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episode_0089

【タイトル】

第89話 根回し


【公開状態】

公開済


【作成日時】

2022-08-14 18:13:22(+09:00)


【公開日時】

2022-08-14 18:13:25(+09:00)


【更新日時】

2022-08-14 18:13:25(+09:00)


【文字数】

2,607文字


本文135行


 ソフィアちゃんの話では、お祭りで飾るアステリを模したランプは子供たちが作るらしい。

 もちろんソフィアちゃんも私も参加することになるから、それをどうにか結婚式仕様にさせてもらおう。

 今年は誰も結婚式を挙げる予定がないみたいだから、お父さんたちのために作れる。


 という話を、翌朝ライラック号にブラッシングをしながら話した。

 ライラック号は口が軽そうだけど、お父さんもサディさんも言葉がわからないから無問題。


 ブラッシングの終わったライラック号は、ブルっと体を震わせた。


『結婚式とは、最高の考えでさあ。きっと2人とも天まで飛び上がって喜びますぜ』

「でも私、結婚式に出たことないからよくわからないんだよね。飾りつけと指輪と、あと必要なものってなんだろう」

『そりゃあもう、とびっきりのご馳走に決まってますぜ』


 ご馳走! そうだ、結婚式には必要不可欠。


『ハドリーの兄さんに頼めば、きっと作ってくれやすぜ。兄さんの料理は絶品ですからな』

「ハドリーさんって、ライラック号のご飯も作れるかな?」

『兄さんは人間の料理も動物の料理も得意でさあ。何度か兄さんにニンジンのソテーを作ってもらいやしたが、旨いのなんのって』

「じゃあ、それもハドリーさんに頼んでみるね」


 ライラック号の丸い目が、更に真ん丸になった。


『アッシも結婚式に出ていいんですかい?』

「もちろん。ライラック号もお父さんたちの仲間でしょ。今は家族なんだし、一緒にお祝いしようよ」

『お嬢……!』


 ライラック号がヒヒーンと鳴いて、首を私に擦り付けてきた。


『なんて優しいお嬢さんだ。馬のアッシのことも気にかけてくれるなんざ』

「大袈裟だなあ。当然でしょ」


 せっかく外でやる結婚式ならライラック号にも参加してもらわなきゃね。



 お昼ご飯を食べたら、さっそくハドリーさんの家に向かう。

 お父さんたちにはナーガさんのところに行くと言っておいた。ハドリーさんのとこに私だけで行くことなんてないからね。


 カランカランとハドリーさんのお店に入ると、何人もお客さんが座ってた。今日は盛況だな。

 ハドリーさんはすぐ私に気づいてくれて、カウンターの中で片手を挙げる。


「よう、アリシアちゃん。今日は1人かい?」

「こんにちは。あのね、今日はちょっとお話があるの。でも今、忙しい?」

「ああ、ちょっと待っててくれるか」


 どうやらまだランチタイムが終わってなかったみたい。

 ナーガさんにも話をしなきゃだから、先に行ってこようかな。もう午後だから起きてるだろうし。


「じゃあ私、先にナーガさんのとこ行って来る。また後で来ます」

「ナーガのところか? それなら頼みがある」


 ハドリーさんがカウンターから声を張る。


「あいつ、またロクなもん食ってねえだろ。昼ぐらいうちに食べに来いって言ってんのに、全然来やしねえ。アリシアちゃん、ちょっと引っ張って来てくれねえか?」


 サディさんといいハドリーさんといい、ナーガさんのこと心配してるんだな。ホント、手の掛かる弟って感じ。

 仕方ない、連れてくるか。それに、ナーガさんをお店に呼んじゃえば、一度に話ができるもんね。


「いいよ、呼んでくる。素直に来てくれるかわかんないけど」

「大丈夫大丈夫。俺らが言っても聞かねえけど、かわいい弟子の頼みなら聞くだろ」


 いや、絶対そんな風には思ってないと思いますけどね。



 ナーガさんの家に行くと、案の定ドアのカギは閉まってた。

 いつものことだから、お構いなくドンドンドアを叩く。


「ナーガさーん! アリシアでーす! もう朝ですよー! じゃなくて、昼ですよー!」


 相変わらず返事がない。

 代わりに、ピピッピピッと小鳥の鳴き声がした。


 キョロキョロと声の主を探すと、足元にピチとルリとキキがいた。


「こんにちは、みんな。あ、そうだ」


 急いで杖を出して集中した。慣れて来たのか、最近はすぐ魔力が杖に巡るのがわかる。


「汝の声を聞かせよ」


 ピチたちに杖を向けると、ピーピー鳴いてた声が次第に人間の言葉に変わって行く。


『こんにちは、アリシア』

『私とってもお腹が空いたの』

『ごはんごはんー』


 みんなの催促に、ポケットに詰めてきた白パンを取り出す。

 ちぎって手のひらに乗せると、3羽とも我先にとついばんできた。

 最近はみんなにパンをあげるのも日課になってる。いつもパンばっかりだから、今度サディさんに頼んで果物とかも持ってきてあげようかな。


『アリシア、今日も魔法の修業に来たの?』

「ううん、今日はナーガさんと一緒にハドリーさんのお店に行くの。ハドリーさんって街で喫茶店をやってる人なんだけど」

『知ってる! あのお店のクッキーはとってもおいしい。アリシアもクッキーを食べに行くの?』

「2人にナイショの話があるの」

『ナイショのお話?』


 ピチたちにも結婚式の話を伝えた。

 その途端、「ピピー!」と歓声のような鳴き声を上げる。


『結婚式だわ! 収穫祭で結婚式!』

『アリシアが結婚するの!』

『おめでとう! おめでとう!』

「私じゃなくて、お父さんとサディさん。もしみんなも収穫祭に出てこられるなら、見に来てくれる?」

『もちろん行くわ! 収穫祭は大好きだもの!』

『採れ立てのアステリがいっぱい食べられる!』

『おいしい! 嬉しい!』


 アステリいっぱい用意しておかなきゃ。

 なんて話してたら、後ろでドアの開く音が聞こえた。瞬間、ピチたちが飛んで行ってしまう。


「うるさい。寝てられないじゃないか」


 ナーガさんがヌボーっと出てきた。

 機嫌悪そうな顔してるけど、そんなのもう慣れっこ。


「寝てないでください。お昼過ぎてますよ」


 ガシガシと面倒くさそうに頭を掻いてから、パチンと指を鳴らした。あっという間に、いつものローブ姿。

 そのまま魔法食を取りに行こうとするので、待ったをかける。


「ハドリーさんがお昼を食べに来いって行ってましたよ。呼んで来るように頼まれて」

「はあ? 修行しに来たんじゃないの。師匠に騙し討ちなんて、いい度胸だ」

「騙してなんていません。たまには外食しましょうよ。おいしいご飯作って待っててくれてるんですから。ほら、早くー」


 手を引っ張ると、すごい勢いで振り払われた。


「子供っぽいことするな。気色悪い」

「じゃあ大人しくついて来てください。じゃないと、子供っぽくダダこねますよ」

「……これだからガキは嫌いだ」

「自分から弟子にしたくせに」

「それはキミが中身は大人だと思ったからだ。転生してるだけで、中身もガキじゃないか」


 チッと大きく舌打ちされたけど、軽く受け流しておきます。大人ですから。




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