ハドリーさんとナーガさんを待って戦えればよかったけど、そう都合良くフルグトゥルスは待ってくれない。
遠くを旋回していたフルグトゥルスが方向転換をした。向かった先にあるのは、プレンドーレ村。
急いでお父さんは剣を構え、サディさんは魔導の剣を引き抜いた。
サディさんが魔導の剣の波動でフルグトゥルスに攻撃を当てると、フルグトゥルスがこちらをじろりと睨む。ゾワゾワする気配を漂わせながら地上に降りてきたフルグトゥルスを相手に、再び戦闘が始まった。
正面からお父さんが戦い、サディさんが後方から援護する。接近戦と遠距離攻撃、フルグトゥルスの逃げ場をなくして着実にダメージを与えていく。
アイコンタクトすらしなくても、2人はお互いの動きがすべてわかってるみたいだ。特にサディさんは、細かいお父さんの動きに合わせて的確にフォローをしてる。
それでも相手は怪鳥だ。親切にずっと地上に降りていてくれるわけじゃない。サディさんの波動が届かないほど高く飛ばれてしまえば、太刀打ちができなくなる。
お父さんたちの真上に飛んだフルグトゥルスが、また大きなくちばしを開いた。
「アル!」
お父さんが飛び退いた瞬間、地上に炎が吐かれた。燃えるような草木はもうないはずなのに、あっという間に炎が燃え上がっていく。いつの間にかすっかり雨はやんでいて、炎は広がるばかりだ。
「マズイ、火事にな――」
お父さんの姿が突然降ってきた水に遮られた。炎が燃えているところにだけ、局地的にバケツどころかプールをひっくり返したような水が滝のように降ってる。
上を見ると、何もない空間からドバドバと水が出ていた。こっちまで水しぶきが飛んでくる。
フルグトゥルスは水から逃げるように飛び去った。
「一気に鎮火完了だ。相変わらずナーガの魔法はすげえな」
「もう帰っていい?」
私が隠れる岩の向こう側に、ハドリーさんと面倒くさそうなナーガさんが立ってた。
滝が消え、ずぶ濡れになったサディさんが声を上げる。
「ハドリーさん! ナーガ! 来てくれたんだね」
「サディアスがもっと魔法を使えたら来なくて済んだんだけど」
「素直じゃねえなあ。珍しく俺が引っ張ってこなくても自分から来やがったくせに」
「僕の家まで壊されたら困るだけ」
「にしても、やり過ぎだ」
水浸しのお父さんが頭を振って、水滴を飛ばした。
「いきなり滝の中に突っ込まれたかと思った。窒息するところだったぞ」
「常識的に考えて、あんな炎を消火するにはあれくらいの水必要。少し考えればわかるはずだ」
「まあまあ、アルはバカだから許してやってよ」
「バ……ッ!?」
「お前さんら、お喋りはその辺にしとこうぜ」
ハドリーさんが上空を指さす。
フルグトゥルスが空を引き裂くように鳴いて、再びこっちに飛んできていた。
お父さんは再び剣を引き抜き、サディさんが魔導の剣に魔力を流し始める。ハドリーさんは両脇に差した鞘から細長い剣を引き抜いた。
「久々に先輩の二刀流が見られますね」
「俺には期待すんなよ。お前らと違って、引退してから動いてねえんだから」
「ナーガは防御と回復を頼んだよ」
「白魔法は専門じゃないんだけど」
チラリ、とナーガさんの視線がこっちに飛んできた。
「さっさと回復魔法を覚えさせておけば良かった」
次の私の修行が決まったようだ。
戦闘準備を整えたお父さんたちが、フルグトゥルスを見上げる。
「全力で行くぞ! 村の平和は俺たちに懸かってる!」
「おっ、久々のバトルだから張り切ってんな?」
「アル、そういうノリ好きだもんね」
「そういうのいいから早く始めて。さっさと帰りたい」
「お前ら……」
長い息を吐いてから、お父さんが顔を上げた。
「行くぞ!」
4人の勇者がオーラを放った。