞬間攻撃を仕掛けた敵側の体が白い光に染まり光と化して消え去った。


 唖然とその光景に視線が向かうが、メイの持つ武器で俺達は何が起こったのかを察した。

 彼女の手に握られていたのは不定形の光を放つ真紅の刃を持っている武器、サクラノカイナ。


 つまり今の彼女は、ヒナなのだとすぐに理解した。


 「嘘だろ、こんな状況でなんでアイツが来るんだよ!」


 俺と背中合わせで立つユウキは息を切らしながらも返答した。


 「少し不味いかもね。

 ただでさえ敵が強いのに、第3勢力が現れたんだからさ。

 彼女は一度、フィル君とシロさんに任せた方がいいかもしれない」


 ユウキはそう言うが、現在その二人は敵との戦闘に手一杯である。

 無論俺達も同じだ。

 二対三での戦いで均衡を保っているだけでも奇跡だろうとすら思える。

 訓練で培った実力がこうして発揮されるのは良い事だが突如現れた彼女に対して誰も手が出せない状況である。


 そんな彼女に向かって、リーダーの側近にいた女性プレイヤーが向かう。

 その手には双の短剣、彼女は恐らくフィルと同じ戦闘スタイルと思われた。

 彼女との戦いに意識が向けばこちらもまだどうにかなるかもしれない。


 「ユウキ、さっさとこっちを片付けよう」


 「了解、クロ。

 後ろは任せた」


 「ああ、お前の後ろは任せろ!」


 お互いに合図をし、敵の方へと攻撃を仕掛けた。



 「やったか……」


 「そうみたいだね」


 シロはそう言うと戦闘を続けているメイ達の方を見る。

 クロとユウキは残った敵二人との戦闘に苦しんでいる様子。

 そしてミヤさんは敵のリーダーであるカイラに苦戦している様子であった。

 攻撃の機会を伺いながら、双銃による中距離からの戦闘に専念していた。


 そしてドラゴとメイは敵の幹部との戦闘に追われている。

 ドラゴは例のローブ野郎、そしてメイに至っては恐らく現在の人格はヒナとして敵との戦闘を繰り広げている。


 「俺はユウキ達の手伝いに向かう。

 シロ、お前はドラゴの方へ向かってくれ。

 ヒナの意識があちらへ向かっている間に可能な限り敵を減らす」


 「分かった。

 クロさん達をお願いね、フィル」


 シロはそう告げ、ドラゴの方へと向かった。

 ヒナの行方は気になるが、今はユウキ達を優勢しよう


 すぐに俺はユウキ達と合流し、戦闘を手伝う。

 しかし既に敵は疲弊していたのか、いやそれにしては弱すぎる程にあっさりと俺達に倒される。

 しかし自分達も疲弊していたので、敵が弱っているに越した事は無かった。


 「これでこっちも済んだか……」


 「済まない、助かったフィル」


 「別にこれくらいは構わない。

 で、いつからヒナが出たんだよ?」


 「お前等がさっきの敵と交戦している辺りだ。

 詳しいところは、あまり覚えてない。

 だが、このままは流石にまずいだろ?

 これからどうするつもりだ」


 「ヒナは多分大丈夫、俺達が居るなら多少は意見を聞き入れてくれるはずだよ。

 確実ではないが……」


 俺とクロがそう言っている間にユウキは俺達の治療を終えていた。

 半分以上減っていた互いの体力は全快している。

 精神的な疲労は残るが、まだ数値上は戦えるので体を奮い立たせ武器を構える。


 「俺はミヤさんの手伝いへ向かう!

 お前等はドラゴの方の援護に向かえ。

 アイツ、相当強くて苦戦しているみたいだからな」


 「分かった、そっちは任せる」


 「任せておけ、少なくとも時間稼ぎくらいはしてやる」


 俺がそう答えると、クロとユウキはシロ達の方へと向かった。

 そして俺は、敵のリーダーと戦闘を繰り広げるミヤの元を急ぐ。




 剣戟が交錯する。

 視覚でぎりぎり捉えられる速度で、相手は攻撃を繰り出して来る。


 「中々やるじゃないか?

 こちらの部隊をほぼ全員倒すとは流石に思わなかったよ。

 君達の実力を少し見誤っていたようだ」


 「俺達を舐めるな!」


 俺とカイラの攻撃がぶつかり合うたびに、体の一部が僅かにぐらつく。 

 長期間に渡る戦闘で自分の体力の限界も近づいていたのだろう。


 「鈍くなっているようだな。

 流石のお前でも、何度も戦闘を耐えれる程の体力は持ち合わせていないようだ。

 単にステータスが高いだけで、精神的な面での体力はそう無いと言ったところか?」


 「俺はまだ戦える。

 あんた等から、ミヤを奪われる訳にはいかないんだよ!」 


 「随分と彼女へ肩入れするな?

 お前はただの新参者、ろくに彼女の素性も知らないでよくそんな口が開けるな」


 「あの人が何者だろうが、彼女は俺達の仲間だ。

 そして彼女が困ってるなら俺達は絶対に見捨てない!」


 言葉を振り絞り目の前の男への攻撃を加速させる。

 意地を張って、ただ突っ込んでいるだけだ。

 だが、それでもあいつ等がこっちへ向かう時間を稼げればいい。


 「他愛もない」


 「っ!」


 突如自分の攻撃がそこに何も無かったかのように空を切る。

 目の前には確かに奴がいた、しかし忽然と奴は……

 その瞬間、何かのきらめきが視界に入り込み俺の視線はきらめきの方向へ流れていった。


 「……幻影勿忘」


 僅かにぼやけた意識を振り切り咄嗟に横へ俺は飛退く。

 先程消えた奴の姿は視線の先に存在し、剣を振り下ろしている様がそこにあった。


 「ほう、初見でアレを躱したか。

 実にいい動きをするね」


 「っ……」


 今の一撃、俺はあれによく似たものを見たことがある。エルクがケイに教えた、幻影回避。

 あの技と先程奴の繰り出した技は恐らく同種の物だ。

 しかし、奴の技の方が俺達の知る技よりも優れている。


 いや、あの技の完成形の姿だろうとすら思えた。

 そう考えていると、カイラはこちらに話しかける。


 「君達の知っている技の名で言うなら幻影回避だろう?

 元々の技を生み出したのは私だ、それをエルクは我流で真似て君達に教えたんだろうな。

 黄昏の狩人、君達の実力はある程度彼女から聞いていたんだ。

 所持スキルや立ち回り、それ等から行われる君達の行動、更には言動や性格までもね」


 「俺達は随分と対策されていたんだな」


 「早々諦めて自身の敗北を認めろ。

 無駄な体力を消費するだけじゃないのか?」


 「それは出来ない話だな。

 後ろに控えるミヤが、あんた等に逆らう意思がある。

 その限りは俺達も全力で抗うからな」


 「そうか、実に残念だよ」


 攻撃が再び衝突する。

 重い一撃、両手を使ってどうにか凌げるかどうかの威力。

 一撃、一撃が確実に急所を狙ってくる。

 奴はケイと全く同じと言える程、酷似した戦闘スタイルを持っていた。

 あいつと長年武器を交わった経験があって防げているのだろう。


 目の前の人物は恐らく、エルクの師匠のような存在。

 俺達がまともにやって勝てる相手じゃない。

 まして、何百とえる攻略部隊を束ねる組織のリーダーなのだ。


 そんな奴が弱いはずなど決してありえない。


 「俺達は進まないといけないんだよ!!」


 無様に声をあげてもいい。

 抗え、目の前の敵に勝てなくとも


 「仲間が前に進もうとしている!」


 振るい続けろ

 その手に刃が振るえる腕がある限り


 「俺達が抗ったその先で絶対に見つけ出すんだ!!」


 光を放ちながら、幾度となく自分は攻撃を振るう。

 相手は平然とこちらの攻撃を防いでいく。

 それでも、俺は奴へ振るい続ける。


 勝たないといけない。


 その先にきっとアイツは居るのだから


 「白狼を!

 俺達の手で絶対に取り戻すと誓ったんだ!!」


 一際大きな金属音、そして衝撃エフェクトが響き渡る。

 カイラの攻撃を弾き、一瞬の隙が奴に生まれる。

 間髪入れずに攻撃を入れるが、すぐに奴は態勢をとり戻し俺の攻撃を剣で逸らした。


 金属同士の擦れ合う音、シャーと重く響くその音で自分の窮地を悟った。


 刹那、鈍い衝撃が自分の腹部に引き起こされる。

 体が僅かに浮いた感覚を最後に、自分のアバターが遠くへ転がり飛ばされた。


 態勢を戻そうとするが自由は効かない。

 視線だけでも奴を捉えようとするが、その時奴はこちらの追撃へ向かっていたのだ。

 手に持った細身の剣が鈍く光輝き、不定形の炎のエフェクトを放つ刃がこちらへ向かう。


 「これで終わりだ」


 奴がそう呟いた瞬間、ふとその光景に対して僅かに自分の頬が動いた。


 おかしくなったと、目の前の男はそう感じたはずだ。


 そして、奴が俺の表情の意味に気付くのに、そう時間は掛からなかった。


 「装填完了」


 遠くから僅かに囁かれたその声にカイラが気づいた時、既に手遅れだった。

 声の元。

 それは、カイラの後方10メートル程後ろの位置には両手で拳銃を構えた存在。

 こちらへの攻撃スキルの発動準備を終えたミヤの姿がそこにあったのだから。


 「あんたも道連れにしてやるよ」


 唖然とその様子を眺める事しか出来ない奴の姿。

 それを最後に俺の視界は彼女の攻撃による凄まじい光の衝撃に飲まれ、消え去った。

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