【タイトル】
第91話 流星
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2022-09-03 22:40:37(+09:00)
【公開日時】
2022-09-03 22:40:39(+09:00)
【更新日時】
2022-09-03 22:40:39(+09:00)
【文字数】
1,833文字
【
収穫祭はもうすぐ。
子供たちは街の広場に集まって、アステリランプを製作中。
竹ひごのような細い木で丸い型を作り、周りにアステリに似た黄色っぽい紙を張り付けていく。
たどたどしい手つきの私を、ソフィアちゃんや村の子供たちがあれやこれやと手伝ってくれる。
なんとか完成したそれは、どことなく見覚えがあった。
「お祭りの日は、この中に火を灯して飾るの」
「へえ、すごくキレイなんだろうね」
ソフィアちゃんが掲げて持ったそれを見上げて……思い出した!
これ、ランプっていうか提灯だ。前の世界でよく見たのは、もっと縦に長くて赤くて「祭」とか文字が入ってた。
アステリランプは真ん丸で無地だけど、構造は同じだ。作ったのは初めてだけど。
2つ、3つと作っていくうちに段々と慣れてきた。この調子ならどんどん作れそう!
と思ったけど、手慣れた村の子たちは私が1つ作ってる間にもう3つ目に取り掛かってる。
「みんなすごく速いね」
「これくらい楽勝だよ!」
「今年はいーっぱい作らなきゃだもんね」
ぐるりと円になって座っていた村の子たちが、「ねー!」と声を揃えた。
いつも以上にランプが必要なのは、お父さんとサディさんの結婚式のためだ。
みんなに協力をお願いすると、村で結婚式をするときはいつもやってるからと引き受けてくれた。
30人ほどいる子供たちが5つ6つと作っていくから、必要な量はあっという間にできてしまった。
大量のアステリランプが、広場にずらりと並ぶ。
「結婚式のときって、こんなに作るんだね」
「今年は特別多く作ることにしたの」
誰よりも速く、そして丁寧に紙を貼りつけながらソフィアちゃんが言う。
「アリシアちゃんのお父さんとサディさんの大切な結婚式だもの。特別なものにしなくちゃ」
ソフィアちゃんの目が輝いてる。
勇者様2人の結婚式とか、ソフィアちゃんの書いてる物語実写版だもんね。
わかるよ、その気持ち。
私も、前世では『オレウケ』ってアニメ好きだったなぁ。あの2人の結末は見届けられなかったけど、お父さんとサディさんみたいになってたら嬉しい。
「わあ、みんなすごい! いっぱい作ったんだね」
お祭りの準備に駆り出されてたサディさんがやって来た。
子供たちの仕事はランプ作りくらいだけど、大人は大忙し。
村の商店街の人を中心に飾りつけや屋台の準備で、みんな走り回ってる。
「みんなに教えてもらって作ったの。サディさんは、お祭りの準備もう終わった?」
「まだなんだ。アルが村のおじさんたちと盛り上がっちゃって、ずっと喋ってて手が進まないんだよ。さっき商店街の奥さんたちに『いい加減にしな!』って怒られてた」
ちょっと男子! ちゃんとやって!
ってやつですね。遠い記憶になった学校の思い出が、一瞬よみがえる。
「まだ家に帰れそうもないから、アリシアちゃんもみんなと遊んでなよ」
「うん、そうする」
サディさんはお祭りの準備に戻って行ったけど、さてどうしよう。
ハドリーさんに料理の準備どうなってるか聞きに行きたいけど、今日はお祭りのことで忙しいだろうし。
ナーガさんはあんまり進捗を伺いに行くと、ウザがられて逆効果な気がする。
「アリシアちゃん、一緒に果樹園を見に行かない?」
「果樹園?」
「アステリの木がたくさん植えてある畑なの」
村に来るとき、空から見た場所だ!
もちろん行くと頷いて、ソフィアちゃんの案内で果樹園に向かった。
キレイに整列したアステリの木々は壮観だった。
太い幹が高く伸びて、枝には緑色の艶やかな葉っぱがたくさん茂ってる。
そして、黄緑色の丸い実がたくさんなっていた。
「これ全部アステリ?」
「そうよ。流星が降ると、その光で輝いてあまく熟すの」
すごい! 全部の実が輝いたらイルミネーションみたいだろうなぁ。
でも、お祭りまでもうすぐなのに全然熟してない。というか、私が村に来てから流星なんて降ってないよね。
アステリの木を見上げながら、ソフィアちゃんがため息をついた。
「いつもだったら、もうそろそろ流星が降るの。でも今年は雨も雷もほとんどない。雷雨で空が揺れないと、星が落ちてこないのに」
流星ってそういう仕組みなの!?
こっちの世界ではそうなのか、ソフィアちゃんがそういう物語を作ってるのかわからないけど、とにかく流星が降ってないのは事実。
「流星が降らないと、どうなるの?」
「熟さないまま、アステリの実が腐って食べられなくなっちゃう」
「え、そうしたら……お祭りは?」
ソフィアちゃんが黙り込んでしまった。
お祭りはアステリの収穫祭。収穫できなきゃお祭りができない!