ソフィアちゃんの服を貸してもらい、結婚式の準備を始めた。
暴風雨で吹き飛ばされていた屋台の土台やテーブルを掻き集めて、なんとか使えそうなものを森に運び込む。
「本当にアステリの木があったのか」
「雷の後に流星が降ってたが、あれのお陰で熟したんだな」
「こりゃ盛大な結婚式になるぞ!」
熟したアステリを見た村の人達に活気が出る。
この村のシンボル、アステリはみんなの心も輝かせてくれる力があるみたいだ。
ソフィアちゃんや村の子達が飾りつけを引き受けてくれたから、私は一旦家に戻ろう。
――と、パタパタと羽の音が聞こえる。
ピッチたちが3羽横に並んで、何か棒のような物を運んで飛んできた。
って、あれ私の杖だ!
両手を出すと、ピッチたちが私の手の上にぽとりと杖を落とした。吹き飛ばされたときになくしちゃったの、探してきてくれたんだ。
急いで魔法の呪文を唱える。
「ありがとう、みんな。杖を探してきてくれたんだね」
『そうよ。アリシアったら、忘れていたでしょう』
『大事な杖なのに、ダメじゃない』
『ドジね! ドジね!』
「ごめんごめん、助かったよ。これがないと、みんなとお喋りできないもんね」
『それより、結婚式の準備はできたの?』
『私たちが結婚式の歌を歌ってあげる』
『歌ってあげる! 歌ってあげる!』
「本当!? お父さんたちも村の人たちも、絶対喜んでくれるよ!」
小鳥たちから杖を受け取って、大事に服の中にしまって森を出た。
家の近くまで行ったところで、誰かが歩いてくるのが見える。真っ白なエプロンを付けた仕立て屋のお姉さんだ。
「お姉さん!」
「あら、アリシアちゃん。今ちょうどお洋服を届けに行ったところよ。気に入って頂けて嬉しいわ」
お父さんたちのスーツ! 見たい!
結婚式のお楽しみにしておきたい気持ちもあるけど……ソフィアちゃんには悪いけど、抜けがけさせてもらっちゃおうかな。
お姉さんと別れて家の傍まで来ると、ヒヒーンとライラック号の鳴く声が聞こえた。
ライラック号も避難してたはずだけど、お父さんたちが連れて戻っていたらしい。
家の裏手にまわって厩舎に行くと、ライラック号が前足を飛び上がらせた。
杖を取り出して、ライラック号に向ける。
「汝の声を聞かせ――」
『お嬢! 旦那とサディアスの兄さんの結婚式、できることになったんですかい!?』
呪文が終わる前に喋り出した気がするけど、気のせいだろうか。
「本当だよ。お父さんたちに聞いたの?」
『そうでさあ。フルグトゥルス騒ぎでどうなることかと思いやしたが、星降る夜に結婚式なんて、最高の日になりやしたね』
「森でやることになったから、ライラック号もお祝いに来てね」
『森ってーと、あのアステリの場所ですかい?』
「アステリの木のこと、知ってたの?」
『森の動物たちの噂を小耳に挟みやしてね』
ライラック号が自慢げに言って、それから大きく頭を仰け反らせ天高く鳴いた。
『くうぅ〜! 旦那たちの結婚式を見届けられるなんて、このライラック号この上ない喜びでさあ!!』
ライラック号の黒い艶やかな瞳が濡れている。
『任せてくだせえ、お嬢! このライラック号の馬車で、おふたりを式場までご案内いたしやす!』
あのシンデレラみたいな馬車なら、ウェディングロードにピッタリだ。
普段のときはちょっと恥ずかしいけど、新郎2人を乗せて飛んで行くなんてお伽噺みたい。
ライラック号に待っててもらい、いよいよお父さんとサディさんのスーツ姿を見に行く。
リビングから階段を駆け上がって、お父さんたちの部屋へ直行。
「お父さん! サディさん! ウェディングスーツ見せ……て……」
ノックもせずにドアを開けてしまうと、ベッドの上で上半身裸のお父さんと、同じく半裸のサディさんが重なるようにして寝ていた。
これは……事後!?
ではなさそうな雰囲気。寝息を立ててる2人は、着替える最中に力尽きて寝てしまったようだ。
朝からずっと動きっぱなしだったもんね。その上、そのまま結婚式をさせるなんてちょっとハードスケジュール過ぎた。
もう少しだけこのまま、寝かせておいてあげよう。
2人の穏やかな寝息を聴きながら、そっとドアを閉めた。