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episode_0093

【タイトル】

第93話 指輪


【公開状態】

公開済


【作成日時】

2022-09-17 18:22:06(+09:00)


【公開日時】

2022-09-17 20:58:00(+09:00)


【更新日時】

2022-09-17 20:58:00(+09:00)


【文字数】

1,406文字


本文77行


 家に戻ると、ちょうどサディさんとお父さんがいた。

 急いでフルグトゥルスの話をすると、2人が顔色を変えた。


「フルグトゥルスだと!? 本当にそうライラック号が言ったのか?」

「言ったのは森の小鳥さんたちだけど、ライラック号も気配を感じるって」

「僕も話には聞いたことあるけど、まさか……」


 どうやら本当に大変な事態らしい。

 お父さんが外出用の上着を掴む。


「俺は村長さんに話をしてくる。サディ、どうにかフルグトゥルスが現れる日を予測できないか」

「僕の魔法じゃ限界があるけど、ナーガなら予測できるかもしれない」


 いよいよお祭りどころではなくなってしまった。

 2人は大慌てで村の人たちと連絡を取り、フルグトゥルスの襲来に備える。

 ナーガさんもこの非常事態に、すぐ動いてくれたらしい。まだ詳しくはわからないけど、高確率でお祭りの日前後に来るだろうということだった。


 その夜は、なんだか眠れなかった。

 前の世界の台風だって、大きな被害が出ることがある。怪我をしたり、死んでしまう人だって。

 もしそうなったら……


 考えれば考えるほど目が冴えていく。

 ちょっとした風で窓が揺れるだけでも身体が震える。


「……水でも飲んでこよう」


 眠るのは諦めて、気分転換に部屋の外に出る。

 キッチンに行こうとしたら、階段の下の小さな灯りがついてた。まだお父さんかサディさんが起きてるのかな?


 そっとリビングを覗くと、窓際の月明かりの下にお父さんがいた。

 部屋の飾り棚の隅に置いてある、お母さんのオルゴール......の後ろから、小さな箱を取り出した。蓋を開けて、中に入った何かを見ている。

 暗くて中身は見えないけど、あのケースの形とベルベットっぽい青い生地……リングケース!?


 思わず手すりに肘をぶつけると、ガタッと結構な音を出してしまった。

 お父さんが急いでリングケースを閉じ、背中に隠した。でも私だと気づいて表情が緩む。


「なんだ、アリシアか。どうした? 眠れないのか?」

「う、うん。お水飲もうかなーと思って。……お父さん、それなあに?」

「これは、な」


 お父さんが私の前に跪いて、声を落とした。


「サディには内緒にできるか?」

「ゆびわッ……んんっ!?」


 すごい勢いでお父さんに口を塞がれる。


「しー! サディに聞こえるだろう」

「ご、ごめんなさい……。でもそれ、指輪なんだね」

「ああ、どうして知ってるんだ?」


 そうだった! あれは盗み聞きしたんだ!


「えーと、村にも指輪を作ってくれる人がいるって前に聞いたから、そうかなーって思ったの」

「アリシアは勘が鋭いな。リリアに似たのか?」


 まいったな、とお父さんが苦笑した。


「ちょうど収穫祭の日が、お父さんとサディが旅立った日なんだよ。毎年2人で祝ってはいるんだが、プレゼントなんてしたことなかったからな。せっかく家族になれたんだし、記念になるものを用意したんだ」


 そう言って、お父さんはまたリングケースをオルゴールの後ろに隠した。

 このオルゴール、サディさんは遠慮してか触ろうとしない。ここに隠しておけば見つかることはないんだろう。


「じゃあ、お祭りの日に渡すんだね!」

「そのつもりだったんだが、それどころじゃないかもしれないからな」


 月明かりに、お父さんの横顔が切なく陰る。


「水が飲みたいんだったな。お父さんも一杯もらおう」


 私の頭を撫でて、お父さんがキッチンに向かった。


 やっぱりお祭りを、お父さんたちの記念日を平和に迎えさせてあげたい。

 神様仏様……お母さん、お願いします。




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