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episode_0092

【タイトル】

第92話 フルグトゥルス


【公開状態】

公開済


【作成日時】

2022-09-10 16:44:28(+09:00)


【公開日時】

2022-09-10 20:00:07(+09:00)


【更新日時】

2022-09-10 20:00:07(+09:00)


【文字数】

1,880文字


本文101行


 夕食の後、お父さんたちに流星の話をした。

 サディさんがお皿を片付けながら不安げな顔を浮かべる。


「僕らも村の人たちから聞いたよ。全然雨や雷がないのが原因みたいだね」

「こっちに来てから全然降ってないからな。そういう土地かと思ったが、どうやら今年は異常らしい。みんな畑の野菜が上手く育っていないと言っていた」


 お父さんが腕組みをしながら、ちょっと安堵の表情を浮かべてる。

 うちの野菜が不作気味なのは、お父さんが農家初心者ってだけじゃなかったみたい。


「なにかの前触れじゃないといいけど」


 サディさんの呟きに、お父さんが眉を潜める。


「縁起でもないこと言うな」

「でもそうじゃない。異常気象のときは、大抵なにかが起きる。大型のモンスターが現れたりとかさ」


 大型のモンスター。

 前に森で襲われたトカゲみたいなのを思い出した。

 でも大型って言うくらいだから、あれより大きな……


「やめろ。アリシアが怖がるだろ」


 お父さんに言われて、自分が深刻な顔してることに気づく。

 笑って首を振る前に、サディさんが「ごめん」と謝ってしまう。


「怖がらせるつもりはなかったんだけど、注意しておいた方がいいと思うんだ。でも大丈夫。何があっても、アリシアちゃんのことは僕とアルが守るからね」

「ああ、アリシアは何も心配しなくていい。流星だってそのうち降るだろう。お祭りの日を楽しみにしていなさい」

「うん!」


 元気にそう答えてはみたけど、不安は拭えない。



 次の日、ナーガさんの家に行った。

 いつも通り修行を始めたけど、魔法が全然上手くできない。

 何回もやり直してると、石の上に腰掛けてたナーガさんが立ち上がった。


「今日はもうやめる」

「え? まだやり始めたばっかりですけど」

「全然集中してない。やる気ないなら帰れば?」


 身が入ってない自覚はあった。

 頭の中は流星やアステリ、お祭りのことでいっぱいだったから。

 食い下がる気力もなくて、家に戻って行くナーガさんの背中を見送る。


 ピーピーと声が聞こえてきた。

 見上げると、ピチとルリとキキがいた。

 何かを訴えるように、激しく鳴いてる。どうしたんだろう。


 動物たちの声が聞こえる魔法を使おうと思ったのに、やっぱり全然集中できない。せっかく安定してできるようになってたのに。

 ピチたちは、魔法を急かすようにしきりに鳴いていた。

 必死で集中して、ようやく魔法が成功。


『フルグトゥルスがくるわ!』

「ふるぐ……なに?」

『フルグトゥルス!』

『大変! 大変!』


 ピチたちが口々に言うけど、なんのことだかわからない。

 ふと、昨日サディさんが話してたことを思い出す。


「もしかして、それって大きなモンスターのこと?」


 と聞くと、ルリが答えた。


『空を駆け抜ける大きな大きな鳥! 森のみんなそう言ってる!』

「フルグトゥルスって、魔王の手下なの?」

『違うわ。フルグトゥルスはフルグトゥルスよ』


 ピチの言葉にキキが震える。


『雨や雷を起こす。怖い! 逃げなくちゃ!』

『アリシアも早く逃げるのよ!』


 そう言って、ピチたちは飛んで行ってしまった。

 フルグトゥルスは大きな鳥。それってやっぱりモンスター?

 でも雨や雷を起こすなら、流星が降るかも!



 なんてノンキに考えてたけど、どうやらそんな甘いモノじゃないみたい。

 帰ってからまた苦労して魔法を使うと、ライラック号が教えてくれた。


『フルグトゥルスは災害を起こすモンスターですぜ!』

「災害!? それが雨や雷のこと?」

『そうでさあ。フルグトゥルスがひとたび暴れ出すと、小さな村なんてめちゃくちゃにされてしまいますぜ。野生の動物は、奴の気配を感じるとみんな逃げちまいちまいますわ』


 前世の世界でいうところの、大型台風みたいな? それだって、かなりの被害が出る。


『いやぁ、アッシも野生の勘が鈍りましたな。ちょいと妙な空気を感じてはいたんですが、フルグトゥルスの気配に気づけなかったとは情けない』

「フルグトゥルスは魔王の手下とは違うって聞いたんだけど、モンスターじゃないの?」

『フルグトゥルスは四大精霊に次ぐ、強力な精霊なんでさぁ。大雨と共に現れ、雷を落とすと言われてますぜ。まあ、アッシも直に見たことはないんですが。怪鳥なんて言われてますから、きっとバケモノみたいな鳥なんでしょうねえ』

「精霊って味方じゃないの?」

『お嬢、精霊は自然そのもの。自然は人間の味方にもなりやすが、脅威にもなるんですぜ』


 前の世界でだって、自然災害はいやと言うほど目にしてる。

 こんなときにお祭りの心配をしてる場合じゃない。

 お父さんたちが旅立った記念日は変わらないわけだし、お祭りは来年もある。


 それよりもし本当にフルグトゥルスが来るなら、みんなに知らせないと!




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