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episode_0082

【タイトル】

第82話 帰宅


【公開状態】

公開済


【作成日時】

2022-06-18 19:00:07(+09:00)


【公開日時】

2022-06-18 20:03:26(+09:00)


【更新日時】

2022-06-18 20:03:26(+09:00)


【文字数】

1,768文字


本文107行


 サディさんとナーガさんが帰ってきたら、みんなで夕食を食べることになっていた。

 集合場所は安定のハドリーさんのお店。


 ハドリーさんがカウンター越しに身を乗り出す。


「毎晩外食とは豪勢だねぇ。お父さんは料理作ってくれないのか?」

「お父さん、切る専門なの」

「はっはっはっ、アルは魔物もよくみじん切りにしてたからな」

「先輩、アリシアにそんな話やめてくださいよ」

「ま、うちとしては常連さんが増えるのは有り難いんだが」


 座っていたカウンターの椅子をくるりと回転させ、お父さんが店を見渡す。


「今日、誰もいないんですね」

「閑古鳥鳴いてるみたいに言うなよ。今日はお前らが来るってんで貸切にしてやったんだぞ」

「え? 俺、騒ぐほど酒は飲みませんよ」

「お前のためじゃねえよ。ナーガがいるだろ。あいつ、周りに人がいたら嫌がるからな」


 そういえば、飲み会とかそういう場所は嫌いなんだっけ。そもそも食事自体嫌いそうなのに、一緒に食べてくれるんだろうか。



 7時を過ぎ、8時も過ぎた。

 予定してた時間になっても2人は帰ってこない。

 お腹はグーグー鳴るし、それ以上に心配だ。お父さんなんて、椅子から立ったり座ったり、落ち着かないようにぐるぐる店中を歩き回っていた。


「ちょっと遅くないですか?」

「そうだなー。メシ冷めちまうってのに、なにやってんだか」

「道に迷ってる? でも2人とも魔法使えるのにそんなことは……」

「サウザンリーフまで行ってるんだったな。そういや、あの辺魔物が出るとかって噂になってるぞ」

「え!?」

「魔王の残党らしい。襲われたやつもいるとか……」


 サッとお父さんの顔が青ざめた。私までドキドキしてくる。

 でも2人とも魔王を倒してるんだし、魔法だって使える。万が一魔物と鉢合わせたって……


「俺、ちょっと見てきます! アリシアをお願いします!」

「あ、おい!」


 お父さんが店から飛び出そうとした瞬間、カランカランとドアベルの音が鳴った。


「アル、ただいま」

「サディ!」


 人目も気にせず、お父さんがサディさんを抱きしめた。


「ちょっとアル、みんな見てるよ? 一晩離れてたくらいで、こんなに熱烈歓迎してくれんの?」

「遅かったじゃないか!」

「向こうを出るとき土砂降りでさ、雨宿りしてたら少し遅くなっちゃって」


 お父さんの背中をサディさんが優しくさすった。


「心配した?」

「……したに決まってるだろ」

「ごめんね」


 よしよしと、サディさんがお父さんの頭を優しく撫でる。


「サウザンリーフまで遠いけどそんなに大変な道でもないし、心配し過ぎだよ。魔物が出るわけでもないんだからさ」

「いや、出るってハドリーさんが!」


 ハドリーさんがカウンターの中でゲラゲラ笑い出した。


「聞けよ、サディ。『魔王の残党が出るらしいぞ』って言ったら、こいつ本気にしやがって」

「な……っ! 嘘だったんですか!?」

「嘘に決まってんだろ。魔物なんざ、俺たちが片っ端から片付けただろ。それに、万が一いたとしてもサディとナーガがやられるかよ」


 ハドリーさん、ホントにお父さんをからかうのが好きなのね。私まで巻き添えなんですけど。

 お父さんから放れたサディさんが、カウンターにバンと手をついた。


「あんまり俺のアルをからかうの、やめてもらえますか?」

「おお、怖。わーったよ」


 サ、サディさんの目から光が消えてる。っていうか、『俺のアル』って!


 ハドリーさんを脅し終わったサディさんは、いつもの笑顔を私に向けた。


「ただいま、アリシアちゃん」

「お帰りなさい! サディさん」


 抱き上げて、ギュッと抱きしめてくれた。


「アルは僕がいなくても大丈夫だったかな?」

「ううん。お父さん、サディさんがいなくてすっごく寂しそうだったよ」

「こ、こら! アリシア!」


 あんなにラブラブっぷりを見せつけておいて、今更何を恥ずかしがっているのやら。


 と、またドアベルの音が鳴った。

 見ると、ナーガさんがドアに手を掛けてる。


「僕もう帰るから」


 ずっとほったらかされて痺れを切らしたらしい。

 口をへの字に曲げて、不機嫌オーラ大放出中。これは大変だ。


 ハドリーさんがカウンターの中から、料理のお皿を持ち上げる。


「待てよ、ナーガ。お前の分もメシ用意してるんだ。食ってけ」

「僕は……」

「ナーガさんも一緒に食べようよ!」


 ナーガさんに駆け寄ってその手を取る。

 すっごい顔をしかめられたけど、気づかない振りをして店の中まで引っ張り込んだ。





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