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第4話 相対、対立

 2097年4月12日


 日は既に落ち、現在は午後7時を迎えている。

 いつもならギルドで経営している店が最も混雑している時間だ

 しかし、現在はNPC店員に経営を任せ俺達ギルド2回のはリビングで集まっていた。


 「忙しいところわざわざ集まってくれて済まないね。

 突然の依頼に申し訳ない」


 クロはソファーに腰掛けると彼の目の前に相対するように情報屋であるエルクは頭を下げる。

 そして、彼女の隣に座る今回集まった要因であるもう一人の彼女も頭を下げた。

 彼女の制服は財閥ギルドの一つであるワルキューレの物。

 そして、彼女の右腕にある金色の腕輪はそのギルド内での幹部クラスを示すモノだからだ。

 俺達のような少数ギルドがイベントやメディアなどで見掛けることばあれど直接関わるような事は無い人物だろう。


 「改めて、紹介するよ。

 元ワルキューレの本隊指揮官を務めていたミヤ君だ。

 率直に言うと君達には私が不在の間、私の代わりに彼女の護衛を頼みたいんだよ」


 ワルキューレの本隊指揮官。

 そんな人物をわざわざこちらで護衛する必要があるのか?と、俺は疑問に思っていた。


 「エルクさん、一応こちらとしてはあなたの依頼を引き受けるつもりだ。

 相応の報酬が用意してくれている俺達も生活が苦しいから受けるべきだとは思っている。

 だが全員が集まるまで色々と考えていて一つ疑問に思った。

 何故俺達なんだ?その理由を聞きたい」


 「先程からこちらの様子を伺うそこの白狼、ケイ君だよ。

 彼なら彼女の護衛、いや監視任務をこなすなら私の後継者としては最も適任だろうからね。

 私個人の判断もある、でも実際は上からの命令だ。

 彼女の護衛を私は彼女の父親から依頼された。

 だが、その少し前に君に彼女を預けるようにと彼女の実の祖父から依頼されていたんだ。

 そんな彼等の細かい事情等は知らないがね」



 「ケイの存在、それがワルキューレと何の関係がある?

 ケイが現実世界にてワルキューレと一度でも関わりがあったのか?」


 「そこまでは私も知らない。

 まあ、それなら彼女とケイから直接聞く方が速いだろう?」


 「私が彼と直接会うのは今日が初めてです。

 噂程度で、以前から白狼という強いプレイヤーが存在していると聞いた事があるくらいですが。」


 「俺もこうして会うのは初対面だ。

 そして同じく名前とその存在は噂で聞いていた程度だ」


 俺の回答に対してクロはエルクに問い掛けた。


 「なるほど、白狼の名前はワルキューレの上まで伝わっていた訳か。

 つまりあんた達は、ワルキューレにケイを引き込む為の勧誘なのか?」


 「それは無いよ」


 クロの言葉をエルクはすぐに否定した。

 まあ、仮に勧誘だとしても断るつもりだが。


 「彼女は現在、とある理由によりギルドマスター直々にワルキューレを脱退されているんだ。

 ギルドマスターの命令あるまで彼女にはワルキューレとしてや権限は何も無いよ。

 せいぜい、以前までの肩書きが周囲にそこそこ機能するくらいかな?」


 「つまり、彼女本人にワルキューレとしての力は無いから、その力が戻るまでこちらが対応しろと?」


 「そういう事になるね。

 報酬は先に伝えた通り、日本円での500万相当だ。

 君達のギルドとしては破格の報酬だろう?」


 「少し質問いいかな、エルクさん?」


 「何かね、ユウキ君?」


 「あなたが迷宮調査にて死亡した場合、報酬やその後の対応はどうすればいいんです?」


 「そこら辺は上に事前に伝えている。

 しかし、そうだなぁ強いて言うなら私が万が一死亡したならその後も彼女を預かって貰いたいかな。

 向こうは彼女を取り戻そうと動くだろうがね。」


 「エルク、彼等にその事は……」


 「そうだね、この事は時が来れば彼女から直接伝えるだろう。まあ、ざっくり説明すると彼女の周りには幾つか不審な動きが多いんだ。大規模なギルドはそれ等の息が掛かり彼女の身にも危険が迫る恐れがあった。

 君達のような少数先鋭のギルドなら彼女の身も安心だろう」


 エルクの言葉に対して、ユウキが会話に割り込んだ。


 「少しいいかな?

 その言い分となるなら、僕達の負うリスクはその報酬では明らかに足りないのでは?

 僕達だって面倒な事に関わって身を危険に晒す訳にはいかない」


 「ユウキの言う通りだ。

 最近ようやく新しい生活にも慣れてきて、店の経営も右肩上がり。

 軌道にも乗ってきてようやく掴んだ今の状態だ。

 いきなり、部外者を預かり目先の利益で仲間を危険に晒す事は到底受け入れ難い」


 「そうか。

 まあもっともな意見だよ」


 「……ミヤさん、あんたはどうなんだ?

 あなたに、相応の覚悟があるのか?」


 「覚悟……」


 「エルクさん、俺達はこれからダンジョン攻略権を手に入れる為に来月開催のギルド大会に出場するつもりだ。

 俺達と関わる事は、あなた自身にも危険が多いだろう」


 クロの言葉にエルクは問う。


 「ギルドメンバーの身を守る為に、死に最も近いダンジョンを攻略しようとはどういうつもりだい?」


 「俺達だって死にたくありませんよ。

 でも、このまま生きていて誰かが攻略するのを待つよりは自分達で攻略を目指す方がいい。

 いつかはあなた達のような攻略者達が攻略してくれるかもしれない。

 ですが、確実な保証は何処にもない。

 だから俺達は決めたんです。

 一人は例外だろうが……」


 クロがそう言い俺へと視線を向ける。

 自然と周囲の視線が集まり、このギルドのダンジョン攻略に反対してるのが俺だという事を察したようだ。

 仕方なく俺は、自分の意思を彼等に伝える。


 あの場所を俺は既に知っている。

 あの内部の戦いに彼等を巻き込むのは恐ろしく危険だと思う。

 俺はそれを誰よりもわかってる、それは必ず伝えなければならないだろう。


 「俺はお前達の攻略に反対する。

 生半可な装備と覚悟で挑めば無駄死にするだけだろう」


 俺の言葉に、駄々をこねるようにクロは言い返す。


 「それでも、やってみなきゃ分からないだろ……」


 クロのそんな言葉に僅かに苛立ちを覚える。

 あのダンジョンで死んだ者達が揃って言っていた言葉だからだ。

 理不尽としか思えないあの内部を知らない。

 ダンジョンへと挑み精神を病んでしまい、自殺行為を侵した者すら存在する程なのだ。


 「今のお前達では無理だ。

 俺は過去の二層までのダンジョン攻略にも参加しているから分かるんだよ。

 そこで死んでいく奴等も実際に大勢見てきた。

 アレを相手にするのは命が幾つあっても足りない」


 しかし、クロはその言葉に反発する。


 「俺達だってかなり戦える!

 以前みたいに全く連携を取れない訳でもない!

 あの時よりスキルもステータスも僅かずつだが確実に伸び、戦力もついているのはお前も分かるだろう。

 そろそろ攻略に向かってもいい頃合いだ」


 「今のお前等では無理だ。

 道中の雑魚に殺されてもおかしくない。

 Cクラスですらお前達は多少苦戦するくらいだ」


 「ケイ、お前なぁ!!」


 クロが立ち上がり、俺の胸ぐらを掴み上げ体を壁に思い切り叩き付けた。

 前衛をやるだけあって筋力のステータスはかなりのものだろう。

 フィールド外、ましてゲームの世界に変わりはないので痛みはほとんど無いが大きな衝撃が身体に伝わった。

 クロは俺を離さずに鬼のような形相でこちらをにらみつける。


 「俺達がそんなに弱いか!!

 俺達がそんなに信用出来ないか!!

 答えろよ!!ケイ!!」


 怒鳴り散らすクロの言葉に俺は僅かに苛つく。

 彼に釣られるように気付けば自分も感情に任せて、彼に対して言い返した。


 「今の生活に至るまで最前線での戦いから背けていた奴が今更どうやって最前線で戦えると?

 ふざけるのも大概にしろ」  


 「なんだと!!」


 「いいか、第1階層で4万だ。

 第2階層で約8万だ。

 言っておくが、これは全てボス戦でのみの累計死亡者だ。

 実際の攻略ではもっと多くの死者が生まれている!

 あの場所で、俺が何人のプレイヤーの死を開幕見たと思っているんだよ!

 お前達のような雑魚が余計な事をするから無駄な犠牲を生むんだよ!」


 クロが俺に殴り掛かるのをドラゴが割って入り必死に静止を呼び掛けた。


 「ちょっとクロ落ち着いて!!

 ユウキも、このバカ抑えるの手伝ってよ!!」


 ユウキも静止に割って入り、事態を仲裁する。


 「ケイ……。

 お前が何を考えてるかは知らないが、俺達はあのダンジョンを攻略する!!

 こんなふざけた世界を終わらせる為にだ!!

 全員で生きて!生き延びて!元の世界に帰る為に!!」


 「クロ、ちょっと落ち着きなって……。

 それに、ケイもそんなに挑発するのはさ……ね?」


 クロの言葉にユウキが彼をなだめる。

 近くのドラゴはクロを抑えており、メイはソレに戸惑っている。

 自分が気が気でないのはわかってる。

 冷静さを見失ってるのはクロも俺自身もだろう。


 俺は最後の手段に出る事を決めた。

 彼等に分からせる為に、彼等を止める為に。


 「4対1で相手をしてやる。

 クロ、ドラゴ、ユウキ、メイ。

 お前達があのダンジョンを攻略しようとするのなら、俺に実力を証明してみろ」


 俺がそんな事を提案する。

 クロも俺と同じく気が立っているのかすぐに応じる。


 「ああ、やってやるよ!

 ドラゴ、ユウキ、メイ出るぞ」



 クロに先導されて、私達は広い平野に立っていた。

 見渡す限り木々の一切無い草原が目の前の視界に広がっていた。

 しかし既に日は暮れ、辺りは僅かに不気味な雰囲気すら感じられた。

 私が戦いに臨む準備をしていると後ろから話し声が聞こえてくる。


 「元気な子たちだなぁ。

 そう思うだろうミヤ?」


 「ええ」


 「でも丁度良かったじゃないか?

 白狼の実力をこの目で見れるんだからさ。

 私が彼を信頼している理由が分かるだろうよ」


 「そうですね、私も彼の実力が気になっていますから」


 会話の方へ近づき、私はミヤさんとエルクさんに話し掛ける。


 「あの、えっとすみません。

 私達の喧嘩に巻き込んでしまって……」


 「別に構わないよ。

 まあ、多少の揉め合いくらいはいつもの事だろう?

 まあ愉快なお仲間を持つと本当に苦労するね」


 「はい……」


 「君もダンジョン攻略に挑みたいのかい?」


 「私はみんなに置いてかれないようにしたいだけです。

 だから攻略するもしないも、彼等に置いていかれないように私はそうしたいだけですから

 今の居場所をもう失いたくありませんから……」


 「それが君の選択か……」


 「はい……私、そろそろ時間なので行きますね。

 その、失礼しました」


 「あの、メイさんでしたよね?」


 去ろうとする私を、ミヤさんが引き止める。

 何かしてしまったのか、私は少し緊張する。


 「はい……。

 どうかしましたか?」


 「あなたは、どちらの味方なのかなって?

 白狼なのか、それともクロ達の側なのか……。

 どっちが貴方の本心なの?」


 その言葉に私は少し悩んだが、答えはすぐに見つかる。

 私がここに居る理由なのだから。


 「私は少なくとも、ケイの味方でありたいです。

 それが私がここに居たい一番の理由ですから。

 でも、彼がもし道を踏み間違えたのなら私が全力で彼を止めます」


 私は彼女にそれだけを伝えて、私を待ち構える彼等の元へ向かう。

 向かうとそこには、既に準備を終えた彼等の姿。

 そして、私達と相対する彼。


 「ようやく揃ったようだな」


 僅かな夜の光に照らされる灰色のロングコートを纏った茶髪の剣士。

 右手は腰の鞘に添えられ、いつでも迎え打てるという様子だった。


 「ケイ……。

 本気で俺達4人相手に勝てると思っているのか?」


 クロの問いかけに対して、ケイは剣を引き抜いてこちらへ話し掛ける。


 「アイテムの使用及び、その他スキルも全て許可する。 持てる力の全てを使って、俺を殺すつもりで来い」


 「クロ、ケイは本気だよ」


 ケイの様子を察したのか、ユウキはクロへそう説いた。

 彼の本気は長い付き合いのある私にもすぐに分かる。

 数メートル離れたここにすら、彼の殺気のようなものが感じられる程なのだ。

 彼の戦意は紛れもない本物だと。


 「全員、戦闘準備」


 クロの合図に合わせて、私達は武器を構える。


 そして、目の前にカウントダウンの数字が出現する。

 pvp、プレイヤー同士で決闘の合図を告げる表記だ。

 カウントダウンは10から始まり5を切り、ゆっくりと時間が流れていく

 辺りの緊張感が高まっていた。


 カウントが0になり、開始を告げるブザーが鳴り響く。

 開始と同時に散開し、ケイを囲むように移動を開始。

 私は後方から、ケイの出方を伺う。


 「っ!!」


 「………」


 先に攻めに応じたのはドラゴだった。

 身の丈程の大剣を振るい、ケイへの先制攻撃を仕掛ける。

 剣の持つ細身の剣とは明らかに間合いが違う。

 その後ケイは一度、防戦を強いられる。

 しかし、彼は余裕なのか武器もろくに構えず体を反らしながら回避している。

 防戦一方の中、ケイの死角から放たれたユウキの蹴り技。

 攻撃の寸前でケイは即座にしゃがみ込みで咄嗟に回避をしてみせると、すぐさま横に転がり込み場から離れ間合いを取り直した。


 「流石。

 やっぱりこの程度じゃキツイか」


 「もうユウキ!邪魔しないでよ!」


 「ごめん、ごめん。

 それにケイは余裕みたいだよ。

 さっきからドラゴは手を抜かれてたみたいだし」


 「分かってるよ……。

 とにかく、邪魔しないでよ。

 これから少し本気出すから」


 そう言うと、ドラゴの持っていた大剣が2つの剣に分かれる。

 姿を変えたその剣を構え、ドラゴはケイを対峙した。


 「ケイ、私は本気だからね。

 あのダンジョンを攻略する。

 私はみんなで元の世界に帰りたいから!」


 「二刀流か」


 ドラゴは右手に持った片手剣の剣先をケイへと向ける。そして、ドラゴは何らかのスキルを使用したのか足元に青白い光のエフェクトが発生。


 「私達はみんなで帰りたい。

 あなたも大切な仲間だから……。

 だから、だからこの勝負には絶対に負けられないだよ!」


 刹那、ドラゴの姿が視界から消える。

 その後、武器同士が衝突した事を告げる固有の効果音が鳴り響いた。


 音の方を確認すると、二人の武器が交錯していた。

 10メートルはあろう間合いを、ドラゴは何らかのスキルで一気に詰めたのだ。

 しかし、あんな速い技は私の知る限り初めて見掛ける。


 「っ!」


 ケイも僅かに不意を付かれたのか、その攻撃に僅かに怯まされる。

 しかし、あの一度のみであった。

 その後もドラゴの攻撃が繰り出されるが、ケイは瞬時に攻撃を予測した上で反応し的確にさばいていく。


 私の知る彼女の戦い方は、大剣から繰り出される重々しい必殺の一撃。

 大剣の大きさも活かした攻防一体のソレである。


 しかし、今の彼女は違う。

 先程の攻撃から見て取れる、圧倒的な攻撃速度。 

 そして、両手に構えた剣から放たれる攻撃は圧倒的な攻撃の極地だった……。


 しかしケイは、彼女の怒涛の連続攻撃すら容易く防いでいたのだ。防戦一方に思えるが、彼の目は彼女の攻撃を完全に見切っているのである。


 先程とは違う音が響き渡る、何かが宙を舞っていた。

 夜空に照らされる剣の影……。

 ドラゴの剣が、彼女の手から離れていたのだ……。


 「嘘……。

 これも通じないなんて」


 目の前の出来事に理解が追いつかないのか、動きが鈍る。その隙を付かれ、ケイの剣がドラゴを貫いた。


 「その程度の攻撃は、何度も見てきた。

 不意打ちだけは評価するよ、ドラゴ」


 ドラゴの体が数メートルは軽く吹き飛ばされ、ドラゴは衝撃で倒れ込む。

 刹那、ケイに向かって攻撃が放たれる。

 巨大な盾を構え、彼に突進を仕掛けたのはクロだった。


 「ユウキ!ドラゴの回復を頼む!

 メイはタイミングを図り、後方支援!」


 彼の命令を受けて、私は照準を向ける。

 クロがケイへの攻撃を繰り出すが、やはり盾役故に攻撃はそこまで長けていない。

 ケイはそれを把握しているのか、クロから放たれる長槍を回避し盾へ一撃一撃と確実に攻撃の手を加えていく。

 クロの一撃に対して、ケイは2回、3回は余裕なのか凄まじい速度で攻撃を繰り出していた。

 しかし、クロはその程度の攻撃を防ぐ事は容易いのか余裕を見せケイを挑発する。


 「その程度の攻撃か、ケイ!」


 「……過度な自信は死を招き兼ねない。

 防げるのなら防ぎ切ってみろよ」


 クロの迫り来る攻撃を躱し、再び一撃を加えるケイ。

 しかし、剣が盾に触れた瞬間凄まじい光のエフェクトが発生し辺りが眩む。


 「っ!!」


 ケイの姿が光に紛れ消え去ったその刹那、既に陰がクロの背後に回り込んでいた。


 「後ろだ」


 ケイの声に反応し、寸前でクロは盾を構える。

 再び攻撃が衝突すると、光のエフェクトの正体が明らかになった。

 盾がケイの攻撃の余波で、僅かに光のような物を帯びている。とある属性のみで発生する固有の現象にクロは気付いた。


 「電気属性。

 お前、いつの間にそんなスキルを」


 彼は何も答えない、すぐさま攻撃を仕掛けて来た。

 速度は先程の攻撃とは比にならないならない。先程のドラゴの攻撃が霞む程の速さだ。

 これでもまだ余力を残しているのならこちらの勝ち目はかなり薄いだろう。


 「速いだけで俺に勝てると思いあがるな!」


 クロの言葉を無視し更に攻撃の手を加える。

 暗い夜の空間に光のエフェクトが垣間見えた。

 ケイの体を閃光が貫くと、体が吹き飛ばされていく。

 大したダメージはないのかすぐに態勢を整え直すと、クロ達をケイは再び見据える。

 突如2人の間に割り込んだ第三者。

 その攻撃の主はこの機会を伺い続けていたユウキであった。


 「ユウキ」


 「今度は命中したようだね、ケイ」


 攻撃に割って入ったユウキは膝を付いていたクロへと手を伸ば立ち上がらせる。


 「助かった。

 悪いな、手間を掛けてしまって」


 「別にこれくらい構わないよ。

 それにクロは盾役だ、

 盾役が敵に真っ向から攻撃を仕掛けてどうするつもりだい?

 少しは落ち着ついて、こちらとの連携を取ろう。

 僕達それぞれの一人の力ではケイは倒せないのは、クロが十分に分かっているはずだ」


 「そうだな…ユウキ。

 ドラゴはもう動けるか?」


 後ろで控えているドラゴはクロ達に手を振り元気の合図を伝える。


 「問題ないよーー!

 さっきユウキに治して貰ったからね。

 それにケイ?

 そっちも技を隠しているなんてずるいよ?」


 「別に隠していた訳ではない、使う状況がこれまで無かっただけだ。

 まあ、使えるようになったのはダンジョンの攻略中だったが」


 ケイのそんな言葉を聞き、ユウキはケイに問いかける。


 「ケイ、帯電スキルなんて物を入れる枠が残っていたのかい?」


 「いや、帯電スキル自体は持っていない。

 知り合いの使っていたものを、俺も少し使えるだけだ」


 「模倣のスキルならこのメンバーの誰かが帯電スキルを所持していなければならない。

 でも、誰も持っていないはず。

 単に自己申告をしていない可能性もある。

 でも、少なくともケイには模倣スキルは無いだろうから何か別のスキルでも隠し持ってるのかな?」 


 「そうだと仮設して、お前達がこの戦いに勝てなければどんなスキルか分かったところで意味は無いだろう?

 俺がどんな力で、どんなスキルを使おうと俺に勝てなければダンジョンで生き延びるのは、まず不可能だ」


 「案外やってみないと分からないかもよ。

 今の僕達の個の実力はケイみたいに強くないのは事実だけどさ。

 でも、僕達全員の実力なら君の力にも必ず届きうるだろうと思う。

 ケイ、君が何を考えて何を隠しているのかは知らないけど僕達は僕達の意思で戦うよ。

 それが例え、君の目的の障害になろうとね」


 「……」


 ユウキの言葉にケイは何も返さない

 先程の彼が告げた言葉に違和感を感じる

 彼は私達に何かを隠しているのか?

 ユウキはそれが何なのかを、ある程度は察していたのか?


 「反撃開始だねクロ、ユウキ、メイちゃん。

 メイちゃんはずっと攻撃に割り込むタイミングを図ってるみたいだからね」


 「常に狙われている、それくらい察しがついているよ。

 だが、実力不足だ。

 その上、覚悟も無いのか未だに一度も引き金を引いていない。

 狙撃手が好機を逃し引き金を引けないなら戦う意思が無いのと何ら変わらないだろう」


 「どうかな?

 メイちゃんは私達の予想よりもずっと強いからね。

 確実な瞬間を今も狙っているかもよ?」


 ドラゴはそう言うと武器を構える。

 彼女に合わせてユウキとクロも武器を構えていく。

 私も彼等に期待されているのなら、それに応えたい。


 「そうか。

 全員まとめて相手になる、来い」


 彼の言葉を合図に、クロが突進を仕掛ける。

 しかし、ケイの速度に比べれば遅いのは明白だ。

 クロの攻撃を容易く回避し、一撃を加えていく。


 「っ!!」


 攻撃の瞬間、クロは僅かに微笑む。

 攻撃時に生じる僅かな彼の隙に、彼へ背後からの攻撃が向かった。

 だが、既に読まれていたのか背後から放たれる攻撃を寸前で回避した。

 攻撃の主はユウキ。

 しかし、攻撃を回避仕切れていないのか命中判定を告げるエフェクトが僅かに発生。

 遠くからでケイの体力ゲージが僅かに減少を確認、彼の表情に僅かな焦りが伺える。


 すぐさま追撃、2本の剣を構えたドラゴの素早い連撃がケイへと向かっていた。

 だが追撃は想定済み、持っていた武器で攻撃を寸前で防いでしまう。

 しかし、攻撃の勢いまでは殺し切れず飛ばされ、彼は地面へと叩き付けられる。


 地面との衝突により、更にケイの体力が減少する。

 全体の2割程が既に削られており、ゆっくりと立ち上がると、再びこちらの出方を伺っていた。


 「もう2割か、力技では押し負けるのは分かっていたが」


 「攻撃系に全振りの私がバランス重視のケイに力で負ける訳ないからね」


 「全振りって、おい」


 「ドラゴ、それは流石に」


 「何よ、クロやユウキまで……。

 とにかく、さっさと押し切らないと!

 メイちゃんも攻撃支援頼むよ!」


 ドラゴに呼び掛けられ、私は武器を構える。

 撃つなら、今?

 この機会を逃せば、次の機会はいつ来る?

 しかし、彼からの威圧感のような物が私にまとわりつく。

 居場所は既にバレているのだろう、ポイントを変えて別の場所から狙撃する方がいい。


 一撃でもいい。


 私の弾丸が彼に一度でも当たれば私達の勝ちなのだ。


 「まあいい、全振りだろうが、そうでなかろうが構わない」


 「お前、まだ隠してる技があるとでもいうのか?」


 「ダンジョン攻略以外で使うのは初めてだが、こちらも少し本気で行かせて貰う。

 どうやら、俺にお前等とお遊びする程の余裕は無いらしい」


 「よく言うよ。

 だが、俺達だってお前に負ける訳にはいかない。

 この勝負、俺達が勝たせてもらう」


 ユウキがケイに向かって攻撃を仕掛ける。

 両手に構え持っているのは、短剣。

 そして、同じくドラゴも攻撃を仕掛ける。

 ケイへ攻撃の隙を与えぬ程の、高練度の連続攻撃。

 ドラゴの攻撃速度は圧倒的だが、そこを縫うようにユウキも攻撃の手を加える。 

 それに対してケイは攻撃を的確に防ぐ、ユウキとドラゴの動きを捉えている。

 まるで、何かを待っているように


 「……」


 突然、二人の目の前からケイの姿が消えた。

 すぐさま辺りを二人は確認すると10メートル程の距離だろうか。

 彼は離れたところで立ち尽くし夜空を見上げる姿がそこにあった。

 武器も構えず、ただ上を見上げる彼の姿。


 「隙だらけだよ!」


 一瞬で間を詰め、彼の背後へと斬りかかるユウキ。

 しかし、その刹那。


 一瞬の閃光が両者を貫いた。


 武器の衝突を示す光ではない事はすぐに分かった。

 ユウキの技?

 それともケイ?

 両者が交錯し動きが静止する。

 ケイの居場所は変わらない、武器を振るい攻撃の動作を終えたユウキ。

 二人の影が私の視界に映る、流れていく時間がゆっくりに感じた……。


 何か、不穏な予感が漂う…… 


 そして、予感は的中しその瞬間は訪れてしまった。


 「一体、何を……」


 そうユウキがつぶやき掛けた瞬間、そのアバターが白く染まり光と化して消え去った……。


 「ユウキ!!」


 クロの叫びが辺りに響く、ケイは変わらず武器を構えずに立ち尽くしているのみ。

 何が起こったのか、目の前で引き起こされた出来事に理解が追いつかない。

 あの一瞬で、ユウキが倒された……。

 カウンター系の技?

 いや、ならば武器を構えてなくてはいけない。

 格闘系の類い?

 でもケイは近接攻撃寄りだとしても剣もしくは中距離用に銃を多少扱う程度。

 この戦いではまだ銃を使用してないが、それでも先程ユウキを倒した何かは格闘でも銃でもない……。

 あの閃光……。

 まさか彼はあの一瞬で剣を構え攻撃を仕掛けたの?

 抜刀スキルと同等、いや武器も構えずに抜刀スキルを扱えるなんて彼女以外にあり得ない。

 一体、何をどうやって?

 誰かのスキル……。

 まさか彼女のスキルを使っているの?

 でも明らかに、オリジナルとは何かが違っている。 


 「一体、何をしたの……ケイ?」


 ドラゴの問いかけに、ケイは一言で答える。


 「俺は攻撃をユウキに通しただけだ」


 「通したって……。

 たかが一撃でプレイヤーを落とせる訳が……」


 「会心判定、クリティカルしたなら倒せる可能性はあるだろう?

 俺の武器はダイランに生息する希少個体SSクラスの昆虫型モンスターを討伐時に直接ドロップしたノーイスと呼ばれる細身の剣だ。

 攻撃力は同ランクと比べると8割程の攻撃力しかないがクリティカル判定時に通常2倍判定のところを4倍程にしてくれる代物。

 そもそもクリティカル発生の確率はかなり低い。

 更に意図的に行うにも至難の技だがな」


 「SSクラスって……。

 攻略推奨が30人以上の上位モンスター群でしょう…。

 基本ソロのケイが倒せるはずが……」


 「3年前、前のギルドにいた頃で四人掛かりで倒した時に手に入れた物だからな。

 メイから聞いていなかったのか?」


 3年前の昆虫型……。

 私達がかつて最も苦戦した戦いの一つ……。

 その時確かに、ドロップした武器をケイは以降メイン武器として使っていたのは覚えている。

 まさか今も愛用してるとは思わなかったが、じゃあなんであの時?


 「でも、クリティカルが起きないと通常より威力が低いんでしょう。

 あの一瞬で確実にクリティカルを起こすなんてのは無理なんじゃ?」


 そう、幾らクリティカル時に威力が上がるとしても起きなければ意味がないのだ……。

 私の使っている技巧補正スキルを使用すれば確率は理論上はほぼ100%になる。

 でもケイはそのスキルを持っていない、仮にスキルを使用したとしても固有のエフェクトがアバターから発光してしまうのだ。

 遠目からでも発生しているのが分かる程の強い光だ。

 今日のような夜戦で使えばすぐに分かるだろう。


 「8割。

 今の俺の技能的には8割程の確率でクリティカルを引き起こせる。

 最盛期は9割程度だったが、腕が落ちているのかもな」


 「あり得ない、そんな荒技を成し遂げるなんて」


 「話はもう充分だろう?

 この戦い、さっさと終わらせてもらおう」


 瞬間、ドラゴのアバターを一筋の光が貫いた。


 「え……?」


 ドラゴは攻撃を受けた事を咄嗟に理解出来ない。

 その後ようやく違和感に気付いたのか、自分の体から放たれる赤いダメージエフェクトに気付き、何が起こったかを悟った。


 彼の攻撃は速すぎる……。

 こちらからは到底理解しがたいモノ。

 明らからに別次元の力そのものだ。

 彼の攻撃動作が私の視界ではとてもじゃないが捉える事が出来ない。


 「やっぱり強いな、ケイは」


 ドラゴがケイの方を振り返り笑顔でそう告げる。

 そして、光に染まった彼女のアバターは私達の目の前から消え去った。

 彼女の笑顔からは、負けた後悔を感じられなかった。


 クロの方を見据えるケイ。

 獲物を捉えた肉食動物の如く、その目からは一種の戦慄すら覚えた。


 狩られる……。


 その言葉が脳裏に過ぎった。


 「来いよ、クロ。

 決着を着けよう」

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